鳥がいきなり空から落ちてきたら
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:飯髙裕子(ライティング・ゼミ2月コース)
「なんか落ちたで」「すずめやな」「死んでるんやろか?」
隣のお客さんと美容師さんの会話が、私の耳にも入る。
鳥が落ちる? 何事なのかと私も席を立って外を覗いてみる。
網戸の向こうに、小さな体が横たわってピクリとも動かない。
美容師さんは慌てて「どうしよう。私触られへんわ」
お客さんも同じように慌てている。
「あのぅ、私どこかに移動させましょうか?」
そう言いだすと、二人とも驚いたように「飯髙さん触れるんですか?」ときた。
いやいや、鷹とか鷲とかそんなすごい鳥ならちょっと考えるけど、目の前にいるのはひよこより小さな雀だし……。
そのままそこにいたら具合悪いだろうと思い、ビニール手袋を借りてどこかに移動させることにした。
アシスタントの女の子まで駆り出され大騒ぎになっていた。
野生の鳥は、人間の匂いが付くと親鳥が育てなくなるというのをつばめのことで聞いたことがあったので、一応手袋を借りることにしたのだ。
外に出るとまだ、スズメは動いていない。そっと手のひらに拾い上げて乗せた瞬間その温かさに頭の中に渦巻いていた思いがすべて吹き飛んでしまった。
うっすら目を開けているし息もしている。
まだ生きている。そう思ったら何とかこの小さい命を助けたい。そのことしか考えてなかった。
「どこに移動させましょう?」そう聞きながら、答えを待つまでもなく、私の足は向かい側の公園に歩き始めていた。
どこか安全な場所に連れて行ってあげなければ……。
木陰の草が生い茂っているところまで連れていきそっとおろすと、スズメは奇跡的に自分の足で立ち上がった。
良かった! 生き返った! ホッとして、私は美容院に戻り、みんなにそのことを告げた。
戻って初めて我に返った私は、自分の格好を思い出してぎょっとした。
頭にカラーをしている状態で、ケープもかけている。
今公園を行き来する間に車ともすれ違ったではないか。
多分私を見た人は何事かと思ったに違いない。
あーあ。なんてことだ。
けれど、スズメは助かったし、まあいいか。
これが人間だったら、たちまち大騒ぎになり、救急車を読んだり警察沙汰になったりと大変な事態だったに違いない。
でも、小さな雀の命も同じなんだと、思うのだ。
手にするまでは、死んでたらどうしようとか、そんなに深く考えていなかったのに、その体のぬくもりを掌に感じた瞬間に何か電気に打たれたような衝撃が走ったからだ。
命の重さとエネルギーが伝わってきたような気がした。
だから、頭で考える思考が吹き飛んでしまったのかもしれないと思った。
普段、スズメを触ることなんてほぼないし、動物を触るという経験は、せいぜい犬や猫くらいのものだ。
まして私はペットを飼っているわけでもない。
そんな私でもこんな気持ちになるというのは、やはり命の重みというのはすごいものなんだなと改めて感じたのである。
普段私たちは、生きていることの大切さを、深く考えて過ごしているだろうかと思うとあたりまえに過ごしていて、そのありがたみを知るのは具合が悪くなったときではないかという気がする。
動物も、自分の身近にいない限りその命の重さに気づくことは少ないのかもしれない。
けれど、命には限りがあり、失ってしまったら、取り戻すことはできない。
もっと大切にしないといけないものなんだと思う。
生きてるって奇跡的なことなんだから。
美容院に戻って、スズメが生きててよかったと誰しもがホッとしたし、なんで落ちてきたんだろうという疑問もあった。
鳥は空を飛んでいるのが普通で地面に降り立つことはあっても、落下することはあまりないと思うからだ。
電線の電気に運悪く触って感電したのか、理由はわからないが、一瞬脳震盪でも起こしたのかもしれないと思った。
その少し後に美容師さんが「飯髙さん雀がお礼に来てますよ」と言った。
美容院の庭に雀が一羽降り立ってじっとしている。
隣のお客さんは「同じ鳥かわからんやろ」と言ったが、「ぜったいそうやって」と美容師さんは力説している。
物事はいい方にとらえるものだと言うのだ。
まさかさっきの雀ではないだろうと思ったのだが、あまりにもタイミングが良くて、思わず雀の恩返しの話を思い出してしまった。
そんなことを考える私はまだまだ命の重さを理解してないなあと思わず苦笑してしまう。
けれど、小さなつづらの代わりにもっと素敵なプレゼントをもらったような気がしてなんだか胸があったかくなった。
願わくば、落下する鳥にはもう出会いませんように。
***
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