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一足先に夏がやってきたのかもしれない

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本三景(ライティング・ゼミNEO)
 
 
誰もが共感できるもの、それは「季節感」ではないだろうか。
話に困ったら、とりあえず季節の話をしておけば間がもつ……なんてよく言われているが、そもそも季節感がズレていたらその常識は通用しない。
 
「今日は暑いですね」
「今日は寒いですね」
 
そんな当たり前の会話も季節感がズレていると成り立たない。
そう、私は季節感のない大人が少し怖い。
 
たとえば冬。
雪が降りそうな寒い日に、コートを着てマフラーをしているにもかかわらず、足元がサンダルの女性がいる。
 
もし、マフラーを巻いていなければ、一緒に住んでいる彼と喧嘩して、思わずサンダルで出てきてしまった……そんなことが彼女にあったのかもしれないと想像できたかもしれない。
しかし、彼女はマフラーを巻いている。
しかも、手の込んだ巻き方で巻いている。
これは、あえてのサンダルと私は考える。
 
たとえば夏。
真夏日一歩手前の暑い日に、足元はサンダルなのにダウンを着ている男性がいる。
 
きっとダウンが必要なほどの寒がりなのかもしれない。
いや、きっと昔の刑事ドラマの刑事のように、ダウンが彼のトレードマークなのかもしれない。
刑事コロンボのヨレヨレのトレンチコートしかり。
古畑任三郎の黒いジャケットしかり。
しかし、キラリと光る肩のブランドマーク……
やはりあえてのダウンと私は疑う。
 
自分が常識を持っているとは言わないが、「季節感」というものはある種の安心感を与えてくれる。
少しぐらいの季節の先取りはおしゃれとしてあると思う。
しかし、明らかに季節が違うものを身につけている人をみると、なんだか少しビビッてしまうのだ。
 
そんなふうに思っていた私だが、まさか自分が同じことをすることになるとは思いもよらなかった。
 
5月のある日、警報級の大雨になるので警戒するようにと、天気予報で呼び掛けていた。
「濡れてもいい靴でおでかけください」
天気予報のお兄さんは言う。
後ろからお姉さんも追随してあおってくる。
どうやら土砂降りになるらしい。
不要な外出をさけるようにと忠告するぐらいだ。きっとすごい雨になるのだろう。
外をみるとまだ雨はポツポツと降ってはいるが、傘をささなくてもいい程度の弱い雨だった。
午後になるとひどくなる。
スニーカーは濡れると雨が染み込んで気持ち悪い。
雨用のパンプスも持っているが、ヒールがなく、ぺったんこなので土砂降りには向かない。
一番いいのは長靴かもしれない。
しかし、まだ雨が降っていないうちに長靴を履くのは躊躇する。
台風ではないし長靴はやめておこう。
他にいい靴はないか……
そして、私はひらめいた。
 
「KEEN」のサンダルにしよう!
 
「KEEN」のサンダル、それは夏の定番のスポーツサンダルだ。
つま先は覆われているが、川の中でもバシャバシャと入っていけるような水陸両用で着用できるサンダル。
機能性はもちろんのことデザイン性もある。
夏になると私はこのサンダルばかり履いている。
ずぶ濡れになってもかまわない靴とはこのことだ。
夏はもうそこまで来ている。
きっと履いてもおかしくないはず。
そう判断し、「KEEN」を履いて会社へ向かった。
 
しかし、信号待ちをしている人の足元をみると、サンダルを履いている人は一人もいない。
まだ、雨も降っていない。
しかも外は肌寒かった。
急に自分の足元が浮いてみえた。
 
これはもしや、私が季節感のない人になっているのではないだろうか?
 
そう思うと一気に恥ずかしくなった。
その日の地下鉄は満員だった。
私は「よしっ」と思った。
人が多すぎて足元がわからない。
もはやネガティブすぎてポジティブになっていた。
地下鉄を降りて出口へ向かう人々の足元をみると、やはりサンダルは私一人だけだった。
 
会社まで行けば会社用の靴に履き替えられる。
それまでどうか会社の人に会いませんように。
 
そう願いながらいつもより早歩きで駅から会社へ向かう道を歩いた。
そして会社へ到着し、エレベーターがまるで私を待っているかのように1階で待ち構えていた。
 
よかった! 知っている人に会わずに到着した!
 
まるで何かのミッションを完遂したかのような気持ちだった。
そして、何食わぬ顔で靴を履き替えた。
 
ああ、季節感のない人が怖いなんて言ってごめんなさい。
 
自分の言葉が自分に返ってきた。
何てえらそうなことを考えていたのだろう。
何を身につけようが自由じゃないか。
きっと、自分の足元が気になった私は、必要以上に他の人の足元をみてしまい、挙動不審な行動をしていた気がする。
それこそ怖い人である。
季節を間違えた! そう思っても、堂々としていよう。
そんなふうに反省していたら、帰る頃には水たまりができるぐらいに雨が激しくなっていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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