メディアグランプリ

一瞬を写す鏡、その中に映る私は


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:玉置裕香(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
『……写真を撮られると、変な気分になるんです。
……自分を、切り取られるような。自分の本性を、奪われるような。
……写真に、出てしまうのです。本当のその人の姿が』
 
写真に写ったら魂を取られるよ。真ん中の人はとくに。
幼いころそんな言葉を友達から聞いた。
嘘か本当かわからなかったが、当時その言葉が怖かった。それからだと思う。写真を撮られるときに端っこにいくようになったのは。
 
写真に写った自分を見るのが嫌になったのはいつからだろう。
 
中学の頃には近視になって、メガネがないと細かなものはぼんやりとしか写らなくなった。
メガネの私はかわいくない。
そう思って、できるだけ日常生活では裸眼で過ごしていた。
朝起きて、顔を洗って。鏡の前の自分に笑顔を向ける。
その顔を私、と認識していた。
中学高校の頃は遊んだ帰りはプリクラを撮ることが普通であった。仲良しの友達と一緒に撮る。
かわいくとれていなくても、ニキビが顔にできていても、あの手この手で修正ができる。お絵描きもできる。
私ではない、私が作りあげられていく。
 
高校卒業のときだった。同じ吹奏楽部の友達と、高校最後の写真を撮った。
その時の写真は今でも覚えている。
みんなでピースをしながら、かわいい笑顔をカメラマンに向けていた。
その中で、私はひとり、左の頬が引きつり、目は半分閉じて、微妙な表情であった。
笑っていたつもりだったのに……。
どうやら私はカメラに向けて“上手く”笑えていなかった。
近視はひどくなり、見るために目を細め、引きつった笑顔となっていた。
初めて、私の中のイメージする私と、客観的に捕らえた私、のギャップに落ち込んだ。
だからと言って、努力はしなかった。
見たくないものに蓋をするように、私は写真嫌いとなった。
 
大学生になって、知り合った人たち、数少ない親友、家族とのたくさんの思い出を写真に納めることはほとんどなかった。時折、誕生日やサークルのイベントで写真を撮った。私は隅のほうでどんな表情をしていいかわからないような顔をしていた。
本当に楽しんでいるの?
自分にそう言いたくなるような顔ばかりだった。
ますます写真が嫌いになった。
 
社会人になって、6年目のときだった。
引っ越しのため引き出しを整理していた。写真嫌いな私は、もらった写真を引き出しの中に突っ込んでいた。
高校卒業から今までの写真たち。
そこにはもう会うことのできない人。卒業以来、遠く離れ、誕生日の時にしか連絡をしなくなってしまった友人。小学2年生の時に飼って、最後は心不全で歩くこともできなくなった犬。年をとって、小さな背中となってしまった両親。
思い出の写真には、不機嫌を隠そうともしない私。変な顔をする私。いくつもの顔があった。
捨てようかな、と思った。その中で、一枚の写真を見つけた。
私の視線はカメラに向いていなかった。でも私はくしゃくしゃな顔で笑っていた。
私ってこんな顔をして笑うんだ……。
とても楽しそうな一枚だった。
 
そう思った瞬間。捨てようと思った写真たちをもう一度見返してみた。
あの時の記憶が戻って来る。忘れていた、日常のささいな出来事。もう会うことも、戻ることもできない時間。
ああ、もっといい表情で写りたかった。
ぽろぽろと涙を流しながら思った。
でも過去には戻れない。
 
今、私はある書店のフォト部に来ている。
今日で2回目だ。
前回は自分を写してもらうのに恥ずかしさが勝っていた。
その時はカメラにどんな表情をしてよいのかわからなかった。カメラマンやスタッフが緊張をほぐそうと色々声をかけてくれる。少しずつ緊張はほぐれるも、自分を曝け出すのは難しかった。
その場には一緒に撮った女の子たちがいた。
スタイルの良い子。肌のきれいな子。皆が若くて、美しい。まだあどけなさも残る子もいた。
順番に写真を撮ってもらう。
カメラの前では。女の子たちが、さきほどまでは全く違う顔をしていく。
キレイ……。
素敵……。
あんな風になりたい……。
女優のように華やかに、まだ内に秘めた自分を出すかのように、次々とサナギから蝶へと飛び立っていく。
 
私の中で、何かがぷつっと切れた。
そう私は自らをしばりつけていたと気づいた。それは何か?
誰かと比較して、理想の自分と比較して、目の前に写る自分が醜いと勝手に思っていた。
ありのままの自分でいいのだ。
そしてもっともっと素敵に変わっていける。
自分が望めば……。
 
写真は私にとって真実とは異なる世界と思っていた。
 
『僕が欲しいのは一瞬だから。その蝶の、一瞬が欲しいのだから。
でもその蝶にとって一瞬は、無数にある。僕はその全てを、撮ることはできない』
 
 
ありのままの私。つくった私。無意識の私。
無数の私がいる中の、ほんの一瞬。
写真はその一瞬を切り取ったもの。
あの瞬間にはもう戻れない。取り返せない。
ならば、今を楽しむしかないんじゃない?
 
さあ、今日の私はどんな顔をしているだろう?
 
 
 
 
本文中の『』内は、「去年の冬、きみと別れ」 著書:中村文則 より引用
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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