メディアグランプリ

アザだらけの母の愛


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記事:北見 綾乃(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
イテテっ……。
 
ちょっとした作業でたまに鈍痛が走る。見ると左手の人差し指、さらに親指と小指の第一関節がどす黒く変色している。そうだった。アザができていたのだ。こんなところにアザを作ったのは初めてだという気がする。ほかにも腕の内側やスネなどに何ヶ所か。今、私は全身アザだらけである。
 
犯人は、フライングディスク(フリスビー)だ。
 
大学1年生の次男が今春アルティメット(フリスビーフットボール)のサークルに入った。自主練習をしようとフライングディスクを買ってきたのはいいが、一人では思うように投げられない。お願いだからつきあってほしい、と言ってきた。自他とも認める運動オンチのこの母に、相手を頼むというのはよっぽどのことだと思われる。ここは一肌脱いでやろうと、できるだけ人の少ない朝のうちに、息子を連れて近所の大きな公園へ向かった。
 
周りに人のいない開けた場所を探してリュックを置き、二人とも両手にグローブをはめる。
 
「バックハンドがどうしてもうまく投げられないんだ」
真新しいフライングディスクを取り出しながら息子は言う。
 
フライングディスクの投げ方には様々あるらしい。ごく基本の投げ方でもフォアハンドスロー、バックハンドスローがある。彼は、フォアハンドは比較的うまく投げられるが、バックハンドが安定しないというのだ。
 
まずは息子に投げ方のイロハを簡単に教えてもらい、ひたすら投げ合った。しかし、不器用な私は暴投の連続……!
 
「うわっ、変な方向いっちゃった。ごめんごめん!」
 
謝り通しだったが、息子は
 
「大丈夫。とにかく投げる練習ができればいいから」
 
と、いたって優しい。そして投げ方のコツも彼なりに教えてくれようとする。
 
“投げては取る”の繰り返しを行うだけだが意外と楽しく、気が付けばあっという間に2時間近くがたっていた。これだけやっても私の方はあまり上達が見られなかったのだが、ある瞬間を境に突然、彼から投げられるディスクの軌道がものすごく安定しだした。投げるフォームが明らかに変わり、いかにも「経験者です」という雰囲気になった。何より非常に取りやすい。
 
「どうしたの? 急にいい感じじゃん!」
 
「先輩の投げ方を試しにモノマネしてみたんだ。 距離は出ないけど、すごくコントロールがしやすい!」
 
先輩の投げるフォームやタイミングを思い出して真似をしてみるというのが、彼にとって大きな突破口になったようだ。
 
アルティメットは敵味方7名ずつに分かれ、100×37m四方のコート両端にあるゴールラインまで、パスでつなぎながらフライングディスクを運ぶ競技だ。得点するには決してディスクを落としてはいけないため、味方へのパスのコントロールが非常に重要となる。
 
「コツがつかめた気がする!」と喜ぶ息子を見て、私もホッと胸をなでおろした。
 
よかった。あちこちに暴投してしまい、果たして練習になったのだろうかと不安だったけれど、最終的に少しは息子の役に立ったらしいということが何よりうれしい。
 
帰りがけ、つけていたグローブをとると、左指があちこち痛いことに気づいた。関節が青紫に変色して膨れ上がっている。ディスクをうまく取り損ねたときにぶつけたのだろう。正直痛い。しばらくは何かと不便かもしれない。でも、息子のためになったのならこのくらいなんてことはない。
 
なんだかんだ言っても、どんな形であれ我が子達の役に立てるのはうれしい。それが親という生き物の根源的な喜びのツボかもしれない。
 
 
そこで、ふと思う。
 
私の両親も、もしかして私に対してそう思ってくれているのだろうか?
 
思い返すと昔から、よく「余計なおせっかいだ」と言って、親の世話焼きや支援を拒絶してばかりしてしまっていたようにも思う。どちらかというと独立心が強く、甘えるのが得意ではない私。知らず知らずのうちに、親からの好意を踏みにじってしまっていた可能性もある。
 
もしそうだとしたら、親に何かを《してあげようとする》といういわゆる親孝行のほかに、今からでも気軽にできることで《甘える》という形の親孝行を考えてもいいのかもしれない。改めて、そういう方向で考えたことは、これまでなかったな、と思う。
 
今更親に甘える、というのは難しい気もするが、「一緒にランチ行きたいから付き合って」とか、「こういうことしたいけれどアドバイスもらえるかな」とか、きっとそういう甘えならお互い気楽だ。
そんな形でまず連絡をとってみよう。
 
喜んでくれるかどうかはわからないけれど、少なくとも私は息子たちに言われたらうれしいだろうな、ということを試してみればいい。
 
 
さて、次男が今後、また懲りずに私に練習を付き合ってほしいと頼んでくるかどうかはわからない。しかし、あれからYouTube動画でフライングディスクの投げ方講座をチェックし始めた。今度やるときにはもう少し息子の練習が効率的にいくよう、こっそり勉強とイメージトレーニングをしておこう。また、上手に投げるには手首のスナップも必要だ。ひそかに手首も鍛えておかなければ。
 
我がことながら健気であるな、母の愛は。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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