メディアグランプリ

ずっと避けてきた、筆と向き合う時がきた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飛鳥(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
友人の結婚式の受付に、記名したご祝儀袋を握りしめて並ぶ。
同じく参列している人の持っているご祝儀袋を横目で見ると、淡いピンク地のご祝儀袋の真ん中に綺麗な文字で記名されている。その達筆を羨ましく思いながら、そっと自分の書いた文字を隠す。
 
こんなことはもう何度目だろう。自分では丁寧に記名したつもりなのに、なぜか仕上がりはメリハリが無くずんぐりとした文字になってしまう。この文字が自分にとってコンプレックスになっているのだ。
 
字が特別下手なわけではない、とは思う。
教育熱心な親の影響で、幼いときから硬筆を習っていた。鉛筆で書いた文字を添削してもらう、そのプロセスを通して、文字を書くことに対してはどちらかと言えば得意だという思いすらあったはずだ。
 
だが、筆ペンに対してどうも苦手意識があるのである。
 
思えば、私と筆の出会いは小学3年生のときだった。
学校の授業に「書道」が加わり、その時間は自分で墨を磨って、指定された課題の練習を行う。
 
まず、墨を磨って墨汁を作るのが、当時握力の低かった私にとっては鬼門だった。
どれだけ一生懸命墨を磨っても、筆に付けて半紙に文字を書くと、黒ではなくグレーの文字が水に滲んで浮かび上がった。
何度やっても文字が滲んでしまい、思うような形の文字はとても書けなかった。
 
半紙を抑えていた文鎮が机の下の床に落ちてしまい、身体を屈めて拾っていたら、墨の付いた筆が机の上から私の背中をめがけて落ちてきた。
制服着用が義務付けられている小学校だったのだが、私の制服の背中は墨の黒い跡だらけになってしまった。
 
墨汁の汚れというのは、洗濯してもなかなか落ちない。母が懸命に漂白をかけてくれたものの汚れは落ちず、それからしばらくの間、私は「書道の時間に制服を汚してしまった子」として、事情を知らない他のクラスや他の学年の生徒の好奇の視線に晒された。
 
この結果、完全に書道が嫌いになった私は、週1回の書道の時間をひっそりと耐え忍ぶことだけに注力するようになった。高校に入って書道が選択科目になると知ったときは、嬉しくて飛び上がったほどである。
書道と別れを告げたあと、私は筆とは縁のない人生を送る、はずだった。
 
そうは行かないということにやっと気づいたのは、結婚式へ参列する機会が増えたこの歳になってからである。正確には筆ペンなので書道とは異なるが、筆と縁のない人生を望んできた私にとっては同じようなものだ。
 
このコンプレックスを克服しよう。筆ペンで書いた名前の文字を隠すようにして持っていたご祝儀袋を受付係に差し出しながら、私は決意した。
 
思い立ったら行動が早い私は、体験授業を実施している筆ペン教室を探し、早速申し込んだ。
 
5人ほどが座れるような小さめサイズの綺麗な部屋で、簡単な説明を受けると筆ペンと課題用紙を渡されて練習を始める。他の受講生と同様に、課題に取り組むときは静かに机に向き合って集中する。
 
ウォーミングアップとして、お手本にあわせて真っ直ぐの線、ギザギザの線、緩いカーブの線を書いていく。書き慣れたシャーペンやボールペンと違い制御が効かず、真っ直ぐな線を書いているはずなのに、曲がった線や太さがまちまちの線になってしまう。
 
1時間ほど線や「はね」、「はらい」の練習をしたあと、簡単な文字も書いてみる。書き続けることで少しはペンの制御も効くようになってきたが、そんなにすぐに文字が上達するわけがない。しばらくは練習が必要そうだ。
 
筆ペンで文字を書く時は「たて画」「よこ画」の太さにメリハリをつけるのが大切だという。また、「はらい」の線や曲線を書く時は、一画の中でも細い部分と太い部分を作るように意識することが重要で、このようなメリハリは筆圧を調整することで生み出すそうだ。
 
たしかに筆ペンで書かれたお手本をよく見てみると、太い線で書かれている部分と細い線で書かれている部分がある。自分はこんな基本的なことも知らなかったのか。
線の太さを意識して書いてみると、自分の文字に少しメリハリが生まれた。
 
そうして筆ペン練習を始めてから早くも2カ月が経つ。ペンの扱いにも慣れ、稀にではあるが満足な文字を書けることもある。
 
机に向き合って文字を書くには集中力が必要だ。必死に文字を書いているうちに、仕事の辛さも日々の忙しなさもどこかに飛んで行ってしまう。そして課題が書きあがると、一仕事終えたような爽快感が私を包むのだ。
 
小学生のときの書道の時間は、こんな爽快感を感じたことなど一度もなかったのに。
 
きっと当時は、毛筆の面白さを知るには幼すぎたのだろう。
コーヒーの美味しさが幼い頃の自分にはわからなかったのと同様に、筆ペンと向き合う時間も今だからこそ楽しめるものなのかもしれない。
子供の頃には楽しめなかったあの時間を、いまの私は存分に満喫している。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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