組織文化とは組織の生存戦略である
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記事:佐竹宏範(ライティング・ゼミ4月コース)
組織には、その組織の文化がある。
「トップダウンで決まる」「失敗を恐れる」「長時間労働」など、悪いと言われるような文化もある。
でも、文化によいも悪いもない。文化は、その組織が置かれた環境で培われてきた生存戦略である。
例えば、熱帯に住む民族には防寒着という概念はない。逆に、イヌイットは水泳という文化を持っていないと言われている。これは、それぞれの気候を考えれば当然のことである。環境に合わせて、文化がつくられている。
一方で、同じような環境であっても、全く別の文化が育つこともある。例えば、同じような気候でも、家のつくりが全く違うこともある。これは、それぞれの民族が暑さと寒さどちらに対応することをより重要に思ったかによるとのことである。
いずれにしても、どのような環境のなかで、どのような戦略で生き延びて来たかが文化に反映される。
組織の文化も同じである。いま存在している組織というのは、与えられた環境のなかで、独自の方法で生き延びて来た組織ばかりだ。
一見すると、悪いように言われる「トップダウンで決まる」「失敗を恐れる」「長時間労働」のような組織文化も、それがあったから組織が生き延びることができた。
例えば、ある会社は社長の才覚でここまで成長して来た。
最初はなかなかうまく行かなかったけれど、それこそ昼も夜もなく働いて、実績のないところからようやくあるお客様に認められ、そこから信頼を得ることができ、事業の成長につながった。そこに至るまでに、昼間は自分の工場で製品の製造を行い、自分の工場にない設備を使わせてもらうために、夜に他の会社の使っていない工場の設備を借りて生産し、終わったら駐車場で寝て、翌朝また自社の工場で製造するという日々を繰り返したという。このような武勇伝が世の中にはたくさんある。
このような苦労をして、ようやく勝ち筋を見つけると、今度はその勝ち筋をいかにうまく実行できるようにするかというのが次のステップとなる。成功したパターンをいかに効率的に再現していくかである。そのとき一番よく理解しているのは社長だ。必然的にトップダウンとなる。なぜなら、勝ち筋がわかっている場合は、その勝ち筋を効率よく実行するのが効果的だからだ。
そして、勝ち筋がわかっている場合、重要なことは間違いなくその勝ち筋の通りに実行し続けることである。なので、ミスはできるだけ避けなければならない。ミスなく効率よく実行することが、利益に直結する。いかにミスなくできるようになるか、というのが重要な論点となる。
こうして、効率よく勝ち筋を実行できるようになると、売上はどんどん上がってくる。やればやるほど儲かる状態だ。すると、前述した社長の武勇伝も相まって。長時間労働は状態化する。
このようにして得た成功体験が、例え状況が変わったとしても、「トップダウンで決まる」「失敗を恐れる」「長時間労働」の文化として残る。これは、組織が置かれた環境のなかでの生存戦略の結果として生み出された文化である。
しかし、環境の激変によって、かつての生存戦略としての文化は、組織を滅ぼす要因となってしまう。例えば、デジタルカメラの登場によって、写真フィルムは大きく衰退した。これまで、写真フィルムをいかに効率よく売るか・作るかに特化していた組織が、その環境の変化に適応できなければ、生存することはできない。
文化を環境の変化に合わせて変えることができるのか?
例えば、世界には飲酒の文化を持たない民族がある。気候条件などで、酒の発酵に適さない地域などである。そのような民族に、酒が持ち込まれると、そもそも酒の飲み方の文化がないために、時も場所もなく、文字通り酒に飲まれるようなことが多発するという。
では、組織の文化はどうだろうか?
これまでの勝ち筋がうまくいかなくなったときは、新しい勝ち筋を見つけなければいけない。創業時に社長がやったように、なにか新しい成功の種が見つかるまで、いろいろなことを試し続けなければならない。しかし、そのようなことは社長しかやったことがない。いまの組織のなかでは、トップダウンで言われたことうまくやることができるメンバーが優秀と評価される。そのため、新しい成功の種を探すことできるようなメンバーはいない。しかし、会社が大きくなったいまとなっては、そのような役割を社長だけが担うわけにはいかない。なんとかして、組織として対応したい。
そのとき従来の組織文化が邪魔をする。これまでは、トップから言われたことをやることが重要だった。それに対して、今度は自分で見つけ出さなければならない。これまでは、失敗しないことが最も大切なことだった。それに対して、今度は失敗をたくさん積み重ねなければならない。
まったく正反対の文化である。
最初は酒に飲まれるのと同じような、大混乱が発生するだろう。でも、それを続けるうちに、きっと新しい酒の飲み方の文化が生まれる。
変化の激しい時代と言われている。変化を乗り越えるためには、劇薬が必要だ。
最初はまったくうまくいかないことばかりになるのは当然だ。それでもそれを乗り越えたところから、新しい環境に適した文化が生まれる。
先述のある会社でも、変化の過程のなかで、阿鼻叫喚の真っただ中である。でも、それを乗り越えなければならない。阿鼻叫喚のなかから、新しい文化が生まれつつある。ときに消えそうになり、ときに盛り返し、一進一退を続けている。うまくいったことができたとき、新しい文化が生まれ、新しい環境のなかで生き残ることができる。
組織の文化は、その組織の生存戦略である。
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