メディアグランプリ

愛しの怪獣ちゃん~オモチャという名の美しきもの


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記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
ある話題が上がったとき、それを熱く語ることで歳がバレるということがある。例えば漫画やアニメがそうだ。これほど年齢を晒すコンテンツがあるだろうか。調子にのって懐かしのアニメ談義なぞしていたら「そんな歳なの!?」と言われかねない。だが、今日はあえて語ろう。私はファーストガンダム世代だ。ガンダムといえば、ターンエーだのシードだの言っているヒヨッコは我が前にひれ伏すがよい。
 
映画「シン・ウルトラマン」を見た。心待ちにしていた映画だ。わざと匂わせてくる昭和の香りがたまらない。私はアニメや特撮モノが大好きな子供だった。魔女っ娘も好きだったが、私が一番愛したのは「怪獣」だ。いわゆる、じゃない方。ヒーローじゃない、やられ役の方。幼心に思っていた。いつもヒーローが勝ってつまらない。怪獣がかわいそう。怪獣にだって怪獣の生活(?)があるのに。私だけは怪獣を応援するぞ!
残念ながら「シン・ウルトラマン」には懐かしの怪獣は登場しなかった。それでも子供のころのワクワク感を思い出すのには十分だった。思いを馳せるのはやはり怪獣たち。そして、私の一番大切な、オモチャの怪獣のことを思い出した。
 
子供のころのオモチャは、今ではプレミア価格がつくソフビのウルトラマンや怪獣だった。断っておくが私は女子である。祖母からはリカちゃん人形を与えられたが、私は目もくれなかった。ひたすら怪獣を愛でた。しかし、あんなに大切にしていたのに人の成長は残酷だ。いつお別れしたのかもわからないほど自然に、私は怪獣たちを手放していた。大人になってずいぶん経ち、テレビの鑑定番組で私が持っていたのと同じものに高値がついたときは唖然とした。なぜとっておかなかったのかと母を責めたが、母もいい迷惑だ。だが、ひとつわかった。古いオモチャは市場に出る。もしかしたら再会できるかもしれない。私の「カイジュウちゃん」に。
 
それは、ウルトラマンのでも仮面ライダーのでもない、マイナーな怪獣。今になって調べてみてわかったのだが玩具メーカーのオリジナルだった。体高わずか11センチ、ゼンマイで動き、なんと、口から火を吐くのだ。本物の火! たぶん、ライターのような仕掛けだろう。安全性はどうだったのか。子供のオモチャから本物の火が……。いま思うと冷汗が出るわ。だが、それが私の一番のお気に入りだった。母曰く、私が赤ちゃんの頃から傍にいた、私の人生初の相棒でもあったらしい。私がどんなにぐずっても怪獣を見せれば機嫌が直ったという話は何度も聞かされた。たぶん、この怪獣のことが私の一番古い記憶だ。怪獣の裏側に私の名前が刻まれていたこと、私が怪我をしないようにと尖った角を祖父が削って丸めたこと、私はそれがとても不満だったこと、全部覚えている。「カイジュウちゃん」と呼び、いつもいつも一緒にいたこと、忘れていない。とっくに火も吐かなくなり、ゼンマイも壊れてしまっていた。それでも大好きだった。母に訊いてもカイジュウちゃんの顛末はわからない。捨てられたことは自分でもわかっている。だけど、そう考えると泣きたくなるほど悲しかった。もう一度会いたい。それからの私は古いオモチャを扱うホビーショップを心がけてチェックするようになったのだった。
 
出会いは突然おとずれた。大手のホビーショップ、鍵のかかったガラスケースの一番下に私の目はクギ付けになった。カイジュウちゃんがいる! 一気に心臓がドキドキし始めた。え、ホントに? なんか思ったより小さい。コレそうなんかな? いや、でも……。ちょこんと置かれているカイジュウちゃんは私の記憶よりずいぶん小さく見えた。でも、ガラスケースはそこだけ光って見える。私は店員さんを呼びに走った。
 
「すみません、コレ、この小さな怪獣、見せてもらえませんか?」
 
興奮しているのが自分でもわかる。それが恥ずかしくて大人の余裕を装った。店員さんが鍵を開け、取り出す。昂ぶってる私とは真逆の無表情で手渡してくれた。瞬間、私のDNAが告げた。カイジュウちゃんカイジュウちゃんカイジュウちゃん! いま、この手の中にいるのは間違いなく、私のカイジュウちゃんだった。
 
カイジュウちゃんには値札がついていなかった。訊けば2万円だという。どんなに余裕ぶっても私が欲しがってることを店員さんには見抜かれていたと思う。ふっかけられた気がしたが、それを払えなくもないほどもう大人なのだ。即決した。フワフワした心地で店を出て、それから2時間近くかけて実家へ向かった。母に見せたかった。カイジュウちゃんの記憶を共有したかったのだ。
 
「まぁ! カイジュウちゃん!」
 
母も記憶していた。細かなところはおぼろげだが、たぶんカイジュウちゃんで間違いないと。小さく感じるのは、私自身が大きくなったからだろうということで母娘の意見も一致した。私は、この小さな古ぼけたオモチャに2万円もの大金を費やしたことを正直に話した。母は怒らなかった。私がどんなにカイジュウちゃんを愛していたか、知っているからだ。それが私にはたまらなくうれしかった。
 
「シン・ウルトラマン」を見て、昭和な気分になった私は久しぶりにカイジュウちゃんをなでている。ファーストガンダム世代の私でも、思い出のオモチャを手にすれば一気に童心に戻れるのだ。この小さな古ぼけたボディには、キラキラ光る美しいものが格納されている。それは、ひとつのオモチャを大切に愛し続けた思い出と、幼い私が家族から愛された記憶。あなたにも、あなただけの「カイジュウちゃん」がいるのではありませんか? いるのならぜひ大切にしてほしい。それが美しいものだと気づくのは、きっとずっと後になってのことだから。あなたに思い出してもらえる日を、いまもどこかで待っているかもしれませんよ。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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