メディアグランプリ

レトロな道具と過ごす~こんがり、ほっこり美味しい時間


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横山裕子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
最初は、ししゃも、だった。
そう、お腹に卵を抱いた、魚のししゃも。
「う、美味い!」
半ば実験的に焼いた、その味は、外はカリッと香ばしく、中はフワッといい塩梅だった。思わずビールを取りに行く。プシュッ、「クーッ! ビールに合う!」
 
ゴソゴソと、物置の整理をしていた夫が、「こんなのあったー」と取り出してきたのは、「七厘」だった。そういえば、バーベキューセットは片付けが大変だからと、買ってみたんだっけ。その後、使った記憶は……。無い。
すっかり忘れ去られていたそのお姿は、ほこりをかぶって、少し欠けているところもあり、新人さんなのにベテランの雰囲気を醸し出している。
 
正直なところ、私は「いまどき、七厘なんて」と思っていた。
ステテコ姿のオヤジさんが、団扇片手にサンマを焼いている、まさに、昭和のイメージ。いや、我ながら、発想が古い……。
今は、進化したキャンプ用品や、おしゃれなグッズがあるではないか!
昭和生まれの私でも、今の風に吹かれて、おしゃれなひとときを過ごしてみたい……。
横目でその姿を見る。なんとなく立ち去りがたく、今度はじっと見た。
「なんだか、私みたい」ふいに湧き上がった思いに、自分でも戸惑いながら、ほこりまみれになって疲れた様子の七厘を、使ってみようという気になった。
 
「なにか、ちょっと焼いてみる?」
その言葉を待っていたかのように、夫はうきうきと動き出した。
「よし、買い物に行こう!」
 
我が家の七厘は、昔ながらの丸形で、珪藻土を成形して出来ているタイプ。
まさに、昭和の「ザ・七厘」という感じ。
珪藻土は、熱を持つと遠赤外線を放出するので、外はカリッと、中はふっくら焼きあがるそう。他にも、本格的な切り出し七厘(珪藻土の塊から直接切り出したタイプ、耐久性に優れ、素材の旨味を引き出す)や、卓上型、金属製など、様々なタイプがある。
「ふーん、七厘も進化してるんだ」と感心しつつ、炭を見に行く。
こちらもまた、初心者向けから、こだわりの備長炭まで並んでいる。取りあえず実験なので、安い炭を購入。
次は食材だ。団扇片手の七厘のイメージから抜け出せない私は、いきなり、ガッツリ肉を焼く気になれず……。ふと目にした、ししゃも。じっと見ていたら「これ焼いたら旨そうだな」と横から夫の声。焼き担当が言うのなら、ししゃもに決まりだ。
 
庭にブロックを置き、七厘をセット。炭と焼き網、新聞紙などの火付け材を準備した。「これだけでいいんだ」あっという間にセッティング終了。おっと、忘れちゃいけない団扇!
ふんわりドーナツ状にした新聞紙の上に、割り箸を細かく割って入れ、その上に細かい炭を投入、その上から大きめの炭をのせる。七厘の下部にある通気口を全開にして、新聞紙に火をつける。ここで団扇の登場! 火が弱まらないように、通気口に向かって扇ぐ。炭に火がついていい感じになってきたら、いよいよ、ししゃもを焼きにかかる。肉を焼いた時のような音も匂いも煙も、あまりない。ししゃもは、静かに網に横たわっていた。
「失敗したかな。パサパサかも」と不安になる。
おそるおそるひっくり返す。おっ、いい焼き色だ。かすかに、香ばしい匂いもしてきた。
「そろそろいいかな? どれどれ……」アツアツッ、ハフハフ……。
「う、美味い!」カリッ、じゅわっ、フワッと、口の中で、ししゃもが弾けた。
 
ビール片手にししゃもを堪能した後、昭和だのオヤジだのと言ってたことはすっかり忘れ、ほろ酔い気分で「次は何を焼こう? そうだ、子供たちも呼ぼう」と盛り上がる勝手な私。
片付けも簡単だった。火の始末は、少量の炭だと焼き切ってしまうか、残ったら火消し壺の代わりの缶に入れ、密閉して酸欠状態にして消す。あとは網を洗うだけ。本体は比較的軽いので、50代女子でも簡単に持ち運び可能。これなら、また気軽にできる。
 
「七厘? そんなの持ってたっけ?」
コロナ禍でなかなか会食もできなかった子供たちがやってきて、久しぶりに家族全員揃った。今回は、肉も用意し、野菜は椎茸とアルミホイルに包んだ玉ねぎ、メインは、鮎だ。
まずは、鮎から網にのせる。子供たちは興味津々、夫は得意顔。
言わずもがな、鮎は絶品だった。
「乾杯!」ビール片手に、焼いていく。一度にたくさんは焼けないので、飲みながら、喋りながら、ゆっくりと時間が過ぎていく。
団扇であおいでいた息子が、やおら立ち上がり、自転車の空気入れを持ってきた。
「こっちの方が早い」と通気口に空気を送り込んだ。すると、炭が赤くなって火力が強くなった。肉を焼くのにちょうどいい。七厘に空気入れ、不思議な相棒ができた。
 
シメには、焼きおにぎり。取り替え用の網があると、スムーズに焼き始められる。
醬油をたらすか、味噌をのせて、香ばしく焼き上げる。
「あ~お腹いっぱい!」
ゆっくり食べたからなのか、話しながら、じっくり味わったからなのか、満ち足りた気持ちになっていた。
炭の熱に当てられて火照った頬に、風が心地よい。
「次は何を焼いてみよう?」すっかり、七厘ファンになってしまった。
 
意外と簡単、美味しい、楽しい!
皆さんも、七厘を囲んでみませんか?
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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