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神懸かっている息子の言動に何度も救われた


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記事: 紗矢香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「ママ、おねえちゃんのこと、ぎゅーとしてあげて」
 
息子が4歳の時に母である私に言った言葉だ。
当時6歳の娘の反抗期に悩んで怒りまくっていた時だった。
息子はまるで私を諭すように、じっとみつめて静かに言うのだ。
私ははっと我に返り、「ごめん、ありがとう」と反省しながら息子に謝り、娘を抱きしめるのだった。
 
息子は、小さい頃から大人びていた。
息子が2歳の時に、親子で友達の所に遊びに行くことになった。子供は、息子を入れて3人。私は、3人分の子供用お菓子の積め合わせを持って参加した。息子も、お菓子を食べることを楽しみにしていた。だが到着すると、息子を合わせて子供が4人いるではないか。
しまった、どうしようかと思った矢先、息子はその3つのお菓子の詰め合わせを両手にもち、3人に「はいどーぞ」と渡したのだ。自分の分がないって泣くとか、悲しそうな顔をするとか、それが小さい子の当たり前の感情だと思っていた私は、不意打ちを食らったような感覚だった。
私はあげなさいとも、我慢しなさいとも言ってない。
まーしょうがないかっていう顔をしながら満足そうなのだ。2歳の子供が大人みたいなことをするのだ。自分の子供ながらにびっくりしたものだった。
 
そんな優しい息子だか、極端な人見知りで、知らない人がいると、いつも私の後ろに隠れるか、私の膝の上にちょこんと座って動かなかった。
幼稚園や小学校に行くことも、いやがった。「ママと離れたくない」と毎日校門で涙ぐんでいた。
「教室に入れば、普通にしているからもう帰ってください」
先生に言われ、後ろ髪をひかれながら帰ったものだ。心配で心配でしょうがなかった。
 
幼稚園の時に、サッカースクールの体験教室があった。サッカーと言うよりはボールの追いかけっこのようなものだ。息子は楽しそうだった。それがきっかけで、小学校で地域のサッカークラブに入った。サッカーで友達付き合いが広がるかもしれない。身体もたくましくなるかもしれない。そんな母の願いを知ってか知らずか、息子にとって、サッカーはなくてはならないものになった。友達も沢山出来たし、自分に自信もついたようだった。
弱小チームで負けてばかりだったが、私も試合を送迎するという名目で、毎回観戦しに行っては、キャーキャーいいながら楽しんだ。
 
小学校6年生の時に、サッカーの試合中に腕を折る大けがをした。ランドセルは背負えないし、もちろん一人でお風呂も入れない。左腕だったので、なんとか鉛筆はもてたのが幸だった。毎日車で小学校まで送り迎えをすることになった。
息子は痛みがあるのはもちろんのこと、学校で不便でいやな思いをしているだろうに、泣き言も不満を言うこともなく、
「いろいろ世話をしてもらってごめんな」
と謝るのだ。母親には文句や泣き言をいってもいいのに。自分の事より、人の気持ちが優先の子供だった。
親よりも何十倍も大人だった。
 
息子が中学3年の時、私は手術の為、1週間入院することになった。息子は、来月から受験だし、娘とパパで家事をやってねと話していた。だが入院当日、娘が高熱を出した。インフルエンザの陽性とのこと。部屋で隔離をしないといけない状況になった。
結局、帰宅の遅いパパは何も手伝いは出来ず、息子が娘の看病、料理に洗濯、洗い物などすべて一人でやることになった。それまでも、よく料理は手伝ってくれていたので、実は、お手の物だった。それでも一人で家事をすることは大変だったであろう。
 
「いつでも一人暮らしできるで」
ちょっと得意げに笑っていた。
 
一人暮らしはしてほしくないなと、子離れできていない私の頭の中を一瞬よぎった。
 
高校では、違うスポーツをしてみたいとハンドボールに挑戦していた。最初は、フィールドを走っていたが、先輩に勧められ、キーパーをすることに。
ハンドボールのゴールは、距離が近い。最初の練習試合で、いきなり、顔面にボールを当てられ、鼻血が両方から出たという話を後で聞いた。想像しただけでも、痛々しい。それでも弱音もはかず頑張った。
高校生活は、コロナ禍で修学旅行は中止。文化祭も体育祭も縮小。部活動だけは、無観客だったが試合が出来たのが救いだった。
高校卒業の前日、最後のお弁当。家に帰ると、空になったお弁当箱が机の上に置いてあった。
私は喉が渇いていたので、お水を飲もうと冷蔵庫を開けた。
 
「三年間作ってくれてありがとう これ食べて→」
 
そこには紙きれとプリンが置いてあった。嬉しい感情よりも、してやられたという感じであった。
一体誰に教わったのだろうか!?
反抗期の全くない、優しい息子に育ってくれていた。
 
そんな息子にも彼女が出来た。焼肉を食べている最中にいきなり話し出した。
 
「ママは悲しむかもしれないけど、彼女が出来たんよ」
 
「悲しむわけないじゃん」と言ったが、内心ショックだった。美味しいお肉なのに喉を全く通らない。
 
私の中では、まだまだかわいい子供のままだった。
ママ友からもからかわれるほど溺愛していた。
癒しだった。
きっと神様が私の所に産まれなさいと言って来てくれたのだ。
神様、ありがとう。
 
これからも母親であることに変わりはない。
ただ子離れしないといけない時がきたのだ。
今までは子育てに全力投球をしていた。子供が生きがいだった。
これからは、自分が夢中になれることを探そう。
寂しいが、息子が幸せになってくれればそれでいい。
「彼女と仲良くね………」
心の中でそうつぶやいた。
 
それでもやっぱり寂しいな。
犬、飼おうかな………。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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