メディアグランプリ

アフリカへ来たら、こんな国だった Ver.2


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布施京(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「赤だぞ! なにやってんだよ!」
 
大通りのT字路の信号で、私は急いで車のブレーキをかけた。
 
「危ねーなー! どこ見てんだよ!」
「だって、前の車が進んだから……」
「前の車は関係ないだろ! 信号くらいきちんと見ろよ!」
 
後部座席に乗っている夫がまくし立てる。
 
私だって、わかっている。
赤信号は停まらなくてはならないことくらい、当たり前だ。
 
 
ここはアフリカ、モザンビーク。
ありがたいことに、モザンビークは日本と同じ左側通行ではあるが、グイグイ入ってくる運転には、まったくもって慣れていない。
日本で事故を起こしかけ、運転が怖くなったが、今ここで運転免許を取得しているのは私だけだった。
運転するのを恐れ、モザンビークに来てから、車が大破する事故の夢を見たほどだ。
そんな私が、仕方なく、2回目の運転をしたのが昨日だった。
 
海沿いの大通り片側三車線。
T字路の交差点50メートルほど手前から右折ラインは長蛇の列だった。
私はT字路のTの「―」の部分の直線三車線の真ん中を走っていた。
すると、左車線から右ウインカーを付けた車が急に目の前に割り込んできた。
と思ったら、右ウインカーをずっと付けたまま、速度を落とし始めた。
その車は、長蛇の右折ラインに割り込みたかったのだ。
だが、割り込むスペースなどない。
日本なら、あきらめて直進し、どこかでUターンするパターンだ。
 
「こんなところで入ろうとしても無理だよね」
 
すぐにあきらめて直進するだろうと鷹をくくっていた私は、前車との車間距離をあまり取っていなかった。それに、時速60~70kmの車が後方からどんどん来るので、なかなか左車線に移れなかった。
 
前車はのろのろと進みながら、右折ラインの先頭車と並んだ。信号は青。
日本なら、あきらめるしかないこの状況で、前車は、あきらめるどころか、右ウインカーを出したまま完全に停止してしまった。
 
「信じられない! ここで停まる??」
 
悲鳴に近い声を上げ、バックミラーを見ると、後方の車たちは、私の車をかわすように、勢いよく左車線に入っていく。
次々に鳴らされるクラクションはまるで私に向けられているようだった。
ハンドルを持つ私の手は汗ばんだ。
 
「私が違反してるみたい……」
 
そんなことを考えていたら、前車が急発進した。
私も急いでブレーキを踏んでいる足を浮かせて、アクセルを踏んだ。
 
「赤だぞ! なにやってんだよ!」
 
私は急ブレーキをかけ、目の前の信号を見た。
 
「赤だったのかあ……」
 
私は、後方からのプレッシャーに、気持ちが急いていた。
だから、前車が発進したとき、前車だけを見て、アクセルを踏んでしまった。
だが、信号はいつの間にか赤になっており、前車は、赤信号を無視して、右折してしまったのだ。
 
私の車は、交差点の真ん中に止まった形になってしまった。
T字路の「一」の部分なので、誰の邪魔にもなっていないのが幸いだった。
 
だが、助手席を陣取っていた車好きの10歳の息子が地雷を踏んだ。
 
「恥ずかしいよ、こんな真ん中に止まって……ほんと恥ずかしい」
 
私の顔は引きつった。
夫がいいそうな言葉だった。
汗ばんでいた手には、違った意味で力が入った。
 
信号をきちんと見ていなかったのは悪かった。
でも、雨の降る中、怖い気持ちを押し隠し、心を奮い立たせ、家族のためにハンドルを握った。
それを、家族の男どもはなにもわかってはいない。
そして、なんたることか。
二人は、モザンビークではどのように運転せねばならないかを上から目線で私に説いて聞かせた。
 
「何様のつもり?」
私は心の中で悪態をついた。
このときばかりは、かわいい息子が悪魔の手下に見えた。
 
「ワナワナと震える」とはこういうことなのか、と客観的に自分を見ることができたが、そこまでだった。もう、何か言わずにはいられなかった。「これだけは言ってはいけない」と思いつつ、どうしても抑えることができなかった。
 
「もう運転なんか絶対しないから!! 車なんかで出かけないから!!」
 
そして、悪魔の手下には、大人げないことを最後に言い放った。
 
「二度と助手席に乗らないで!」
 
「車ではもう出かけないのに、助手席に乗らないで?」と、
辻褄が合っていない自分に突っ込みつつ、啖呵を切ったことで、胸のつかえが取れた。
だが、スッキリしたのは言ったその時だけだった。
アパートの駐車場に着いて、男どもが黙々と荷物を下ろす中、
私は、ハンドルから手を放せずにいた。
大きく深呼吸し、怒りを収めると、後悔の念がどっと押し寄せた。
 
「やってしまった……」
 
私は、二人と一緒に部屋には戻らず、モールで買ったジュースがこぼれた座席シートを黙々と拭いた。
 
心理学を学び始めて約5年。
最近は、瞑想も取り入れ、自分をだいぶコントロールできるようになったと感じていた。
だが、まだまだな自分を見せつけられた。
 
「私」と「感情」は別物だと習った。
「私≠感情」なのだ。だから、「私が怒っている」わけではない。
「感情が怒っている」だけだから、それを客観視することが大事なのだ、と。
 
大きく深呼吸し、体のみぞおち辺りに渦巻いていた怒りの感情に気づく。
 
拭き掃除しながら、その時の怒りの感情を思い返してみる。
そして、後悔したり、自分を責めたりするのではなく、その感情をフラットに受け止める。
 
「そうだよね。あんなふうに言われたら、怒っちゃうよね」
 
こんなふうに自分の感情を受け止められるようになったのは、心理学を学んだ賜物。
今までは、いつもズルズルと後悔し、嫌な感情を持ち続けて、不機嫌になり、家族にも悪い影響を与えていた。
 
まずは、息子に八つ当たりしてしまったことを謝ろう。
 
家に入ると、息子はリビングでテレビを見ていた。
「早く、ママも一緒に見ようよ。出かける前に一緒に見るって約束したでしょ」
 
顔が緩む。
「ごめんね」と言ってみるが、テレビに集中している息子の耳には入らない。
息子の頭をなでながら横に座った。
 
台所からは、夫の鼻歌が聞こえてきた。
 
怒りを手放せた自分をほめた。
そして、日曜日はみんなでどこへ車で行こうかと考えた。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事