メディアグランプリ

紙飛行機を飛ばすのは、スポーツである


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久田 一彰(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「緊急事態だ、紙飛行機が樹に引っかかった。今持っている棒じゃ届かないから、物干し竿を持ってきてくれ!」そう言いながらHさんは携帯電話を切った。
 
Hさんが飛ばした紙飛行機は、50メートルは飛び、高さ10メートルほどの高さに引っかかっている。釣り竿の先や、奥様が持ってきた棒を4つ繋ぎ合わせて、樹の枝に挟まっている飛行機をつつく。何とか落っこちてきた。
 
「ああ、良かった、あんたがいて助かったよ。すぐ見失うし、よく飛ぶものほど無くすし、この森の中にいっぱい消えていったんだ。これで明日の大会にも出られるよ」にこやかな表情のHさんは子供みたいだった。
 
先日、市の広報誌を見て、紙飛行機を飛ばす大会、「全日本紙飛行機選手権大会」があることを知った私は、エントリーするためにHさんに連絡を取ったのだ。
 
事前情報として、大会のホームページも見ていると、「ふーん、結構大きな大会だな。正式名称は、第27回 二宮康明杯 全日本紙飛行機選手権大会予選会か。全国25地域35会場で予選会が行われ、全国大会まで開催されている競技会か。九州では、沖縄・熊本・宗像市のみで行われるのか。住んでいる宗像市でやっているのはラッキーだな」
 
そんなことを思いながら、紙飛行機のキットを受け取りに、宗像ユリックスの芝生広場へ向かった。
 
Hさんからエントリーから大会までの手順や、紙飛行機の飛ばし方を一通り聞き、紙飛行機のキットを2つ受け取り、帰宅してすぐにキットを作り上げた。
 
棒の機体にシールを貼り、翼を2つ取り付けて先端にスポンジを貼ると完成だ。そして翌日に早速飛ばしてみた。
 
右手にゴムのついた棒、左手に機体を持って飛ばしてみる。
しかし、手を離して空に向かったかと思うと、すぐに墜落した。
 
「まさか、そんなはずはないだろう」
そう思いながら再度チャレンジするも、2秒くらいしか飛ばない。
 
「もう落ちたの、嘘でしょ!」と自分にツッコむ。
飼い犬が投げたボールを拾いに行ってくる様に、何度も飛ばしては取りに行く。飛んでいるより取りに走っている時間の方が長い。
 
しかし、何度やっても5秒は飛ばせない。
 
羽の角度が違うんじゃないか、と調整するもダメだった。
「こんなはずじゃない!」と理想と現実のギャップに直面した。
 
Hさんの言ったことを思い出してみる。
「20秒以上飛ばせればいいね。いくら調整してもここで言ってもわからないと思うから、何度も飛ばしてみるのがいいよ。わからなくなったらここにおいで。だいたい午後にいるから調整して見てあげるよ」
 
自己流では限界があると悟り、もう一度芝生広場に行った。
よく飛ばせる方法を知りたいのだ。
 
漫画の主人公が強くなるために、謎の老人の元で修行する様な、ドラゴンボールの孫悟空が強くなるために、亀仙人の元へ弟子入りする様な、そんな思いだ。
 
「いい、まずは機体の状態を知ること。機体によっては右手で飛ばすのがいいか、左手がいいのかくせがある。そして、宙返りする様なら、爪で後ろの翼を折って下げるし、山なりに墜落するなら上げてみる。大会当日は午前中で、温められた地面から熱が出て上昇気流が発生するから風にうまく乗るはずだよ。ほんのちょっとの角度で変わるから、紙飛行機は奥が深いんだよ。まあ、やってごらん」
 
言われた通りに、片手で飛ばすと山なりにすぐに落ちた。
先ほど言われたことを思い返しながら、後ろの翼を上げるように折る。
 
再びパチンコを放つ様に構える。
スペースシャトルの打ち上げのように、90°上げて放つ。
 
今度はシュッと耳の横をすり抜け、大空へ飛んでいった。
見えない滑り台をすべる様にゆっくりと降りてくる。
 
10秒は飛んだだろうか。
これで安心して明日の予選会に出場できる。
気分は天下一武道会に出る孫悟空の様だ。
 
大会当日、説明を一通り聞き、ストップウォッチを片手にみんなで計測をする。今回の参加者は全部で7名がエントリーしている。
 
トップバッターの方は、もう構えや飛行機の様子から只者ではない雰囲気だ。
亀仙人が内緒で天下一武道会に出場している様な、そんなたたずまいだ。
 
シュッと紙飛行機が手元を離れた瞬間、会場から「おー!」と声が上がる。
勢いよく上がり、左に旋回しながら、ハンカチ落としのスカーフより遅く降りてくる。
ストップウォッチの針の音が聞こえるくらい、みんなその紙飛行機に注目している。
記録は何と58秒だ。
 
そんな記録を後に私の番がきた。
今まで教わったことを信じながら、紙飛行機を構える。
 
もう引き返せない。
みんなが見ている。
風は左頬に軽く当たる。
「飛ばします」と宣誓。
紙飛行機をさらに引っ張り放つ。
 
「行けっ!」
 
心の中で叫んで飛ばす。
真っ直ぐ上がった機体は、
安定しながら飛んでいる。
 
「おお、よく飛んでいるね。いいね、いいね」
 
後ろからHさんの言葉が聞こえた。
 
ゆっくりと落ちてくる紙飛行機を目で追う
今までより確実に長い間飛んでいる。
 
小走りして着陸したところへ行く。
機体の無事を確認して戻ってくる。
 
「11秒です!」
 
やった! 記録は自己ベストだ!
 
喜んだ瞬間、もっと長い時間飛ばせる様になりたいという気持ちが湧いてきた。
 
そうか、これはスポーツだ。
悔しさなのだ。
 
どんなに練習で100回上手に飛ばしても、たった1回の勝負で決まる。
自己ベスト記録を出せば、さらに先の扉が現れて、開けたくなる。
まるでオリンピックのアスリートになった気分だ。
 
そんな余韻を味わいながら、大会が終わった原っぱで、もう一度さっきの感触を確かめる様に紙飛行機を飛ばした。私の中で次の大会はもう始まっているのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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