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医者嫌いという「病(やまい)」


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記事:山口萬里(ライティングゼミ・2月コース)
 
 
高校時代からの古い友人が、がんを患って亡くなった。
女房殿が尻を叩くようにして、やっと医者に診せたときには、もう「立派に、がんです」と宣告されたのだという。すでに切除は無理な状態で、一年半ばかり入退院を繰り返した挙げ句、他界してしまった。
 
この友人は、若いころから極端に「医者嫌い」だった。日頃は人心掌握に巧みで、物事を理屈づけることが得意だったにも関わらず、自分の医者嫌いに対しては感情丸出し、理屈もへったくれもないのであった。
 
そんな具合だから、若いころの喧嘩で折った前歯一本を治療もせず、歯っ欠けのまま逝った。歯医者、というだけで肩をすくめる。治療ドリルの回転音を想像するだけで、足がすくんでしまったらしい。
 
 
彼ほど極端ではないにしても、「医者嫌い」という人種は、世の中には結構たくさんいるものだ。
・小さいころのトラウマがあって、医者はイヤ
・診察を受けるとかえって病気を見つけられるからイヤ
・診察の問診に症状をうまく伝えられないからイヤ
・経済的に不安で医者は金がかかるからかかりたくない
などなど。忙しいのに、やたらと時間がかかるから病院はイヤ、という人々は別としても、その数は多いだろうと推察する。
 
「医者嫌い」は「一目惚れ」みたいなものだ。一端こうと思い込んだら、他人がとやかく介入しても反発を助長するばかり。しかし、「嫌い」な理由の根本は、かなり自己本位。「医者嫌い」の大半は、思い込みがほとんどなのだ。
 
 
わたし自身も、若いころは医者嫌いを自認していた。しかし、それも二ヶ月の入院生活と年数回の経過観察の通院とを経験して、雲散霧消した。
 
半年以上前から肝臓が悪くなって体調が激変していたのに、自分では自堕落な生活のせいと、かえって精神にハッパをかけていた。職場の健康診断で、担当医の試薬検査を受け、その日の午後に病院を手配された。採血したらGPTもGOT(肝臓検査の数値。一般的には30以下)も1,000を遥かにオーバーしていて、「よく死なずに生きていられたね」と院長に驚かれて、即日入院となった。
 
入院中に知り合ったほかの患者さんたちと会話するうちに、わたしの医者嫌いは溶解していった。なぜなら、多くの患者さんの「もっと早く診察を受けて、すぐに手当さえしていれば、こんなことにはならなかったのに」という後悔の声をたくさん聞いたからだ。
 
そうなんだ。医者嫌いに加えて、みんなどこかに自分だけはという密かな気持があって、イザとなるまで問題を等閑視してしまっているのだな。それが結局は手遅れの原因となり、不治を招き、後悔の源となってしまうのか……。
 
そう考えてみると、「医者嫌い」ということそのものが、ひとつの「病(やまい)」と言えるかもしれないと思えた。小さいころのトラウマとはいうけれど、この数十年の医学の進歩は目を見張るほどだ。
 
注射が怖い人は山ほどいるが、昔のガラス製の太い注射器と太く長い針は、もう今は博物館行きだ。今回のコロナワクチン接種を思い出してみるといい。蚊に刺されるよりも鈍感で、「あれ? もう済んじゃったの?」という感じであった。
 
だから、妙な心配をして恐れるよりは、さっさと診察して原因をはっきりさせ、身心ともにスッキリする方が健康に寄与するのである。その点は、金持ちの考え方が正しいと思う。症状を押し殺して大病になれば、いっときの診察代の何百倍・何千倍の出費になってしまう。金持ちは、そちらのリスクの方を嫌うのだそうだ。
 
健康には人一倍気を使い、最大のリスクを避けるのが金持ちのマインド。少しの不調もおろそかにせず、すぐ医者を訪ねるのだと聞く。それが一番の無駄遣いを防ぐセオリーなのだそうだ。医者嫌いという「病(やまい)」を克服できれば、下手な定期預金より役に立つ金欠対策になるのかもしれない。
 
病院というところは、実はどこも同じだった。入院から20数年後、二人の友の看護で、数カ月間掛け持ちで病院通いをしたことがあった。そこでも多くの入院患者さんと知り合ったのだが、昔の入院仲間とまったく同じ【後悔の言葉】を散々聞かされたのだ。
 
 
大病になればなるほど、不治に近づけば近づくほど、患者さんの後悔は深くなる。
もっと早く手当を……と。それを教訓と考えれば、今を生きているわたしたちとしては、いかに医者と上手く付き合っていくかの問題になるだろう。
 
医者嫌いを単に好き嫌いの問題にしておかずに、【生活のルール】と考えたらどうだろう。医者嫌いというのは、頑固な思い込み、それ自体がおそらく病(やまい)のひとつなのだから。一番大事なのは、やはり不調を感じたときには、少しでも早目に手を打つことが何より大切だと思う。
 
日常生活と何ら変わりはない。誰だって、部屋が汚くなったら掃除をするだろう。体調不良は、体がシステム不良になったと考えて、そのときはさっさと医者にかかってメンテナンスする、とルール化しておけばよい。後々の後悔を予防するための健康診断だ、と考えればいいだけだ。われわれだってたまには医者を前にして、金持ちマインドを味わってみてもいいのだから。
 
 
 
 
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2022-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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