メディアグランプリ

死闘の10日間。平和な日本での監禁と難民体験と


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川大輔(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
おかしい。体が重い。何か頭も熱っぽい。熱っぽいのに寒気を感じる。
 
それは突然襲ってきた。出勤前の朝5時半。普段とは何か体調が違う。正確に言えば前日の就寝前に悪寒があった。あまり気にしなかったが、あれがきっと前兆だったのだろう。
すぐに体温を測る。
「38.4℃」
ウソだろ……。マジかよ……。
一瞬現実逃避したくなったが、夢ではないことは分かっていた。つい昨日までは何の問題もなく元気に仕事をしていたのに。半分錯乱状態のまま職場に連絡を入れる。電話の向こうから聞こえてくる上司の声。
「熱は? 38.4℃か。結構あるな。それはもう休まないといかんわ」
予想通りの返答が返ってきた。報告を終えて少し落ち着いた反面、同時に周りへの影響が頭をよぎる。
僕の勤務体系は出面勤務(でづらきんむ)と言って、必ず決まった人数の勤務者がいないといけない。簡単に言うと2人で勤務しているうちの1人が休めば、休んだ1人分を他の誰かが、残業や休日出勤で補い、定数の2人で勤務しなければならないことになる。
僕が休むことによって勤務者の穴が一つ空く。その穴を埋めるため、他の誰かに負担をかけてしまう。申し訳なさでいっぱいだった。
 
かかりつけの病院もなかったので行政のコールセンターへ電話をかける。「24時間対応。まずはこちらにご連絡を」と書いてあったのに何度かけてもつながらない。早朝、日中、何十回かけたかわからない。つながらない。焦りが募る。
何度かけても無理だと感じた僕は、病院を紹介してくれる機関を自分で調べて見つけた。連絡し、その機関の職員の人から病院を3つ紹介してもらう。
すぐさま電話をかける。
病院A「行政のコールセンターへまず連絡してください」
病院B「行政の紹介がないと受け付けられません」
 
「ふざけんなよ。殺す気か……」
熱は上がり続け、39℃を超えている。爆発しそうになる気持ちを必死で抑える。
最後の望み、病院C。このときは祈るような思いだった。
「そういうことならいいですよ。明日来てください」
神様が舞い降りてきてくれた。助かった……。
 
この時、熱は40℃に達していた。
 
翌日、指定された時間に病院へ向かう。熱が40℃もあると立ち上がるのさえ苦痛だ。頭はフラフラ。体中が重く、痛い。一人暮らしの僕は周りに頼る人もおらず、這うように部屋を出てタクシーを使う。歩いたり、電車やバスを使うのは無理だ。
病院へついて思った。「ここが受け入れてくれなかったら、僕はどうなっていたんだろう」少し待ち時間があったがそれすらも苦しい。検査と説明をうけ、解熱剤をもらって帰路につく。お金はかかるけど、もちろんタクシーで……。
 
当たり前のことだが病院に行くことはできたけれど、それだけで回復するわけではない。とにかく熱を下げたくて、病院でもらった解熱剤を限界量まで服用した。それでも熱はなかなか下がらず3~5日ほど40℃の熱に苦しんだ。加えて体中の筋肉の痛み、喉の痛み。そして追い打ちをかけるように10日間の外出禁止令が言い渡される。
外出禁止。つまり自分の部屋に一人監禁である。外に出れないから食糧や日用品を買いに行くこともできない。監禁状態の布団の上で食べ物もなく、こんなことが頭をよぎる。
「これって難民と同じじゃないか」
失礼だとわかっていながら比べて想像してしまう。しかも周りには誰もいない。
 
高熱・全身の痛み・監禁・空腹・孤独・職場への申し訳なさの六大波状攻撃。
「しんどい、申し訳ない、ハラヘッタ」
仕方がないので食べ物は宅配で持ってきてもらった。でも買ったのは大量のスポーツドリンクやゼリー状のもの、ヨーグルト・牛乳・軽めのおにぎりやパン等。あとは部屋にあったプロテインで空腹を紛らわせた。毎日、寝て起きるだけの繰り返し。
あの期間、僕は何をしていたのだろう? あまり記憶がない。
 
発熱から数日たち、やっと熱が少しずつ下がり始めた。それでも39℃~38℃台。時々37℃台になることもあったがすぐに38℃を越える。40℃の時を思えばずいぶん楽な気はしたがそれでも体はしんどい。脆弱な精神力でひたすら耐える。ヘタレの僕にはきつすぎる。
外出禁止令(監禁命令兼半強制的難民体験令)が発動してから7日目、発熱からは1週間以上たち、ようやく熱が36℃台を保ち始めた。このころには体の痛みや喉の痛みも無くなっていた。
さらに3日、平熱状態が続き、僕はシャバに出ることが許された。
死闘の期間を生き延びて職場に復帰し、まずは職場の人たちに謝罪と感謝を申し上げた。
「恥ずかしながら、帰ってまいりました」
 
そう、僕は風邪やインフルエンザ、ましてや急性胃腸炎などを患ったのではない。
「新型コロナウィルス」に感染してしまったのだ。
 
どこで感染してしまったのか本当にわからない。僕は緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が発出されていようがいまいが、ほとんど休日も外に出ない。仕事中も、抗ウィルスマスク(お値段高め)の内側に不織布よりも防御力の高いフィルターをわざわざ別買いして入れてつけている。仕事からの帰宅時も一人静かに食事をして帰る程度。それなのに感染してしまった。
 
今、日本中が新型コロナから日常を取り戻しつつある。それは非常に喜ばしい。ただ、気になるのは毒性が弱まったとはいえ、感染者はいまだに多くいるということ。
個人差はもちろんあると思うが、入院を必要としない軽症の部類に入る僕ですらあれだけの苦しい思いをした。
「一人暮らし」というのが前提になるが僕の個人的感染経験から感じたことは、
・入院を必要としない軽症状でも、むちゃくちゃしんどい。
・PCR検査を受けても「陽性」という結果が出るまでは外出禁止にならないので、結果が出るまでに全力の買いだめをしておく。僕を唯一受け入れてくれた上記の病院で受けたのはPCR検査で、自治体や検査機関によるが結果は早くてその日中、遅ければ2、3日かかる。
・頼れる人がいるなら頼る。上司が個人的に玄関先へ食料を届けてくれた時があり、とても助かった。宅配にも頼る。
・一人感染してしまうと、「濃厚接触者」の可能性のある周りの人までPCR検査を受けさせられたり、場合によっては自宅謹慎になる。感染者本人も僕のように長期離脱となるため、周囲への影響が大きすぎる。個人的にこれが一番嫌な点だと感じた。
・感染者だとわかっていてもタクシーに乗せてくれる運転手さんや、受け入れてくれる医療従事者の方が救いの神に見え、気を遣ってくれたり「何か持って行ってやろうか?」「お前のせいじゃないから、ゆっくり治せ」と声をかけてくれる人に対して涙が出そうになる。
 
他にもあるが5つに絞った。
 
2020年、一番の繁華街がシャッター街になってしまった光景は衝撃的過ぎていまでも頭に焼き付いている。色んな物に規制がかけられ、たくさんの命さえ奪ったこのウィルス。
まさか自分が……。と他人事のように思っていた。
あれから3年目。日常が元に戻りつつある今でも新型コロナの存在は僕の中で、もう対岸の火事ではなくなっている。
 
その苦しさを身をもって知ってしまったのだから。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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