メディアグランプリ

ないものねだりの姉妹


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記事:今村真緒(ライティング・ゼミNEO)
 
 
同性のきょうだいって難しい。何かと、親や周りから比べられることが多いからだ。
異性であればそんなに気にならないことも、同性であるがゆえに意識させられることもある。そして同性のきょうだいは、異性のきょうだいよりも対抗意識が芽生えやすいようだ。
 
私には、3つ違いの妹がいる。母は私たちにお揃いの色違いの洋服を着せることが多く、私はピンク、妹は黄色が定番だった。大人になって聞くと、妹はピンクを着たかったらしい。だけどピンクは「お姉ちゃんの色」だと思って我慢していたという。また私のお下がりを着ることが多かった妹は、新品を買ってもらえる機会の多かった私が羨ましかったという。妹の気持ちに気づかなかった私は、それが当たり前のことの様に思っていた。
 
小学校になると、元々目が大きく顔だちのハッキリしている妹は、手前味噌で申し訳ないけれど姉の私から見ても美少女だった。当時国民的美少女ともてはやされた女優の後藤久美子と少し雰囲気が似ていたから、次回の国民的美少女コンテストに妹を送り込もうかと真剣に考えたこともあった。反面、自慢の妹と比べて自分にはこれといった取り柄が見つからなかった。何か秀でたものが欲しくて焦っていたのを思い出す。
 
小学校高学年になるまで、妹は私を「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と慕って何でもいうことを聞いてくれた。そんな純粋な妹が可愛くもあり、妹には私がいなければならないのだと、時には姉の威厳を必要以上に誇示してみせることもあった。
ところが、妹は次第に私から離れていった。思春期になり、姉より友達と一緒に居ることが楽しくなったのだろう。私は内心焦った。子離れできない親のように、妹の様子が気にかかるものの姉のプライドが邪魔をして素直に妹に向き合えなかった。
 
その頃は反抗期ということもあり、不器用で要領の悪い私は親とぶつかることが多かった。切り込み隊長の私がやっとの思いで崩した牙城を、妹は苦労することなしに涼しい顔で手に入れる。要領のよい妹は私のやり方をよく見ていて、同じ轍を踏まないのだ。似たようなことをしても怒られる私と、そうじゃない妹。私は、自分ばかりが苦労しているような気分になった。
 
大人になっても、組織で働くことを選んだ私と個人で仕事をする妹とは、感覚が違うところも多かった。私はやりたいことができる妹の環境を羨ましく思い、妹はいざというときの保障がある組織を羨んだ。何事も対照的な私たちは、姉妹という枠の中で絶えずお互いを意識していたように思う。
 
私は仕事と家庭の両立に行き詰ると時間に余裕のある妹に憧れ、妹は一人だと老後が心配だとこぼした。私たちはシーソーに乗ったまま、どちらがより大変なものを抱えているかを量りっこして、ないものねだりを続けていた。
 
そんな関係が変化し始めたのは、妹が結婚した頃だったように思う。お互い結婚して母となり、共通の話題も増えると、シーソーゲームが共感へとシフトしていった。親には話せないことを相談して、困りごとにアドバイスをもらうこともある。先日も、仕事でちょっとしたことを悩んだ妹が電話をかけてきた。大したことは言えないけれど、私なりに考えたことを伝えると妹の声が元気になった。もちろん、その逆もある。私が病気になったときに一番響いたのは、妹の励ましだった。今までないものねだりをしていた私たちは、ようやく互いに持っていないものを補えるようになってきたのかもしれない。
 
そういえば、小学生の頃私たちが楽しみにしているイベントがあった。どこかに行くとかではない。単に茶色の和食が大半を占める我が家の食卓に、たまに洋食が登場するだけのことだ。特にクリームシチューの日は、私たち姉妹のテンションは上がった。外国風の名前を名乗り、「船ごっこ」と称して、豪華客船のディナーのごとく上品な会話と食べ方を演じるのだ。フランス料理のスープのように、手前からスプーンでシチューを掬う。いつもよりおちょぼ口で、ガツガツした食べ方をしない。貴婦人になり切った私たちは、架空の船の中でストーリーをつないでいく。その先の展開を面白くするには、芸人の「ツッコミ」と「ボケ」みたいに阿吽の呼吸が必要だった。
 
今だから言えることもある。妹は、昔は長女のお姉ちゃんばかり大切にされていると思っていたらしい。それに対して、私は両親が妹ばかり甘やかしていると感じていた。自分をより認めてほしい気持ちが、満たされない被害者意識を生んだのだろう。あの頃を笑って話せるようになった今、昔みたいにツッコミとボケの位置を交代しながら、素直に互いを尊重し合えたらいい。姉妹という同じ根っこを持つ私たちの繋がりは、一生変わることはないのだから。
 
 
 
 
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2022-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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