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『負け犬』は、白馬の王子様に迎えにきてもらえるのだろうか?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松下広美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
今から15年ほど前、まだ私が20代だった頃の話だ。
 
30人は余裕で入れそうな宴会場に私はいた。
ステージもあり、きっとここでは忘年会や新年会が行われるのだろう。
そのステージ前で、円陣を組むように丸く囲んで、これから宴会が始まろうとしていた。
私と、おじさんたち5人で。
 
「ひとり、遅れてくるって言ってたから、先に始めようか」
 
おじさんがひとり増えるのか。ドリフよりもひとり多いな。
そういえば、このおじさんたちは、いくつくらいなんだろう?
40……50代の人もいるよね?
 
「よく来てくれたね、この〇〇町まで」
「なんか、楽しそうだったんで……」
そんなふうに笑顔で答えながらも、猛烈に後悔をしていた。
帰れるものなら帰りたい。でも今さら帰れない。
だって、名古屋から3時間以上かけて、長野の松本から山深くのところまで来てしまっているんだから。
 
 
20代後半、ものすごく結婚欲が高まっていた。
「私は28歳で結婚する!」と、友達に宣言をしていた。
それは『負け犬』になりたくなかったからだ。
 
『負け犬』とは、30歳、独身、子なしの女性を指していた。
嫁がず、産まず、この歳に。
と『負け犬の遠吠え』という本で書かれていた。
まだ、20代だし、と言っていられない。何だ、この負け犬の不幸感は……とひとり焦っていた。
 
藁にもすがる思いで申し込んだのが「婚活バスツアー」だった。
田舎に嫁に行かないか? という、たまにテレビ番組では盛大に放映されたりするやつだ。テレビの企画でも何でもなく、地域誌の片隅に書かれていた、婚活イベントだった。
名古屋市内の女性、ということで募集があり、長野の田舎町という場所へ行く。
田舎暮らしも面白いかもしれないし、何より数千円で交通費も宿泊代も賄ってくれる。安い旅行に参加するくらいのつもりで行けばいいやと、申し込んだ。
実際、そのバスツアー自体は旅行と婚活が一緒になった感じで、田舎をちょっと体験するようなものだった。温泉旅館に泊まり、女性同士も仲良く過ごした。婚活でイメージされるような「告白タイム」みたいなものはなく、ただ楽しんでもらおうという、イベントだった。
 
問題は、その数ヶ月に起きる。
 
1件のメールが届いた。
「また、〇〇町に来ませんか?」
というものだった。
前にバスツアーに参加した人たちを誘っていて、交通費も宿泊代もかからず、遊びに行けるというのだ。行ってもいいかも、と思ったところに、バスツアーで連絡先を交換した女性の方からメールがきた。
 
〇〇町の人から、お誘いきました?
きましたよ。
行きます?
面白そうなんで行こうと思ってます。
私、その日予定があるんで、また様子、聞かせてください。
 
簡単なやり取りがあったと記憶している。
みなさんに連絡がいっているのなら、誰かは行く人がいるだろうな。
そう思い、旅のつもりで行くことに決めた。
 
松本駅で、高速バスから降りると、
「よく来てくれました」と、出迎えられた。
 
何か、おかしい。
周りを見る。
おじさん、おじさん、おじさん、私。
 
あれ?
もう一度。
 
おじさん、おじさん、おじさん、私。
おじさんスリーカード。
 
他の参加者は?
どこか違うところにいる?
 
まさか、私ひとりですか? とも聞けず、言われるがまま車に乗り込む。
拉致? 監禁?
おじさんの中に、私ひとりよ?
 
「ようこそ、いらっしゃいました」
着いた先にも、おじさん。
おじさんフォーカード、そろいました。
 
そして、宴会場。
「いやー、遅れました」
おじさんファイブカードではないですか!
 
おじさんたちに囲まれ、逆ハーレム状態で時間は過ぎていき、翌日は、クロスカントリー体験とか、遊びにも連れていってくれた。ガイドのおじさんたちがたくさんいる旅行に、ひとりで来たような状態だった。
あれ、これって婚活バスツアーの続きだったよね?
それらしきものは微塵もないまま終わった。
 
このバスツアーだけではない。
名古屋の隣の市が開催する、100人を超える婚活パーティーにも参加したことがあるし、お見合いもいくつかした。
20代女性という、婚活の市場では売り手市場のはずなのに、売れなかったし、買われなかった。
 
この場所には、私の相手はいないんだと思い、婚活をクリアすることを諦めた。
就活はクリアしないと食べていくのも困るだろうけど、婚活はクリアできなくても困ることはなかった。
結局『負け犬』になり、30歳どころか、40歳も過ぎてしまった。
 
ただ、こんな歳になっても「誰かいい人がいればいいのに」と、同居している伯母からはときどき言われる。
そう言われるたびに、ズシンと心が重くなる。藁人形でクギが打ち込まれるとこんな感覚になるんだろうかというくらい、重い。
とっくに結婚することなんか諦めて、ひとりで生きていくんだろうなと思っているのに、気持ちが重くなる。
 
『負け犬』という感覚が抜けないからなんだろう。
結婚できないこと、子供がいないこと、誰もが当たり前のようにしていることができずにいて「負けている」ということを実感させられる。
 
結婚してるから「勝ち」
結婚してないから「負け」
 
そんなこと、誰も思っていないのに、私の中に染み付いてしまっている。
だからといって、結婚したら勝てるかといったら、そうでもないだろう。
ずっと『負け犬』は背負ってしまうんだろうなと、諦めてるところもある。
 
ただ、結婚相手には、恵まれていないけれど、それ以外のところではそこそこ恵まれている。
面白い仕事をやらせてもらっているし、背中を預けられる仲間たちがいる。
数は少ないけれど、とても信頼できる友人もいるし、なにより毎日が楽しい。
 
この世の中、何にも抱えていない人などいないだろうし、何か重いものを持っていた方が、わかることもあったりする。
 
結婚できない『負け犬』です、っていうのも面白いんじゃないかって思う。
 
 
それにいつかは、白馬の王子様が迎えに来てくれるんじゃないかと、ちょっと本気で思ってたりもする。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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