メディアグランプリ

部活の後輩達に息子が最後に伝えたかったこと


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記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミNEO)
 
 
「あれ? 何だかユニフォームが小さくなったみたいだね?」
久しぶりにテニス部のユニフォームを着た息子に、問いかけた。卒業式が間近に迫った日の朝のことだ。その日は、後輩達との「お別れ試合」で、久しぶりに部活に行くところだった。
「高校に入っても、部活をしようかな? 勉強するにも、体力って必要だよね。受験勉強を本気でして、そう思ったよ。テニスも好きだし、何かの形で続けていきたいな」
明るく話をしながら、息子は、私より一足先にお別れ試合に出かけた。
 
私が中学校のテニスコートに行くと、すでに試合は始まっていた。くじ引きで後輩とペアを組み、試合をしている。受験が一段落し、皆がいい笑顔で試合をしている。しばらく全員でテニスの試合を楽しんだ後、先輩と後輩が向き合っての、「お別れ会」となった。毎年恒例だが、後輩達は先輩一人一人へのメッセージを書き込んだ色紙を用意しておく。そしてそれを、卒業する先輩達に渡すのだ。受け取る側の先輩達は、後輩達への一言をスピーチする。それは、部活に関するアドバイス、受験に関するアドバイスなど、何でも好きに話していい。
 
「何を話そうかな?」お別れ試合の前に、息子が私に語りかけたことがある。息子は、スピーチをすることが得意だ。いつも、時間がある時に、名言をネットで調べては、素敵だと思うと、その言葉を頭の中にストックしておく。今回も何か名言を使い、自分のエピソードと絡めるつもりだろうか?
 
息子は、3年前、中学入試が不合格だった。だから、この3年間は、挫折からの立ち直りの3年でもあった。比較的何でもうまくいくタイプだった息子に、初めてやってきた挫折だ。だから、同級生達は、からかいのネタにしたくなり、「落ちたんでしょ?」と露骨に聞いてきた。「事実だから仕方ない……」そう話しながら、本当はとても傷ついていた息子を何度も見てきた。
3年が経つ頃、息子は、無難に成功するよりも、さらに大きなチャレンジをしたくなった。絶対無理だと思っていた高校に、本気で合格したくなったのだ。それからは、息子の異常なくらいの「集中」が始まった。一日10時間は勉強しただろう。挫折感を克服したいならば、同じような目標を掲げ、さらにハードルを上げる。その高すぎる目標をクリアすることが一番だと信じていた。
発表日になり、3年前と同じように、息子とパソコンの前で発表を見る。だが、また、息子の番号はなかった。全力を出し切った分、結果が出た時は、3年前よりもさらにボロボロに打ち砕かれてしまった。次の試験に向けて気持ちを切り替えねばならないのに、力が入らない。校長先生までもが心配し、朝、遅刻ばかりして、魂が抜けたような目で登校する息子を呼び止め、支えようとしてくれた。校長先生は、
「挑戦した壁があまりにも高すぎて、打ちのめされて、打ちひしがれるのを、挫折というんだよ。だから、苦しくても、まずは挫折を徹底的に味わうといい」
下手な慰めをせず、現実を否定せずに、息子の心を理解してくれた。そして、やっとの思いでもう一度集中し、最後の入試を終え、今、発表を待っている。息子は、この状況で、どんな話を後輩達に伝えたいのだろうか?
 
いよいよ息子が話す番になった。息子が話し始めようとすると、空気がキリッと引き締まり、みんなが注目をする。息子はゆっくりと話し始めた。
「僕には、皆さんへのアドバイスが2つあります。
1つ目は、体力です。僕は、受験勉強をして分かりましたが、勉強には体力が必要です。だから、目の前の部活を最後まで真剣に頑張って下さい。
そして、2つ目です。皆さんは、次の試合で、必ず負けます……」
そう話すと、「えぇ?」と皆が、ざわざわし出す。
「僕は、皆さんに意地悪を言いたいわけではなくて、全国1位にならない限りは、必ず負けて終わるのだと言いたいのです。僕は、3年前、中学入試が不合格で、望まぬ形でこの中学校に来ました。ですが、人は、「負け」の経験をどう自分の力に変えていくのか、それが大事な気がします。僕は、この3年間で、負けることの意味を学びました。だから、試合の「負け」の経験を、しっかり味わって、大切にして下さい」
 
自分なりに苦しんだ3年間の先に見つけた答えを、堂々と話していた。誰の名言も引用していなかった。少し離れたところから息子を見ながら、自分自身の挫折を隠さずに話せるようになった姿に、涙が溢れた。3年間、挫折感に向き合った息子が、最後に見つけた答えは、勝つことではなく、負けることを知り、自分自身のありのままの姿を受け入れることだったようだ。1〜2分くらいの短いスピーチだったが、3年間の深い思いが詰まった、心のこもったスピーチだと私には思えた。
ユニフォームを着る息子は、体だけでなく、いつの間にか心もひと回り大きくなっていたのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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