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私は色を食べて生きていく


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
ある日、母が、ラメ入りヒョウ柄のパンツを買ってきた。
 
それが私にとってはとても衝撃だったのだ。
 
自分の母親が、ヒョウ柄を着るだと……!
大阪のオバちゃん達を敵に回したいわけではないのだけど、私の中で憧れが壊れた。
 
うちの母、自慢じゃないけど、めちゃめちゃ美人だった。
小学生の時には、人見知りで、引っ込み思案で、運動も苦手というクラスでも目立たない存在だった私にとって、母は、天が与えてくれたビックリマンチョコのキラキラシールみたいな人だった。
とにかく、授業参観の時には注目をあびるので、普段とりたてて自慢ポイントのない私が、注目を浴びるレアイベントだったのだ。
 
「お母さん、キレイだね!」
「オシャレだよね」
 
と必ず誰かから言われる。自慢ポイントが自分の中にないこと自体が、由々しき問題なんじゃないか? というところは置いといて、とにかく授業参観で注目を浴びる母親が自慢だったのだ。教室に入ってきたら、わざと母にまとわりついて、自分の母である過剰アピールをしていた。
 
モノトーンや茶系のトップスが逆に母の顔を目立たせ、色味の強いアイシャドウがアクセントになっている。黒木瞳に雰囲気が似ていて、友達にも、女優さんみたい! と言われた。
 
大学生になったらもはや授業参観はなくなるし、母もだいぶん年を取ってきたので昔のようにチヤホヤされることはなくなったけれど、母がオシャレなのは変わらなかった。自他ともに認めるオシャレさんだったから、その矛先が野暮ったい私に向いた。
 
母は、私の着る洋服や髪型もプロデュースしてくれた。
でも、とても残念なことがあった。私は、父に似たのか、どうにも地味な顔立ちなのだ。1000年くらい生まれるのが早かったら、きっと絶世の美女だったに違いない。いわゆる平安美人な私を、どうにか苦心して、母はオシャレさせようとするのだけど、出来上がった自分を鏡で見るとため息しかでない。母の熱量と反比例するように、私のオシャレをあきらめるようになった。
 
しまいには、母にお小遣いを渡して、
 
「私が着られる服を買っておいて」
 
なんて言ってしまうものだから、一緒にショッピングに行きたいと夢見ていた母から楽しみを奪ってしまったかもしれない。
 
だからか、オシャレな母が、ヒョウ柄を選択したときに、衝撃的に派手で息が止まりそうになった。いわゆる、ヒョウの色ではなく、ガラだけがヒョウだったのだけど、とにかくギラギラした細身のパンツだった。意外にもカッコよく着こなすのはさすがだったけれど、シックな装いがカッコよかった時代は終わった。
 
その頃の母は、ヒョウ柄だけでなく、かなり色味の強い洋服をチョイスするようになっていた。マゼンタ、シアン、イエロー……プリンタのインクか! というラインナップのポロシャツに袖を通す母親のオシャレについていけなくなっていた。
 
私はと言えば、モノトーンにアースカラーで、地味な顔立ちをさらに地味にする服を好んだ。色味のある服は落ち着かなかったのだ。
 
そんな30代を経て、40代も半ばを迎えた最近、なぜか突然、色味を欲するようになった。自分でも意外過ぎて驚いている。
 
天然素材でアースカラー、身を包むだけで薬草セラピーなんじゃないかという温かみのある洋服ばかりときめいていて、「アジアの部族なの?」と母親にあきれられていたくらいの私が、デパートでとあるデザイナーの服を見て衝撃を受けたのだ。
 
草原にいるような鮮やかな若草色、澄み渡る空のようなスカイブルー、とにかく、今までの遅れを取り戻すかのように、色味に飢えて、そのブランドの服を大人買いするようになった。
 
折しも年齢は、ヒョウ柄を着始めた母に追いつこうとしていた。
 
鏡をのぞけば、まだまだ若いでしょと思っていても、5年前、10年前の写真を見れば明らかに年齢が進んでいるのを感じる。その当時、好んで着ていた草木染の優しい色合いの服を着ていても私の表情から若さやエネルギーが写真から湧き出てくるようだ。
 
でも、今は、そういう服を着るとどうにも落ち着きすぎて地味だなあと感じる。一方で色の力を借りると、見て元気になり、袖を通して元気になる。一日中、スカートがひらひらと色を映し出してくれると、午後の疲れた時間帯でも不思議と元気を取り戻せるのだ。
 
世の中には、色の効果で人の心を癒すというカラーセラピーというものがあるくらいだから、足らないエネルギーを服の色で補うということができるんじゃないかと、納得している。
 
30年近くたって、ようやく母がヒョウ柄に惹かれる理由が少しわかった気がした。エネルギッシュだった母も、ヒョウ柄や派手な服をまとって、色に力を借りながら頑張って私達を守ってくれていたのかもしれない。いつでも凛としてオシャレだった母親がオシャレをすることで生きる力を得ていたんだと思うと、胸がきゅんとするのだ。
 
私もどんどんお年頃になっていく。ときめく色をまとって、そのエネルギー食べることで元気に動いていこうじゃないか。
 
今度帰省したら、母と洋服でも、買いに行こう。
 
 
 
 
***
 
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