メディアグランプリ

完走の魔力


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記事:haruki (ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
きつくてたまらない。なんでこんなレースに出場してしまったのだろうか?
 
いつもレース途中で思ってしまう感情だった。この感情も2時間ぐらい経てば、だんだんと忘れて考えなくなってしまう。
 
しかし、今回は、明らかにいつもと違う。どんどんと体が重くなって、きつさが取れない。次の水分補給場でレースをリタイヤする気持ちが高まってきた。さらに、一緒に出場した友達からも次々と抜かれて、気持ちはへこむばかりだった。
 
4年前にもこのトレイルランニングレースに出場した。もっとも過酷な60kmレースだったので、腕試しと思って参加した。結果は、制限時間に間に合わず、途中で失格になってしまった。どうしても完走したくて、次の年も参加した。走るスピード、暑さ対策、栄養補給のタイミングをかなり考えて準備をした。トレーニングの量も増やして走力をつけていった。実際のレースでは、何とか制限時間に間に合って完走できた。完走後は、きつくてもうこのレースには、二度と出ないでおこうと思っていた。
 
それから2年後の今回。何を思ったのか、同じレースに参加していた。新型コロナ感染症流行の影響で次々にレースが中止となり、やっと開催されたレースの一つだった。
前回も完走できたのだから、今回も完走し、ある程度コースもわかるので早いタイムでいけるだろうと軽い気持ちだけだった。準備に関しては、以前と同じように暑さ対策やレースプランを考えた。トレーニングに関しては、走力は以前よりついているだろうから、なんとなくできるだろうと思い、むしろこのレース自体がトレーニングだとも考えていた。そして、実際に走るまで、前回のレースでのきつさをすっかり忘れていた。
 
まもなく次の水分補給所だった。
心はもうレースをリタイヤする気持ちでいっぱいだった。
 
「きついだろうけど、頑張って。これでも飲んでいかんね」
と地元のおばちゃんから冷えた飲み物を渡された。
「ありがとうございます。頑張ります」
とついつい答えてしまった。
周りの選手も誰もリタイヤする人はいなかった。おばちゃんに応援されたし、みんなも頑張っているから、あまり目標時間を気にしないで、完走だけを目指していくことにしようと心を切り替えて、次の関門まで行くことにした。
 
するとだんだんときつさは、不思議なことにとれてきた。追い抜かれた友達にも追いついて一緒に走ることにした。一緒に走るとペースは遅くなるが、もう完走しか目指していない気持ちに切り替わっているので、何も気にならなかった。山頂での絶景で写真を撮り、楽しみながら走っていった。
 
「前半よりペースが上がっていないですか? だんだんときつくなってきたので、前を走ってひっぱって!」
一緒に走っていた友達から突然言われた。
ペースが上がっている? 予想もしなかった。ふと時計を見てみると、予定していた時間よりも30分ぐらい速くなっていた。完走だけを目標にしていたので、そこまでペースを気にしていなかった。気持ちが楽になり自然と体が楽になってペースが上がったのだろう。
 
「いいよ。前を走るからついてきて。無理をしないで完走をできるペースで走るから」
と答えて前を走ることになった。時々後ろを見ながら、ついてきているかを確認する。ついてきていなければ、ペースを落として走っていく。逆にペースが遅すぎると、後ろがつまってきてしまうので、ペースを上げないといけなかった。実際にやってみて分かったが、気持ちや体力に余裕がないとできないことだった。
 
山の中を駆け抜け、やっと最後の路上に出てきた。ここまでくれば、ゴールまであと6キロ! 路上の沿道からたくさんの声援を受けながら、なんとか最後まで走り切ろうとペースを上げていった。
 
ゴール近くでは、ゼッケン番号と名前がアナウンスされて、まもなくゴールなので頑張って! と最後の力強い声援がスピーカーを通して、鳴り響いた。
 
もう少しだ! この完走といった達成感が最高に嬉しい瞬間だったことを思い出しながら、ゴールテープを切った。
 
今回も過酷なレースであることは、変わりないので体はボロボロだった。
 
「一緒に走ってもらったので、無事に完走できました。一人だったら完走できてなかった。ありがとう」
無事に一緒に完走した友達からも感謝された。レースに完走できたからこその喜びだった。
 
今回のレースでは、明らかに心の油断と準備不足だった。前回、完走したとの事実だけで、なんとかレースはこなせるだろうと考えしまっていた。
 
完走の魔力はおそろしい。レースが終わって、1週間も経っていないが、レースでのきつさを忘れつつある。次は、更に過酷な100キロのレースに出場して完走しようと思っている。当分、完走の魔力から逃れそうにない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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