最終的には憎めないイタリア人 – 実験試料は、〇〇ないでください!
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記事:Dr Blue(ライティング・ゼミ4月コース)
イタリア人だけの研究室で過ごした3年半。
色々な事があったけど、このエピソードは決して色褪せることがない衝撃的なお土産話だ。因みに、この話を昔休憩でエスプレッソを飲みにバールに行った時、ラボの同僚にしたのだが、同じ指導教官の元で学んでいる友達は、爆笑し過ぎて、涙を流していた。
話の便宜上、私の指導教官の名前をテラ先生としよう。
テラ先生は、皆から恐れられている存在であった。イタリア語が当初よく分からず殆ど状況をつかむ事が出来なかった私でも、テラ先生を怒らせてはダメだと悟るには十分であった。
イタリアに来て初めてのクリスマス、ラボで持ち寄りのクリスマスランチがあった。サラダ、パスタ、肉料理、デザート、スプマンテとお腹一杯イタリアの家庭料理を満喫した。ランチも終盤に差し掛かった頃、誰かが、朗読をし始めた。一文一文朗読が終わる毎に、どっと爆笑や拍手が起こるのだ。
「きっと何か楽しいジョークなのだろうか?」
私は少しワクワクしながら、英語で説明してくれそうな同僚を探して聞いてみた。
彼女によると、同僚が朗読していたのは「テラ先生語録」。何やら、テラ先生は普段から強烈なパロラッチャ(ののしり&下品な言葉)を会話に多用するらしい。そして、准教授がそれをしたためて、120個の語録集としてプレゼントする為に朗読をしていたようだ。
日本では偉い立場の人に対しては、いくら「無礼講」と言われても、決してこう言ったジョークは通じない気がする。ただ、イタリアでは、そうやって、皆なでジョークにして笑う事が多かった様に思う。また、ジョークにされた人も、日本の様に、いつまでも根に持つという事はしない様に感じた。
話を戻そう。
ある日普段研究室には来ないテラ先生が、突然私に、実験に使っているオリーブオイルがないか、わざわざ訪ねてきた。
「私は、今後も実験で使うかもしれないのに」
と心の中で、思いながら、テラ先生に逆らえず、半分だけ使い、蓋が一度空いた状態で、ラボの流し台の下に保管されていたオリーブオイルをそのまま手渡した。
因みにこのオリーブオイル、日本では100ml 約1,000円。イタリアでも、大きなボトルで20〜25ユーロする高級品で、蓋を開けた瞬間ブルスケッタ(薄くスライスして焼いたパンに、表面にオリーブオイルやニンニクを塗って好きな具材を乗せて食べるおつまみ)が食べたくなる程のオリーブオイルの芳醇な香りが、食欲をそそる一品であった。
ただ、ラボには色々な種類の有機溶媒がそこら中にあり、ラボで数ヶ月蓋が一度空いてしまった状態で、保管されていたオリーブオイルの安全性は保証されるものではない。
そこから、半年後。
私とテラ先生。そして他2人の准教授の先生方とで、実験の進捗状況報告会をした。その中で、私はオリーブオイルから抽出した実験試料が足りなくなったと報告。
そして、テラ先生は何でこんな事にという顔をしながら、私に対して
「実験試料を抽出したオリーブオイルはまだ残っているか」確認してきた。
私は一瞬戸惑ったが、テラ先生に
「I don’t have it becase you ate it (私は持っていません、何故ならば先生が食べたから)」
勿論、私はテラ先生が食べた現場は目撃していない。
ただ、イタリアはお昼ご飯にサラダを食べる際には、食べる直前に、バルサミコ酢、塩そしてオリーブオイルをかけて即席ドレッシングを作って食べるのが一般的である。だから、正直テラ先生にラボに、オリーブオイルが残っていないかどうかの確認をされた時点で、私の実験は食べられて終わってしまうレベルのものなのだと落ち込んだ。
テラ先生は、私の一言を聞いて、顔が真っ赤。
周りにいらっしゃった他の先生方も非常にバツが悪そうだった。
結局、この「食べられちゃった」事件により、私の1年分のデータは無意味になってしまい、全てやり直し。本当に笑えないエピソードではあるが、こんなお土産話しを持ち帰れる事もあんまりないと思うので。今となってはいい思い出だ。
そして、最後私が無事博士号取得した2014年。
私は、やっと使えるようになったイタリア語でミラノ中のお店に電話して、ミラノでは中々手に入らないこのオリーブオイルが売っているお店を探しあて、テラ先生への感謝ギフトとして送った。
「これは食べていいけど、ラボにあるものは食べないでくださいね!」って。
そして、彼女は満面の笑みと恥ずかしさが混ざったような目で
「Grazie mille (ありがとう)」って。
色々あったけど、多分私はこのテラ先生の事最終的には憎めないだなって。
***
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