メディアグランプリ

食パンに恋して、フラれて、見つけたものは……


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:冨井聖子(ライティングゼミ4月コース)
 
 
ふわっとしてて、口の中に芳醇な香りが広がって、あっという間に消えていく。
この瞬間が寂しくもあるのに、満たされてる気分にもなる。
 
食パンって、奇跡の食べものだと思う。
 
食パンだけは、どのお店にもあるのに、お店によって個性が出る。
ふわっと系。
バター濃厚系。
あっさり系。
パリッと系。
しっとり系。
もっちり系。
トーストにすると最高な二次加工系。
食パンとひとくちに言っても、実は多種多様で個性的。耳の焼き加減までこだわり始めたら、もう止まらない。私のイチオシは、ふわっとしてるのに、素材の香りが濃厚系。少しだけもちっとしてたら「この出会いは奇跡」と叫びたくなるほど。そんなストライクゾーンに入る食パンは、なかなか見当たらない。
 
だからこそ、休みの日が楽しみだった。
休日は、食パンハンターにとって戦いの場である。
地元函館は、実はパン激戦区。小さな市内なのに、パン屋さんがこぞって出店している。学生時代、母と2人で、全店舗を制覇した。地元を離れて10年経ったので、今でこそ新しいパン屋は分からないが、当時食べたことないお店はなかった。
車で片道1時間は全然平気。1時間半までは、行動圏内。おいしいパン屋さんを探していたのか、ゲームダンジョンの攻略気分だったのか……どちらにせよ、休日にふさわしくワクワクする時間だった。
大阪に来てからは、地区を決めてどんどん制覇していく。母が大阪に来たときに、イチオシのお店に2人で行くし、お休みの日は6店舗分の食パンを買って、食べ比べ。テーブルに食パンとショップカードを並べると、テンションが上がる。少しづつ味見をするだけなのだが、同じ味は二つとない。
お店ごとの個性があるが、どれもこれも間違いなく値段以上の価値があった。
 
そんな私のところに、小麦アレルギーの娘が生まれるなんて、誰が想像しただろうか。
 
パン教室をするほどのパン好き。食べるのも作るのも、やめられない。
休みの日は友人と買い物に行く時間よりも、パン屋に時間とお金を投資するほどの人間である。晴天の霹靂ってこういうことを言うんだなぁ、とわが子の身に起こった出来事なのに他人事だった。でも、そんなスタンスで居られたのも束の間。現実は非情にも、小麦との決別を余儀なくされる。それも、一刻も早く……。
 
パンへの暑苦しいほどの愛を振り切るように、家にあった小麦を全て友人にあげた。
小麦アレルギーを知らない方は、パンだけ辞めたらいいと思うかもしれない。違うのだ。レッスンで使っていた小麦粉をはじめ、使いかけのうどんやパスタ、パン粉にマカロニ、ふりかけまで。家をひっくり返す勢いで、小麦警察をして、発見次第、検挙である。つまり、友人に強制送還……。
 
でも、思いは募るばかり。
 
娘のことを思うと、自宅に小麦をいれたくない。小麦粉さんには、我が家の敷居を跨いでほしくない。微量でも、何かあってからでは遅いのだ。
もちろん、パンも麺も、出禁である。
 
だからといって、パンが食べたい欲求がなくなるはずもなく、悶々とした日々。
片思いがすぎる。買い物に行ってもパンコーナーやパン屋さんが目に入る。
誘われるままにパン屋さんに入ってしまうのだ。過去の癖はなかなか変わらない。
しかし、私も大人である。散り散りになった理性をかき集め、なにも買わずに出てきたことは数知れず。買おうと手を伸ばすも、直前で手を引っ込める。残念ながら、スタッフさんから見たら変質者である。そんな日々。
 
思いが募る。
食べたいという欲求も、もちろんあるのだが、それ以上に口の中で広がる幸福感を味わいたいのだ。
これはどんな味だろう。
これは何と合うんだろう。
この味は、どうしたらさらにおいしくなるだろう。
そう考えると、よだれが止まらない。あのワクワク感が欲しいのだ。
 
そういえば、食パンなんて材料はシンプルだ。
小麦粉、イースト、味付けに砂糖と塩と油があればできる。
シンプルだからこそ、個性が出る。
 
待てよ?
小麦粉を米粉にしたら良いだけではないか!
よし、無いならつくろう。
 
パンへの暑苦しい愛が、一周回って落ち着いた。
私のストーカー化した愛情が、「米粉パン」という未知の領域に、一気に注ぎ込まれた瞬間である。
 
あの日から5年。
祖父から「あのパン、また食べたいなぁ」と言われる。
友人のお土産にすると「このパンが好きなんだよね」と言ってもらえる。
小麦が食べれるとか、食べられないとか関係なく、どんな人にもそう言われるようなレシピが完成した。
 
一言でいうなら、美人な食パン。
型から出した瞬間、立ち上る香りは、私の鼻を否応になく刺激する。
室内が幸福で満たされる。
艶やかな見た目や断面の白さと柔らかさは、頬ずりしたくなるほどである。
 
でも、実は
「ママのパン、最高! 」
と、おいしそうに食べる娘の笑顔が、1番のご褒美かもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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