メディアグランプリ

東京湾マダコ釣行記


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木田 和廣(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
6月4日土曜日、午前7時15分。まだ朝もやが消えきらない静けさの中、「ドッドッ、ドッドッ、ドッドッ」エンジンが規則正しく律動し安達船長が操船する第八ミナミ丸が六郷水門の船着き場をゆっくりと離れる。船長が選択した今日の目的地は川崎の工業地帯にある京浜運河。そこまで20分ほどで到着するはずだ。
 
乗るのは片舷ちょうど8人づつ、ちょうど16人の釣り人。Jさんが幹事となり船を貸し切った釣行である。16人はJさんを中心とした友人たち。したがって、釣り人同士は友達、もしくは友達の友達である。知らない人と乗り合う船にくらべ、船中の雰囲気は柔らかい。狙いは6月1日に解禁したばかりのマダコである。「自分は絶対に釣れるはずだ」根拠のない確信を抱く16人の釣り人により船中は静かな興奮で満たされている。天候は晴れときどき曇り。北東の微風風速3m。潮は中潮。絶好のコンディションである。
 
エンジン音が小さくなりアイドル状態になると船のスピードが落ちる。惰性で船は進み続ける。船あしが止まる直前、船長が軽くエンジンをリバースでふかす。船は完全に停止する。「このあたりでやってみましょうか、どうぞ」船に備えてあるスピーカーから船長のアナウンスが流れる。16人の釣り人が一斉にエギと呼ぶエビを模した疑似餌を海中に投じる。
 
私もリールのクラッチを切り、ラインを解放する。スルスルとリールがラインを吐き出す。数秒後、竿に伝わる僅かな衝撃とラインのふわっとしたたるみがエギにつけた30号のオモリが着底したことを教えてくれる。糸ふけを取りゼロテンションをキープする。竿先を20cm程度、上下にリズミカルに動かす。そうすることでエギにつけたオモリを小刻みに動かし、海底でエギを踊らせてマダコにアピールする。
 
「ここにエビがいますよ!」
 
マダコがエギを見つけてくれるかどうか? ここでは運の要素と技術の要素がせめぎ合う。エギを投入したエリアにマダコがいるかいないかは完全に運だ。上級者であっても必ずマダコがいるエリアにエギを投げ入れることはできない。今日初めてマダコ釣りをした初心者が投入したエギのすぐそばにマダコがいることもある。
 
一方、技術の要素も大きい。初心者はエギを投げることができず、船の真下に落とすので、エギとマダコの出会いは”点”である。釣っている間、船長の操船により船は緩やかに動くが、それでも探れる範囲は狭い。上級者は竿を操作して、人によっては20mもエギを投げることができる。海底でエギを踊らせながら徐々に手前に寄せてくることでエギとマダコの出会いは”線”になる。それだけ探れる範囲は広がりマダコがエギを見つけてくれる可能性が高まる。
エギを踊らせるのも技術である。その日のマダコの食欲や警戒心の高低で最適な踊らせ方がある。早く、小刻みか? 緩やかに大きめにか? ずっと踊らせ続けるのか? 踊らせた後数秒の踊らせない時間を作るのか?
そもそも、オモリの重さのチョイス、エギ自体のチョイスも技術である。オモリは30号が一般的だが、より軽やかにエギを踊らせたい場合には10号を使う人もいる。エギには、白、黄色、ピンク、オレンジ、緑、青、赤などの色とサイズのバリエーションがある。その日の海の濁り、日の差し込み具合で最もマダコに見つけてもらいやすい色とサイズを選ぶ。
 
「コツコツコツ」
 
オモリで海底を小突く。数秒待つ。
 
「コツコツコツ」
 
また、小突く。数秒待つ。
 
「コツコツコツ」「あれ?」
 
今までラインに引かれ、緩められ、海底を叩いていたオモリがなんだか動かなくなった。心なしか重い。粘着状の物体で海底に押さえつけられている気がする。
 
「アタリだ!」
 
マダコが、エギにまず触手を伸ばし、次に全身で飛びかかる。足を絡めエギを抱く。その動作がラインを通じて釣り人に伝わる。
 
慌ててはいけない。
 
しっかりと抱きつくまで数秒、十数秒小突き続ける。
 
「今だ!」
 
勝負の一瞬である。大きく、比較的素早く竿を跳ね上げる。
 
スッ!
 
軽い。空振りだ。マダコはエギを抱いていなかったのだ。本物のエビではないことを察してエギを離してしまったか、エギの先についている針が海底の何かに引っかかっていただけのようだ。落胆するまもなくリールを巻いてエギを回収し、再度投げる。
 
着底、小突き。
 
「コツコツコツ」、「コツコツコツ」
 
十数分後、再びアタリ。あせらず数秒小突き続ける。
 
「今度はどうだ!」竿を跳ね上げる。
 
ズシン!
 
「乗った!」
 
マダコがかかった。アドレナリンが脳内に噴出する。竿を持つ左手に重さが伝わる。リールを巻く右手にも抵抗と重量感を感じる。
 
「バレるなよ、バレるなよ」口には出さないがお祈りする。
 
リールを一定の速度で巻き続ける。慌てる必要はない、急ぐ必要はない。しかし決して、一瞬たりともラインを緩めてはいけない。
 
海中から上がってくるマダコが見えてくる。
 
「大きいぞ!」
 
バレるのは海中よりも、海から抜き上げた空中のことが多い。マダコが船の舷側を超えるまでは安心できない。慎重に取り込む。
 
「やった!」
 
午後3時15分に終了したこの日の釣果は、竿頭13杯に対して、自分は9杯。善戦した。
 
たこ飯、アヒージョ、唐揚げで食べよう。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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