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ぼくの辞書のリリックの棒読み 

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記事:細井 岳(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
この春、娘が小学生になった。学生たるもの国語辞典の一冊は座右に置いておかねばなるまいと思ったので、
 
「新レインボー 小学国語辞典(改訂第6版)」(学研)
という小学生向きの国語辞典を買い与えた。
娘よ、言葉という大海原へ存分に漕ぎ出すよい、という思いをこめて。
 
さて、贈ってから2か月が経たんとしている。彼女は港に停泊したままだ。いっかな辞書を引く気配がない。むしろ辞書は彼女の興味を引かないようだ。時期尚早であったか……
 
ぐむむ、仕方ない。開かれない辞書が不憫であるので、パラパラめくってみる。小学生向けとあって、語義は簡潔。イラストや写真もふんだんに使われている。言葉に関してのコラムなどもあり、内容盛りだくさん。何よりも、とても分かりやすい。これは面白い。
 
思わず読んでしまう。そして、こんな言葉が並んでいる箇所に目が留まったのだった。
 
らいはる【来春】
ライバル
らいひん【来賓】
(P1338より)
 
なんというキレ。「らい・ライ・らい」という韻律による躍動感。浮かび上がってくる情景。ライバルに先をこされて悔しくて、切ないという詠み人(って誰?)の心情が伝わってくる。
 
詩、だなと思った。
 
いやしかし、これはたまたま。こんな並びはそうそうないに違いあるまいと思いつつ、同じページの下の方に目をやると、
  
ラガー
らがん【裸眼】
らく【楽】
(P1338より)
 
……とあった。心が躍った。
ラグビー選手がレーシック手術を受けて、久々の裸眼で試合に臨み、いきいきとプレーする姿が脳内で再生された。なんか微笑ましい。
 
いわずもがなだけど、国語辞典とは五十音順という決まった順番で言葉を並べたもの。五十音順という絶対的なルールに則って、言葉たちは機械的に並べられるわけだ。そういう中で、上記二つの詩(のようなもの)が生まれ落ちたということ、それが私にはとても面白く思えた。
 
この「新レインボー 小学国語辞典(改訂第6版)」を編纂した人々の意図を感じとってしまったから。ルール/制約のなかで遊んでいる人の姿が見えたから。そして、その人たちはすごく真面目な顔をして、平然と悠然とフザケているように見えたから。
 
もっと彼らと遊びたい。
私は娘の辞書の詩探しに熱中した。詩的で素敵な言葉(の並び)は、たくさん発見された。
 
とっとと
とっとりけん【鳥取県】
とっとりし【鳥取市】
とつにゅう【突入】
(P902より)
 
これまた、なんというキレ味。たたみかけるような「とっとっとっ」の律動が我々を鳥取県へと向かわせるようだ。鳥取県はキャッチコピーとして採用すべきだと思う。同じページにこんなのもあった。
 
どっちみち【どっち道】
とっちめる
(P902より)
 
怖ぇ……
すごく悪い人が言っているんだろうけど、何をしたらこんな事になるんだろうか。怖いけど気になる。怖いけど気になると言えば、こんなのもあった。
 
きのとおくなるような【気の遠くなるような】
きのどく【気の毒】
(P326より)
 
私はこれほど鮮やかな、「気の毒」の形容をみたことがない。思わず唸った。他者の痛みは絶対にわかり得ない、それこそ気の遠くなるような隔たりがあるわけで、それを思う事こそ「気の毒」の本質なのではないか。期せずして、言葉の理解が深まってしまった。
 
固有名詞を載せているところも小学国語辞典の特徴だと思われるが、これらも味わい深い表現となっていて見逃せない。
 
きたならしい【汚らしい】
きたはらはくしゅう【北原白秋】
(P322より)
 
いしかわたくぼく【石川啄木】
いじがわるい【意地が悪い】
(P76より)
 
今まで北原白秋に漠然とキレイなイメージを持っていたので、「汚らしい」を北原白秋にくっつけてもいいのだと気付かされる。それにしても詩人に恨みでもあるのだろうか。
 
ル・コルビュジエ
るざい【流罪】
(P1360より)
 
建築家にも容赦がないようだ。もしかしたらフランスでこういうギャグがあるのかもしれない。そして、がきデカのようなキャラクターの持ちネタなのかもしれない。
 
当たり前だが辞書詩(と呼んでみることにする)には、文の最小単位である単語二つのパターンが多い。五十音順に並んでいるので、単語数が多くなるほど意味が生成される単語の連続は出にくい。今の所発見できた最長のものは四単語だ。
 
ふしんかん【不信感】
ふしんせつ【不親切】
ふじんだんたい【婦人団体】
ふしんにん【不信任】
(P1125~1126より)
 
不親切な婦人団体が人々の不信感をかい、不信任される。韻をふんでいるから、文に勢いがある。ラップでいう所のフロウが生まれている。この辞書詩を見つけた時の興奮は忘れられない。
 
この興奮をもう一度味わいたくて、辞書を読み込んでいる今日この頃である。あまりに熱心に辞書を読んでいるので娘も気になりだしたようだ。嬉しそうに「とっとと 鳥取県!!」とか「とんま ドンマイ」とか「ひんぱつ ピンはね」などと私が発掘した作品を詠じるようになってきた。
 
彼女が辞書沼にはまりこむ日もそう遠くないだろう。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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