メディアグランプリ

人生で初めて「理不尽」を学んだ幼稚園時代を思い出させてくれたきっかけは、コロナ禍の大掃除だった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:mikkiharugon (ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
2020年、外出を自粛し自宅で過ごすことが多くなった私は、ついに、不用品一掃! を決断した。
 
生まれてからずーーっと自分の家で暮らしてきた私。
 
地元の慣習なのか、一人娘が結婚した時に困らないよう「先に」住む家を建ててしまっている親族が近所には少なからずあった。私の家もそうだった。
結婚相手がいるわけでもないのに、20代早々に、早くも私の「結婚後」の家が建ってしまっていた。そして、今ではそこに、子供が独立してしまった私と母が二人で暮らしている。
大きな家でうらやましいですと言われることもあったが、いやいや、築ウン十年、昭和時代に作られた家に住むということは、新世代の家に住む人々には分からない、大変なことがたくさんある。
 
その一つが、荷物が多いこと、ではないだろうか。これは私の意見だが。
気づけばモノがどんどん増えていく。それは、置き場所があるから。
やたらと広い家。やたらと多い収納場所。
すき間があれば、そこに居座り続け、放置され続けるモノたちがいた。
 
ずっと、気になっていた。
「断捨離」という言葉を目にする度、「あ、私の家のことを言ってるのね」と恥ずかしい気持ちになっていたものだ。
 
そこへ来たコロナ禍だった。
 
私は、2か月間自宅にこもることになり、
「よし! この機会に家じゅうを片付けよう」と決心した。
まず、押し入れの中に何があるのだろうか、と思い立って……ふすまを開けてみた。
 
そうしたら、もう何十年も開けていないだろう箱が山積みになっていた。
さらに奥にしまってある箱を開けてみた。
すべて古びたにおいがしていた。
そこには、私の幼稚園時代の作品だとか、一学年ごとにもらえる連絡帳、が入っていた。
そして、私は箱にうずもれていたある一つのものを見つけ、「あっ」と思わず声をだしてしまった。
 
それは、私の幼稚園の卒園作品だった。
写真だけで見ると、何なのか分からないかもしれないが、
コレは「ダルマ」で、真ん中の黒いのは目と鼻? 多分、顔のつもり。
 
5歳の子供ながら、全くやる気が感じられない作品だ。
いくらセンスない私でもこれはない。
 
なぜ、やる気がなかったのか。
 
実は、私は、卒園作品で作りたいものがあった。
お父さんに、灰皿をプレゼントしたかったのだ。
作品作りは、確か皆が一か所に集まって、横に並んで粘土をこねていた。
皆が一斉に集まる場所があったと覚えている。
私が通った幼稚園は、お寺が運営母体だったので、広い本堂があったのだ。
そうして、私が灰皿を作り始めたら、近くに住むお友達が私のマネをして、灰皿を作り始めた。
 
幼稚園時代は、その人の持ってる性格というか性分というか、そんなものが子どもとはいえ人間関係で垣間見れる最初の年代だと思う。
積極的なのか、消極的なのか。
優しいのか、そうでないのか、要領いいのか、悪いのか。
 
私のマネをした子は、いつも元気で明るく活発。目立つタイプで、既にリーダーシップ性を出していて、率先して動く子だった。
私は、自分にないものを持っているその子に憧れていたのだろう。
家が近所ということもあって、よく一緒に遊んでもらっていた。彼女の取り巻きの中の一人として。
だから、その子が私のマネをして灰皿を作り始めた時、いつもと反対で、私が先に考えて、その子がマネをしてくれたというのが、少し嬉しかったのかもしれない。
 
ところが……
そこへ来た先生が、私に、こう言った。
「〇〇ちゃんのマネをしてはいけません。別のものを作りなさい」と。
 
性格もおとなしくて、全然目立たない存在だった私。
先生に「私のほうが先に灰皿を作ったんだよ!! 」とは言えなかった。
そして、その友達も「自分がマネしたんだよ」と、先生に言わなかった。
 
私は、灰皿の下地を、壊すことにした。
全くやる気のなくなった私が、なんでもいいや、の気持ちで作ったのが、おにぎり型のダルマだったのだ。
 
私は自分が泣かなかったことを覚えている。
ただ、「自分の言い分は全く聞いてもらえない」ということ、と、明るくて元気なお友達を、先生は信じたことが「くっきりと」わかった。
 
それで先生を嫌いにはならなかったけど、ショックだったし、悲しかった。
 
「社会にはヒイキの世界がある」ことを、初めて、はっきりと突き付けられたのがこの出来事だった。
理不尽、という言葉で表したらいいのだろうか。
あの時、勇気を出して「私が先に作ったんだよ」と言えばよかっただけなのかもしれない。
今の私だったら、お釣りが出るくらい言いまくるだろう。
だが、言えなかったのだ。あの小さかった私は、その一言が言えなかった。
 
作品が出来上がったとき、皆の卒業作品は、並んで、日に干されていた。
私の「ダルマ」も干されていた。友達の灰皿もあった。
その光景をうっすらとだが、思い出した。その時の私の感情はもう今は覚えていない。
その先生のヒイキが悪いとも、友達がずるいとも思わない。
ただ、あのくやしさや失望感を、5歳で体感することができたのは、なかなか貴重だったのではないだろうかと、正直思う。幼稚園の卒園にしては、なかなか渋みのある思い出をいただいたな、と。
 
私は、現物を見るまで、こんな出来事はすっかり忘れていた。
私のやる気が一気に下がった卒園作品なんて見たくもなかったが……
そんなことより、
親が私の作品を40年以上経っても、捨てずに保管してくれていた。
たとえ、ただ捨てられず、置いてあっただけとしても、私の作品を大事にしたいというその思いのほうが嬉しかった。
人生初の理不尽で味わったくやしさより、親の思いのほうが圧勝でしたね。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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