メディアグランプリ

考えるな、マシンになれ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:島田 弘(ライティング・ゼミNEO)
 
 
私が初めてアルバイトをしたのは高校1年生の時。オートバイの免許を取るため、そしてオートバイが欲しかったので、アルバイトをしようと決めた。
選んだアルバイト先は、木久蔵ラーメン。
落語家の林家木久蔵さん(現在、林家木久扇)が運営していたラーメン屋さんだ。
 
TVの笑点などで、「食べたら腹を壊した」「人食いワニに食べさせたらワニが即死した」などとイジられていたが、ラーメンとしては正統派で、お客さんの入りも良かった。
 
大学生のときには、コンビニ、レンタルビデオ、小学生のキャンプの引率、塾講師、家庭教師、予備校のチューターなどを経験した。
変わったところでは、業務スーパーのようなところで、冷凍マグロの解体と解凍のアルバイト。肉体的にメチャクチャきつかった。
「冷凍庫の中で、絶対に呼吸をしないでね。肺が凍って死ぬから」
本当かどうか知らないけれど、温度計はいつも、マイナス50度以下だった。
 
年末限定で新巻鮭を売ったこともある。新巻鮭は、そのスーパー始まって以来の販売数を記録し、「うちに就職しないか」と誘ってもらえるほどだった。
 
大学を卒業してからもいろいろなアルバイトをしてきたが、これまでの人生においてもう二度とやりたくないアルバイトがある。
冷凍マグロよりキツかった。
 
それは、〇〇パンの工場。
 
初めて〇〇パンのアルバイトに行った日。その日のアルバイトの人たちが製造ライン入り口付近に集められ、仕事内容の説明が始まった。いくつかの仕事が紹介されていたが、私にはよくわからなかった。説明が終わると、ベテランのアルバイトスタッフの人たちは、足早にどんどん自分の仕事を選んで作業に入っていった。私はよくわからなかったので、残った仕事をやることにした。
 
その日の私の仕事は、「いちご」だった。
 
私の他に同じ作業をする人が2人。食品工場でおなじみの帽子をかぶり、マスクをしているため、おしゃべりなどはなかった。目の前に大量のイチゴが運ばれてきて、一言説明があった。
 
「きれいにヘタを取ってください」
 
これまでの人生で見たことのない量のいちごを前に、3人で黙々とイチゴのヘタ取りを始めた。2時間くらい経った頃に、目の前にあった大量のイチゴがなくなった。「やっと終わった」と、言葉はかわさなかったが、3人は同じ気持ちだったと思う。
社員の方に、「終りました」と伝えると、「あぁ、ちょっと待ってて」と言われ、待っていると、2時間前と同じ量のイチゴが再び運ばれてきた。
私たちは、休憩を挟みながら6時間、イチゴのヘタを取り続けた。6時間も同じ作業していると、右手はイチゴのヘタを取る形に固まってしまった。手を開こうと思っても、脳からの命令だけでは開かない。左手を使って無理矢理開かせようとすると強い痛みが走るほどだった。
 
イチゴのヘタ取りを終えた私たちの次の仕事は、「苺大福」だった。
 
先ほどヘタを取ったイチゴたちが、機械によってあんこに包まれ、さらにお餅で包まれ、機械のカッターで「ぽとっ」と切り落とされる。
それが製造ラインのベルトの上を私たち3人の方へ移動してくるのだ。
 
機械によって切り落とされた未完成の苺大福。なぜ未完成なのかというと、そのままの状態だと、お餅の部分がくっついておらず、あんこがむき出しになってしまうから。そのため、機械で切られたお餅の断面を、私の両手の親指と人差し指、合計4本の指で「きゅっ」とつまむことが必要なんだそうだ。
私たち3人は、未完成の苺大福を完成させるために永遠と流れてくる未完成の苺大福を「きゅっ」とやり続けた。
 
休憩時間に、ここで6年間、週5でアルバイトをしているベテランの方と話をさせてもらったときに、1つアドバイスをもらった。
「ここでの仕事をするときは、何も考えるな。マシンになれ」
 
初日の仕事を終える頃、的確なアドバイスをもらっていたんだなと実感した。
 
これまでにたくさんのアルバイトを経験してきた中で、どうしてこのアルバイトだけは二度とやりたくないと思ってしまうのか。
 
そのときはわからなかった。
 
今は、1つの明確な理由がある。
 
他のアルバイトは、自分で仮説を立て、実際に試し検証をする事ができ、改善を繰り返すことができたのだ。それが私にとってはとても楽しかった。
 
木久蔵ラーメンのときは、チャーハンの注文が入ると、中華鍋に油と溶き卵を入れるところから。炊飯器からご飯を入れるんじゃなくて、わざと冷蔵庫に入れた冷や飯の方が美味しくなることや、その冷や飯を、どのタイミングで入れると黄金チャーハンになるのか、味付けは溶き卵にするのか、炒めている最中にするのか、両方か、なんてことも「まかない飯」を作りながら試行錯誤をした。
 
「炒める」ことにハマってしまった。
横浜中華街で鉄製の中華鍋を買い、錆止め加工を焼き切り、油ならしをするところから。マイ中華鍋の完成。
テフロン加工の鍋では、絶対に出せない味が家でも出せるようになったりして、嬉しかったなぁ。
 
〇〇パンの工場でのアルバイトは、こういう体験ができなかった。なかった。
アイデアを実行できる余白がゼロ。
 
私にとって、仕事には「余白」が重要みたい。
 
いちごのヘタ取りと、苺大福のお餅「きゅっ」には、どうしてもクリエイティブな思考をすることができなかった私。
 
マシンになるのは嫌だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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