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メディアグランプリ

面倒くさがりで見栄っ張りだけど、自家製の梅酒が飲みたい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今村真緒(ライティング・ゼミNEO)
 
 
5月の終わりになると、スーパーの青果売り場には青梅が大量に並ぶ。
氷砂糖やホワイトリカー、梅を漬ける瓶がセットのように並べられているのを見たことはないだろうか?
梅が旬を迎える時期に、梅干しや梅酒などの保存食を作ることを「梅仕事」と呼ぶ。いかにも日本らしい季節を感じさせる手仕事である。
いいなー。梅酒作ってみたいなー。この10数年、私はそう思っているのになぜか梅酒づくりに手を出したことがなかった。
 
今年もこの時期になってスーパーに行くと、つい梅のコーナーに目を走らせてしまう。すると、「今日も買わないの?」と梅から寂し気に問いかけられている気がした。やっぱり、かなり惹かれている。好物の梅酒を自分で作るなんて最高に決まっている。
 
スーパーで夕食の材料を物色しながら、どうして作ろうとしないのか考えてみた。
そもそも私は、面倒くさがりだ。「作らなくても市販もので十分」と思っているし、何ならそっちの方が自分で作るものより美味しいはずだと思う。専門家が作った方が美味しいのは当たり前。そう言って、自分がやらなくてもよいことだとすり替える。そしてもう一つは、「うまくできなかったらどうしよう」という不安だ。やるからには上手にやりたい。失敗したらカッコ悪いし、梅が嫌いになりそうだ。見栄っ張りまでが顔を出し、関所のように私の行く手を阻む。
 
もちろん頭では分かっている。やりたいならば、やればいいだけだ。ずるずると言い訳の無限ループをするよりも、ただやればいいだけ。なのに、その一歩がどうしても踏み出せない。相変わらずスーパーで目に付くのは、1キロ単位で売られている魅惑の梅たち。今年もまた、未練タラタラで眺めるだけなのか?
 
スーパーから戻ると、また梅のことが頭に浮かんだ。忘れたいのに忘れられない元彼のように、梅はしつこく私の心を揺さぶるのだ。はやく手に入れないと、また季節が過ぎてしまう。今までの成就しなかった想いと、最近高まっている「おうちでいろいろ作ってみよう」熱が私の背中をぐいぐい押した。
 
もう既成事実を作ってしまおう! つべこべ言わずに梅酒づくりの材料を買ってしまえ! 買ったからには、さすがに私でも梅が黄色くなってしまう前に漬けざるを得ないだろう。作り方は、ネットで情報を集めれば何とかなる。
 
次の日、私はスーパーではなく農産物直売所へと向かった。より新鮮な青梅を手に入れたくなったのだ。ところが、ざっと目を泳がせて梅を探すが見つからない。しまった、もっと早い時間に来るべきだったのか? もう梅は全て買われてしまった後なのか? 出鼻を挫かれた私は、焦ってスタッフの人に尋ねた。
「すみません。もう梅は全部売れちゃったんでしょうか?」
眉毛をハの字にして返事を待つ。「裏に在庫があるので持ってきましょうか?」なんて言ってくれるのを期待しながら。
 
頭に三角巾を巻いたスタッフの女性が、不思議そうに私の顔を眺める。そして、私のすぐそばをスッと指差した。
「あそこにありますよ」
う、灯台下暗し。私の目は焦点が合っていなかったらしい。慌てるあまり、あちこちに視線を動かすだけで、梅をしっかりとらえていなかった様だ。ちょっと恥ずかしくなり、「ありがとうございます」が尻すぼみになった。
 
1キロずつパッキングされた梅は、残り3パックとなっていた。梅酒はもちろんだけど、梅シロップも作りたかった私は、それぞれ1キロずつ使うつもりで2キロ購入することにした。青梅は、実が硬く締まっていていい感じだ。一緒に氷砂糖とホワイトリカーも買って、近くのホームセンターで手頃な瓶を購入した私は、意気揚々と自宅に戻った。
 
ほらね、もうやらざるを得なくなったじゃない?
もう一人の自分が笑って言う。確かにそうだ。動かせば足は自然と進むのに、何でためらっていたのだろう? 今回は衝動的だったけれど、一歩を踏み出せた。材料は揃ったんだから、後はやってみるだけだ。
 
いくつものネット記事でやり方を復唱する。ちょっとずつ違うやり方に戸惑うものの、できるだけシンプルで、初心者の私がやりやすい方法を選ぶ。
まず、青梅を1時間程水に浸してアクを抜く。その後きれいに水洗いをして竹串でヘタを取っていく。そのとき、青梅の上下にラインが入っているところからヘタの下に竹串を差し込むと取れやすいようだ。グッと竹串を刺すと、勢いよくヘタが弾け飛んだ。なんだ、案外簡単だ。ヘタをきれいに取る程味も良くなるということだったので、取り残さないように老眼鏡を掛けて作業していると、集中しすぎてちょっと酔った。思ったよりもヘタは簡単に取れるので、老眼鏡まで必要なかったのかもしれない。
 
カビが生えないように、丹念にキッチンペーパーで一つずつ梅に水気を拭っていく。私は丸いものに愛着を覚える質なので、梅のこじんまりとした丸みに言いようのない愛しさを感じた。手のひらの上でコロコロと梅の実を転がしてみる。「かわいい、かわいい小梅ちゃん。おいしい梅酒になーれ」と呪文を唱えながら。
 
煮沸または消毒した瓶に、梅と氷砂糖を交互に三層くらいに重ねていく。その後ホワイトリカーを1.8リットル注いで蓋をすれば、仕込みは完了だ。後は冷暗所に保存すれば、日にちが熟成を進めてくれる。3か月後くらいが、まるやかになって飲み頃らしい。同じように梅シロップも仕込む。こちらは梅と氷砂糖を重ねた後、発酵しすぎを抑えるためにホワイトリカーを100㏄ほど加えてみた。
 
初めての梅仕事が嬉しくて周囲に伝えると、私のような若葉マークの人から熟練の匠まで、同じ時期に梅仕事をした仲間が結構いることに驚いた。先輩からは、氷砂糖の解け残りが出ないよう早い段階でかき混ぜておいた方がいいよというアドバイスをもらい早速実行した。瓶の中の青梅はすでに黄色っぽく変化してきた。毎日、日課のように梅の瓶を揺すっては「美味しくなってね」と念を送る。梅たちが頑張っているのにそれぐらいしか応援できず、もどかしい思いになる。まるで、夜中まで受験勉強に没頭している子どもを見守る母の気持ちだ。
 
夏の終わりになれば、ちょうど梅酒の飲み頃になるだろう。それまで私は毎日瓶の中の梅を観察しながら応援し続ける。出来上がった暁には、梅仕事仲間と一緒に乾杯したい気持ちだ。
自分事になると、こんなにも一生懸命になる。手仕事の魔法だ。手をかければ、市販では味わえない感情を手に入れられる。
ふと、毎年この季節にスーパーで大量の梅が売られている訳が分かった気がした。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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