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「余裕のある女」になることを、ここに宣言します

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川端彩香(ライティング・ゼミNEO)
 
 
その日は一日通してなんだか調子が悪い日だった。電車を乗り間違えて出張先で遅刻したり、「添付ご確認ください」と送ったメールに添付ファイルを付け忘れたり。なんか、このまま一日を終わらせるのは嫌だ。そう思った私は、翌日に休みを取っていたので、常連というほどではないが友人とよく行くバーへ向かった。火曜日の話だ。
 
一人で行くのは初めてだった。私のようなちんちくりんがバーで一人だなんて、なんだか恰好がつかないと自虐していて行く勇気がなかったからだ。だけど今日は火曜日。当たり前だが明日は水曜日。こんなド平日の20時オープン直後に、バーに行く奴おらんだろ。明日休みの私を除いては!
 
誰もお客さんがいないと思い、勢いよく店内に入った。すると、先客がいたのだが、その先客を見て私は思わず顔を逸らした。相手も、私から思い切り顔を逸らした。
 
3週間前にご飯に行き、先週連絡が途切れた人だった。しかも、女連れ。
 
確かにその人との出会いは、このバーだった。そりゃ偶然会うこともあるかもしれない。でも相手も土日休みだったはずだ。こんな平日の、オープン直後の、人がほぼいないであろう時間に会ってしまうなんて。しかも、連絡が途切れたばかりという、超気まずい状況で会ってしまうなんて。しかもしかも、向こうは女連れ。こちらはおひとり様。なぜか少し惨めに感じてしまう自分もいた。いや、こんなベタベタなドラマみたいな展開、あるか?
 
整理してみよう。ちょっといいなと思ってご飯に行った異性と、連絡が途絶え、その後偶然バーで再会する。向こうは女連れ。こちらは一人。「!?!?!?」とお互い目を見開き認識するも、言葉を交わすことなく同じ空間に居続ける。
 
……帰りたい。帰りたすぎる。脳内で少しドラマ仕立てにしてみようとしたけど、無理がある。帰りたい。だって、気まずすぎるじゃないか。実際は目を合わすことなく、お互い咄嗟に気付き顔を思いっきり逸らしたのだが。向こうは同行の女性に小声で私のこと言ってるのが雰囲気でわかるしさ。もうさ、どう考えても、気まずすぎるじゃないか。
 
だって私、癒されにここに来たのに。未だかつてないくらいの激務&連勤が続いて、めちゃくちゃ疲れていたのに。まためちゃくちゃ疲れることが起こってしまったやないか。ここに来てなぜまた別次元の疲れを感じないといけないのか。今日良いことなさすぎやしないか? もうやだ帰りたい。早く帰りたい。このまま「間違えましたー!」とか何とか叫んで元気に回れ右して帰りたい。なんだよ、もう。私今日なんかした? 今日に限らず、ここ最近なんかした? 悪いことした? なんでこんなときめかない偶然ばっかり引き寄せてんだよ、この幸薄女(私)。
 
しかしそんなに広くない店内。何も事情を知らないマスターが「いらっしゃーい! 久しぶりだね~」と爽やかスマイルで出迎えてくれている。帰れない。
 
とりあえず、一杯飲もう。そして、帰ろう。
 
良いのか悪いのか、マスターがカクテルを作ってくれている間に、別のお客さんの入店があり、私と彼(と連れの女性)の間は埋められた。これで視界に入らなくて済む。……いや、だからなぜ私が気を使わねばならんのだ。向こうが先に来ていただけであって、私も奴と同等の客なのだ。先客だったから偉いだなんて、そんなもんあってたまるか。
 
マスターに相手をしてもらおうにも、満席になってしまったので忙しそうだ。いやだから今日は平日のまだ20時すぎだってば。みんなバーに来るには早すぎるだろってば。
手持ち無沙汰になってしまった私は、スマホで友人たちに現在のこのカオスな状況を逐一報告していた。バーに来ているにも関わらずスマホを一人でひたすらに高速タイピングしている孤独さは、今は置いておいてほしい。何しにここにいるんだ? と虚しさも感じたが、それも一旦置いておいてほしい。
 
優しい友人たちは先客の彼とご飯に行ったことも知っていたので、そのカオスな状況に絶句していた。絶句しながらも、一人の友人が「そういう時は、会釈ぐらいで終わらせておくものよ。無視するとか、自分の格が落ちるからね!」とメッセージを送ってきた。
 
うお、そういう発想があったのか……。でもそう言われてみると、奴だと思った瞬間、反射的に顔を思いっきり逸らしてしまう私、確かに大人げない……。それは向こうも同じだが。
 
続けて、「そういう場では、自分のことを『余裕のある良い女』やと言い聞かせて過ごした方がいいし、意識せずともそうなれるように日頃から気を付けておくべきよ」とも。
 
な、なるほど……。私はまだまだ、見た目のちんちくりんに負けず劣らず、中身もお子ちゃまだったということか……。確かに余裕のある女性は美しい。常に落ち着きがなかったり、せかせかしている女性を見ているだけで、こちらもなんだか焦って落ち着きがなくなってしまう。余裕のある女性は、表情も動きもなんだか穏やかに見えるし、こちらは見ているだけで少し癒されるような気もする。人間としての器も広そうだ。そして何よりモテそうだし、良い男性とも出会えそうだ。
 
ということで、私は余裕のある女になることにした。咄嗟の出来事にも焦らず、せめて見かけだけでも平常心を装える女になりたい。あらゆる物事に動じない、余裕のある女になりたい。30歳夏、新たな課題が見つかった。
 
結局カオスな出来事により締め括りもなんだか微妙な一日だったが、新たな課題を与えてくれた彼には感謝しよう。でももう二度と、会うことはありませんように。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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