メディアグランプリ

秘密~不倫じゃないけど人には言えない恋愛について話そう


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記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
小説や映画の話ではなく、私だって大恋愛をしたことがある。過去の唯一の恋。それは人生そのものだった。告白しよう。私は、高校生だった16歳のときから教師と12年付き合って結婚して離婚した女だ。この話をするとたいていの人は驚く。驚きのツボは離婚したことか12年も付き合ったことか、それとも……。そう、好奇心が疼くのは「生徒と教師の恋愛」、そこに集中する。では、皆が知りたくてたまらない禁断の恋バナをしよう。
 
初めての恋だった。毎日が幸せで人生がバラ色とはこういうことかと思った。なれそめ(皆これを一番聞きたがる)は部活。告白は彼から。接点が多かったことがきっかけだ。ごく普通のカップルだったと思う。少し違うのは相手が22歳の社会人だったこと。まわりが学生の付き合いをしているころ、私は車をもっている大人とのデートを楽しんでいた。自分でお金を出したこともない。彼がすごく大人に見えた。そして、まわりとかなり違っていたのは、絶対に誰にも秘密だということ。教師との恋愛がヤバいことはわかっていた。彼は、いわゆる「教え子に手を出した」問題教師として将来を断たれるだろう。彼の立場を悪くすることは絶対にできない。私は盲目的に従順に、ひたすら秘密を守った。
 
未成年だったので詳細は省くが、男女のイベントもクリアしていった。関係が深まるほど秘密は色を濃くしていく。だが、人に言えないことを悲しく思ったことはない。日陰の女であることを惨めに思ったこともない。むしろ秘密が快感だった。二人の関係を誰も知らない。歪んだ優越感。学生の恋愛では味わえないスリルを初めての恋で知ってしまった。堕ちたのだ。恋の地獄に。
 
まだ携帯がない時代、待ち合わせもままならない。彼が遅くなれば何時間でも待ち続けた。ドライブのとき、知人を見かけると体を伏せて身を隠した。手をつないで歩いたこともない。いつも少し後ろを歩いた。それが癖になり当たり前になった。それでも幸せだった。優越感とともに私を守っているものがあったからだ。最強の武器「愛されてる自信」だ。この思いの前にはどんな不遇も毛ほども気にならない。一途な自分に酔ってもいた。高校を卒業すれば付き合い方も変わるだろうと漠然と思っていた。
 
短大に進学し、一人暮らしをはじめた。自宅から車で3時間ほどの距離は二人の仲をますます濃密にしていった。他の男とは関わらず一生懸命勉強する。きちんと卒業してきちんと就職し、彼にふさわしい女になる。彼は私の生きる指針。大人の彼を必死に追いかけた。少し後ろを歩くのではなく横に並びたい。だけど、彼の私に対する扱いはなにも変わらなかった。知らない街でさえ手をつないで歩くことはなかった。いいの、これで。私たちにはこれが普通だから。私が成人したらもっと進展するに違いないと漠然と考えていた。
 
就職し、一年過ぎ二年過ぎ、三年が過ぎた。すぐにでも結婚するのだと思っていた。だけど二人の仲は変わらない。いや、変わった。社会人として猛烈に働きはじめた私はいつの間にか彼を追い越していた。彼も忙しく、私との将来を考えようともしなかった。いまだに人目を避け、顔を合わせるのは部屋の中だけ。どんなに待っても将来の話は出てこない。恋人同士の甘い空気は消えた。大人だと思っていた彼はただの頼りない男だった。出会って10年。長すぎた。春は永遠に続かない。私がどんなに成長しても彼にとって「生徒に手を出した」ことは変わることがないようだった。つまり、どこまでいっても私は体面の悪い女でしかなかったのだ。あんなにも愛し愛された日々はどこへ行ってしまったのだろう。私たちは長く秘密にし過ぎた。20代の半ばになってようやく私は日陰の女であることを惨めだと思った。深く深く、気も狂わんばかりに。
 
もう待てない。彼に結婚を迫らずにはいられなかった。ずいぶん前からギクシャクしている。彼の浮気も発覚した。それでも諦められなかった。後戻りはできない。16歳から彼だけを見つめ指針として生きてきた私には、他の道なんて見つけられるはずもなかった。
彼が0点の男でも私が100点頑張ればいい。そう思ってこぎつけるようにして結婚した。だが、会話もなく給与明細すら渡してもらえない。浮気も治らず暴力さえあった。ありとあらゆるハラスメントを受けたと思う。泣かない日はなかった。結婚すれば向き合ってくれるだろうと期待していたのに、私は自分の愚かさを思い知っただけだった。いつしか彼を軽蔑するようになり、もうダメだと悟ったのは彼の死を望むようになったとき。そして、軽蔑する男の妻でいることは自分の価値をも下げると思い至った。私は奮い立ち、浮気相手の所在を掴んだ。追いつめる。彼は泣いて土下座した。だが許さない。別れを決めた女は強いのだ。冷ややかに彼を見下ろし、私は家を出た。
 
彼には筆舌に尽くしがたい仕打ちを受けたが、彼が一番罪深いのは私を空っぽにしたことではないかと思う。私は次の恋ができなかった。恋愛するエネルギーがなくなってしまったのだ。人にはそれぞれに恋愛エネルギーの量が決まっているのではないかと思う。それはとてつもなく大きいが無限ではない。きっと限界はある。私はそれをあんな男に使い果たしてしまった。どんな男性に出会っても心は動かない。50代になったいまも独りだが、幸いそれを孤独だとも惨めだとも思わない。かつては愛した人がいた。愛して愛して愛し抜いた。全力を出し切った。それでいい。
 
最後に、人に言えない恋をしている人に伝えたい。秘密を熟成させないように。自分の立ち位置はきちんと確立させておきましょう。視野を広げ、「他にもいい人がいるはず」というしたたかさもどうか忘れないで。健闘をお祈りしています。
 
 
 
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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