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メディアグランプリ

相方ばかりが目立つけど、実はすごい人


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川大輔(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「痛!」
心の中でそう思ったが言葉には出さず、ボールを投げ返す。
高校時代、僕は硬式野球部に所属していた。一応、本気で甲子園を目指していた高校球児だった。ポジションはキャッチャー。
当時1年生だった僕は3年生のピッチャーの投げる球を捕っていた。投げられたボールがたまたま大きく外れ、僕はグローブを持った左手を伸ばして少しジャンプするような形で捕球した。その瞬間、左手中指に激痛が走ったのである。捕球した時に突き指をしたり、痛みを感じることは多々あったが、今回は妙な違和感を感じたのでグローブをとってみる。
「うわ! なんだこれ?」自分の手を見て、にわかにはその光景が理解できなかった。
僕の左手中指の第一関節は、通常とは逆の方向に曲がっていたのである。曲がっていたと言うよりも関節がズレていたと言った方が正しいかもしれない。
「アルファベットのSみたいだな」
信じられないものを見ると現実逃避したくなるのか、自分の事とは思えなくなるのかわからないが、そんなどうでもいいようなことが頭をよぎった。骨折ではなく脱臼のようだったので、すぐに柔道部の顧問の先生がグラウンドにやってきた。
「見せてみろ」
ものすごく、嫌な予感がした。おそるおそる左手を差し出す。先生は僕の指を少し見て、無言でそっと手首のあたりを持った。次の瞬間。
「バキバキバキッ!」
僕の左手中指は通常通りの方向を向いた。
「3週間は動かすな」そう言って先生は威厳たっぷりに颯爽と去って行った。
先生……痛いって……。
 
皆さんはプロ野球や高校野球で使われている野球のボールを実際に持ってみたことがあるだろうか。野球で使われているボールには軟球と硬球があり、簡単に説明すると軟球は中が空洞で、ゴムでできたもの。硬球は中身もガチガチに固められ、表面は皮で覆われて赤い糸で縫い合わされている。野球と聞いて思い浮かぶのはおそらく後者の方だろう。プロや甲子園大会で使われているのももちろん後者である。(他にも準硬式と言われるボールもあるがこれは軟球と硬球の中間のようなもの)
硬球はその名の通り「硬い球」なのだが、僕の感覚でいうとあれはもはやボールではない。丸い「石」である。そう思えるほど硬く、痛い。
 
最近になって巷では高校生であっても150キロ、中には160キロというスピードボールを投げるピッチャーが現れ始めた。僕らの時代は140キロ前後のボールを投げる高校生は「バケモノ」だと言われていた。本当に驚くばかりである。その情報を聞くたびに僕はすごいなあと思ってしまう。
それはピッチャーに対してではなくそのボールを捕っているキャッチャーに対してだ。
もちろんそれだけのボールを投げれるピッチャーにも驚愕する。実際に投げている方に注目が集まるのも当然のことだ。その才能と能力を試合の中心で遺憾なく発揮し、躍動しているのだから。
 
目立つ場所で活躍する相方のピッチャーに比べてキャッチャーはどうだろう。相方の存在感が大きすぎて影の薄い印象を持っている人も多いと思う。野球に関心のない人なら尚更だ。
でも、想像してみてほしい。硬い石を思い切り投げつけられることを。その石のようなボールがすさまじい速度で自分に向かって飛んでくる。それがキャッチャーだ。
冒頭で自分の高校時代の話に触れたが、あの時のボールのスピードは130キロくらいだった。それでもちゃんと捕ることができなければ人の指を脱臼させるほどの威力がある。
僕が高校3年生になった時、同級生に素晴らしいピッチャーがいた。「県内№1、甲子園でも十分通用する」と言われたその同級生は後にプロ野球に進み、15年の現役生活を全うすることになる。
投げられたボールがこちらに向かってくる時は「ビュン!」ではなく、「ゴオォ!!!」という唸るようなイメージ。
グローブで捕った時の感覚も「バシッ!」というものではなく、「ドーーーン!!!」という感じ。
それはあたかも投球という名のミサイル攻撃のようだった。
この同級生の最高スピードが当時140キロだったことを考えると、150キロ、160キロというスピードボールがいかに強烈かがわかると思う。
実際に140キロのボールを捕球していた感想は「怖かった」である。
これに加えて変化球というものをキャッチャーは捕らなければならない。変化球とは文字通り曲がったり、落ちたり軌道の変化するボールの事だ。突出したスピードボールを投げることができるピッチャーはほとんどがこの変化球も鋭く変化する。例にもれず、同級生の変化球も鋭く変化した。引退した先輩が僕にこう言ったことがある。「お前、よくこんなの捕れるな」
さらには、ボールを捕るにも「キャッチング」という技術が必要になる。これはボールを捕ったグローブをその場でピタリと止めたり、ストライクすれすれに来たボールをストライクに見せる技術のことで言葉で言うのは簡単だがかなり難しい。
加えて「ストッピング」と言われるワンバウンドのボールを後ろにそらさないように体で止めにいくことも必要だ。
また、当然のことながらバッターはバットを振ってくる。投げられたボールに集中しながら目の前で振られたバットを怖がらないことも不可欠だ。
 
150キロ、160キロのボールを投げるピッチャーを相手にしているキャッチャーはいったいどれほどの鍛錬を積んでいるのだろう。想像もできない。僕なら絶対に大けがをする自信がある。
僕は今プロ野球で活躍しているピッチャーが高校時代に163キロのボールを投げたと初めて聞いた時に真っ先に思った。
「すごいな」
「そのボールを捕っているキャッチャー……」と。
相方ばかり取り上げられて、あまりにもかすんでしまうが、剛速球をしっかり受け止めることのできる者は実は恐ろしいほどの実力者だ。
 
小学生かそれより少し年齢の低い子どもを観察してみたら面白い。ボールを投げることはできても、うまく捕ることができない子が多いから。
 
僕は140キロのボールを命がけで追いかけていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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