メディアグランプリ

オバサンよ、大志を抱け!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中尾 静恵(ライティング・ライブ大阪会場)

「ちょっと、そこの僕?」  「おーい、兄ちゃーん!」
いったい、このセリフを何度耳にしたことか。

私は、生まれも育ちも女性であるが、幼いころから、ほんとによく男性に間違えられた。
まあ、赤ちゃんの頃には、顔立ちだったり、毛量だったりで、性別を間違えられることもあるだろう。現に、うちの娘は、赤やピンクのヒラヒラの服を着せていても、首から上だけ見て、よく男の子と間違えられたもんだ。そんな娘も、今ではすっかり大人の女性である。本人も、間違えられていたことは話を聞かされるだけで、記憶はない。
しかし私の場合は、記憶の中に、相当な頻度で出てくる。一番新しいところでは、40歳手前で間違えられたことがあった。
それはもはや 「兄ちゃん」 ではなく、 「オッチャン」 だ。

もちろん、その原因は私にある。悔しいが、やはり見た目だ。
生まれた時から体が大きく、幼稚園や小学校では、背の順は一番後ろだった。そして、髪はショートカットで、スカートは履かない。いわゆる半ズボンってやつを、いつも履いていた。
そのうえ、控え目な言い方をすると、とてもおてんばだった。リカちゃん人形で遊んだり、ままごとをしたりすることはなく、いつも男の子と一緒に走り回って遊んでいた。
それはもう、傍から見ると、男の子にしか見えない。

拍車をかけたのが、野球好きの父親だった。
物心ついた時にはボールとバットを握っていて、父親との遊びは、もっぱらキャッチボールやバッティングだった。そして、小学生になると、気が付けば、地域の子供会のソフトボールチームに入っていた。体格の良さと、父親のスパルタ教育が功を奏し、センスは平凡だったが、常にチームの中心選手だった。
そのおかげで、年中日焼けで真っ黒。そして変わらない、ショートカットと半ズボン。
それはもう、どこからどう見ても、男の子だ。

なのに、自分が好きでそうしていたのに、男の子に間違われるのがとても嫌だった。
嫌なら髪を伸ばすとか、服装を変えるとか、出来ることはあるのに、そうはしなかった。何故か。
それには、生まれ持った性格と容姿が、邪魔をしていた。

遊んでいても、ソフトボールをしていても、負けたくなかった。特に、男の子には負けたくなかった。そう、負けず嫌いなのである。
でもそれは 「男の子に勝つ女の子」 という、謎のステータスを得るための負けず嫌いだった。あくまでも、自分が 「女の子」 であることは認めてほしいのだ。
だから、どんなに外見が男の子に見えても、間違われるのは嫌だった。それに加えて、持って生まれた、男の子っぽい外見がもっと嫌だったのだ。
今思えば、なんとまあ面倒くさい人間だったことか。

そんな私だったが、中学生になると、ちょっとした変化があった。制服になり、毎日セーラー服とプリーツスカートだった。その時代は、否が応でもスカートを履かなければならなかった。それに、部活動に入りたい運動部がなく、唯一興味を持った吹奏楽部に入部した。そして、髪も少し伸ばして、後ろで束ねられるくらいにまでになった。
まさかの、完全な文系女子の出来上がりだ。

しかし、その反動からか、高校生以降はまた体育会系女子に戻り、そしてやっぱり、男子に間違われた。忘れもしない、高校生の時。父親と一緒にプロ野球の試合を観に行った時だった。間違われたのには、悔しくて泣いてしまった。
まったく、学習しない人間だ。

その強烈な嫌な思いをしたからか、多感な時期を超えると、少しずつその面倒くさい自分をうまく処理できるようになっていった。でも 「キレイなお姉さん」 や 「キレイなお母さん」 には、なりたいと思ったことはない。そもそも自分の容姿では、無理だと諦めていたし、そんなの恐れ多い。
そのうち、歳をとるごとに自分のことにはどんどん無関心になっていった。まあこれでもいいや、何も困らないしと、ハードルを下げまくった。その頃には 「お兄ちゃん!」 と呼ばれても、聞き流せる余裕さえ生まれていた。
その結果 「それなりか、それ以下のオバサン」 になっている自分がいた。

「でも、なんか違う……」 そんな気持ちが、心のどこかでくすぶっていたのだろう。

ある時、体調が優れず、しばらく何も出来ない時期を過ごした。
そんな時、ふと自分のことを考えた。体のメンテナンスはもちろん、もっと自分を大事に、そして磨いてもいいんじゃないか。そう思えてきた。こんな風に思えるのは不思議な感覚だったが、直感を信じて、ピンときたことはやってみようと思った。

体調が落ち着くと、とりあえず行動した。久しぶりに服を買い、髪を刈り上げ、くるくるパーマをかけた。
すると、オバサンは少年になった。短くなった髪のせいもあってか、とてもすがすがしい気持ちになった。それ以上に、やったった! という、達成感で満ち溢れていた。
次はもっと刈り上げてやろうか、あんな服装をしてやろうかと、すでにオバサンは大志を抱いている。

髪型も服装も制服もユニセックスが拡がり、性の多様性も公に語られるようになってきた。
性別うんぬんではなく、一人一人がその人らしく居られる自由を手に入れることができ、それを認め合うことができる、そんな世の中で、残りの人生を生ききりたいと思うオバサンなのであった。

***

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2022-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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