「パチンコと労働」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ミスアカリ(ライティング・ゼミ6月コース)
パチンコで勝った金で飯を食う。家賃を払う。女と遊ぶ。わたしの高校からの旧友はパチンコで金を稼いでいる。今回は、私が憧れる彼の話について書いてみる。
私たちの通っていた高校は、卒業生の多くが国公立大学や医学部に進学する、県内でも有数の学校だった。みんな高校3年生になれば、生まれる前から決まっていたかのように自動的に受験勉強に集中し始める。当たり前のようにみんなが受験勉強に励む中、私はみんながやってるから勉強しないと、と自分を追い詰めていたが、彼は先生たちの叱責をフラフラとかわしていた。結局当時の彼ができるだけの勉強をして、決して高望みをせず、手の届く範囲の私立大学へ進学した。そして自分の満足いく分だけ大学へ通い、気がついたら中退していた。周囲にはとらわれず自分の基準のみで行動する自由な男だった。
そんな彼と高校卒業後もしばらく連絡が途絶え、社会人3年目の歳になった頃、ひょんなことから久々に連絡をとってみた。昔話に花を咲かせることになるかと思いきや、話題は彼の近況で持ちきりになった。社会人の常套句である、「どんな仕事してるの?」の質問に彼は「パチンコ」と答えた。つまり無職である。(今思えば、同世代は働いているという大前提のもと話を進めていた私の固定観念も愚かなものである。)
私にとってパチンコは未知の世界だった。単なる好奇心で「もうこの歳だし一回だけパチンコやってみたいな」という気持ちになり、彼の1日に同行させてもらった。
彼の1日は開店前のパチンコ店に列を成すところから始まる。お気に入りのパチンコ店の、お気に入りの台を、いつも通り選んで座る。早起きできずに午後から始める時は、ぐるっと一周回って一番条件の良さそうな台を選ぶ。台に一万円札を挿入し、パチンコ玉が流れ出る。プラスチックの受け皿と重い金属の玉がカチカチと安っぽい音をたてる。
店内にはそれぞれの台から爆音が流れていて会話もままならないはずなのに、玉が流れ出る音だけは浮き出て聞こえる。
ハンドルを絶妙な力で回すと、パチンコ玉が打ち上がる。そこからはほとんど運だ。
そして台に座り続け、勝てば帰る。当たらなければ当たるまで待ち続ける。閉店まで店にいることもあるらしい。パチンコの過剰な演出にいちいちビビる私に対し、ツルツルの無機質な空間とパチンコの過剰な演出の中で、黙々と台に向き合い、たまにチラッと隣の私を確認して「これが確変やで」と親切に教えてくれる様子は高校の時の彼と全く同じ顔をしていた。
どうしてパチンコをやるのか彼に聞いたことがある。答えは「働かなくても遊びでお金を稼げるから」だった。彼の人生にとって「労働」は全くもって無縁だった。なぜなら、労働せずとも収入を得られる手段を彼は見出していたからだ。
生きていくためにはお金が必要だ。大抵の人間はそのお金を得るために労働をして、その対価として収入を得る。この社会では生きていくためには労働して、金を得るという作業が必要で、みんな当たり前のようにこの仕組みを理解しているように見える。しかし彼は違った。
ここで労働とは何か、改めて私が考え直すことになった。思えば、私にとって労働というものは人の役に立つものだと刷り込まれてきた。就職活動では「会社にどんな価値を提供できるか」を質問され、多くの企業のサイトで「課題解決」「価値を提供」といった文言が載っている。社会に財やサービスといった何らかの形で貢献し、それに対して対価が発生する。それが売上になり、個人の収入につながる。
組織に属していたとしても、フリーランスだとしても、何かの対価としてお金を得る仕組みになっている。そう考えると怠惰にはしていられない。お金を稼ぐために、誰かのために、がんばらなきゃ。そう思いつめて限界を迎えようとしていた私にとって、彼の存在はカルチャーショックだった。
なぜなら彼は単なる消費者だからだ。パチンコを打ち続けるということは、パチンコ屋のサービスを享受しているに過ぎない。玉を打つことを通して、他者のために貢献していない。それでも彼は収入を得て、暮らしている。ある程度余裕もあるらしい。自分の都合でパチンコ屋に出向き、スキルも資格もいらない。誰にでもできる。
私は労働の対価としてお金を得るしかないと思っていた。労働を通して誰の役に立っていなくても、お金を稼いで生きていいという象徴だった。意外にも、彼のライフスタイルが全ての人の生き方を肯定しているように感じた。
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