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これからも全裸で、楽しく踊り狂うことにした


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:光山ミツロウ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
思えば、誤解からはじまることの多い人生だった。
 
「学生時代とか、何かスポーツやってらしたんですか?」
 
初対面でお会いする方の、10人中8人からそう聞かれる。
 
よせばいいのに、身長が185㎝もある私は、見るからにスポーツをやってそうな人間に見えるらしい。
 
もっと言うと、これまでの人生、ほぼスポーツしかやってなさそうな、そんなハードな体育会系人間に見えるらしいのだ。
 
誤解だ。
誤解です。
誤解なんです。
声を大にして叫ぶ必要も、ニーズも全くないことは分かっているんです。
でも、こう見えて私、実は文化系なんです……もとい、こう見えてオレ、実は文化系なんDEATH!
 
初対面の人に「ああ、体育会系の人ね、多分」と誤解される度に、私は心の中でそう密かに叫んでいる。
 
身長185cmの私は、残念なことに、学生時代にスポーツ経験がほとんどない。
 
中学、高校と、その基本方針を帰宅部として活動していた関係上、私は放課後、真っ直ぐに家に帰ると、クラフトワーク(世界を代表するドイツの電子音楽バンド)や、電気グルーヴ(日本を代表する……かもしれないコミカル・テクノバンド)をBGMに、つげ義春氏の劇画や、赤塚不二夫氏のギャグ漫画、あるいは、みうらじゅん氏のエッセイ等をむさぼり読んでは、ひとり悦に浸る……そんな静かな10代を過ごした。
 
無論、当時も既に身長は180㎝近くあった。
 
高校に入学してすぐなどは、ラグビー部や柔道部の方々から、今にもタックル、あるいは背負い投げでもされそうな、血気盛んな入部の勧誘を受けたりもした。
 
「君がうちに来てくれたら、うちの部は盤石になるし、それに、人生においてスポーツは……(云々かんぬん)」
 
が、全て丁重にお断りをした。
 
「……んだよコイツ、こんなタッパあるのに、帰宅部ってよお」
 
断りを入れた時の、運動部の方々の、残念なものを見るような冷たい表情は、いまだに私の脳裏に焼き付いている。
 
親も心配したと思う。
 
高校球児のスラッガーのように図体の大きな息子が、学校が終わるなり、部活をするどころか、どこにも立ち寄らずひとり帰宅したかと思えば、部屋からは大音量で、わけの分からないピコピコな電子音楽が聞こえてくるのである。
 
心配になって様子を見に行くと、何やら怪しげな漫画や本を読んでは、ひとりニヤついている。しかも、ヘンテコな電子音楽に合わせて、その大きな図体を小刻みに震わせながら。
 
ひどい時などは、一定のリズムで繰り返される電子音楽に身を任せ、半ばトランス状態になった息子が、あろうことか畳の上で独自のダンスを踊っている……というか、気色の悪い全身運動をしていたりするのだ。無論、ひとりニヤつきながら。
 
心配というか、もう手遅れというか、ちょとした恐怖さえ感じていたと思う。
 
「え、スポーツやってらしたんですか! 国体出場? そうは見えないですね! 意外です!」
 
例えば、どこからどうみても文化系に見えて、その実、中身がハードな体育会系だったら、こんなリアクションが返ってくることが予想され、まだポジティブで爽やかな空気が流れる(と思う)。
 
「え! スポーツ経験、ないんですか? それどころか、文化系? はぁ、そうですか……(そんな身体大きいくせに?)」
 
しかし、私のように、ハードな体育会系に見えて、その実、中身がゆるめの文化系、となると、相手のテンションが目に見えてダダ下がるというか、何となく気まずくて残念な空気が流れてしまうのだ。
 
「私、脱いだらすごいんです」
 
これは、深い時間の酒場等で良く耳にするフレーズで、見た目以上にその中身に魅力がある、という意味の常套句だが、私の場合は違う。
 
「私、脱ぐもなにも、着ているように見えて、実は何も着ていないんです、ごめんなさい」となる。
 
そう、初対面の方には誤解させて申し訳ないし、失礼にもほどがあると思うのだが、私はよく見ると全裸なのである。
 
無論、そもそも着ているように見ないで欲しい、とも思うが、初対面の人にいきなり全裸を見てほしい旨伝えるなんて、私はいい歳をした大人、そんな変態的暴挙に出るわけにはいかないし、法にも触れたくはない。
 
初対面の挨拶において、いつも私は、相手のテンションがダダ下がるのを、全裸でじっと耐え忍ぶしか、なす術がないのであった。
 
しかし、である。
 
そんな全裸の私にも、密かにまとっている服が、実はある。
但し、その服は初対面の人には見えないので、はたから見ると私は依然として全裸のままだ。
 
が、その服があることによって、私のように誤解からはじまることの多い人間でも、何とか生きてこれた、というと大げさだが、ちょっとした救いにはなっているように思う。
 
その服とは、とある文章のことである。
 
今からここに、その文章を引用してみますので、ご試着頂ければ幸いです。
 
『たとえば具体的に言うと、まわりにいる誰かのことを「ああ、この人のことならよく知っている。いちいち考えるまでもないや。大丈夫」と思って安心していると、わたしは(あるいはあなたは)手ひどい裏切りにあうことになるかもしれない。わたしたちがもうたっぷり知っていると思っている物事の裏には、わたしたちが知らないことが同じくらいたくさん潜んでいるのだ。
理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない。
それが(ここだけの話だけれど)わたしのささやかな世界認識の方法である』
 
(村上春樹著『スプートニクの恋人』講談社文庫201頁より引用)
 
最初にこの文章に出会ったのは20年ほど前のことだった。
当時大学生だった私は、何となく意味はわかっても、それこそ理解は出来ていなかったように思う。
 
特に「理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない」という一節。
 
なぜ、誤解の総体が、理解なのか。
誤解はあくまで誤解ではないのか。
 
一瞬そう思ったものの、特に何の引っ掛かりもなく、その後数年はタンスの奥の方でずっと肥やしになっていたように思う。
 
しかし社会人になり、多くの人と出会っていくなかで、互いに誤解し誤解され、を繰り返していくうち、私は気づいたらこの一節をタンスの奥から引っ張り出していた。
 
そして今や、この文章と「理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない」という一節は、誤解からはじまることの多い全裸の私が密かにまとう、ちょっとした救いになったのだ。
 
誤解ではなくて理解してほしい、と思いがちだった私は、誤解も理解の一部なんだ、と思えるようになったのであった。
 
今後も私は、初対面の人に限らず、あらゆる人から、あらゆる誤解を受け続けるだろう。
無論、私自身も、たくさん誤解をするだろう。
 
しかし、それは理解への大きな一歩なのだ。
 
誤解を思う存分に楽しみつつ、これからも全裸で、電子音楽をBGMにでもして、楽しく踊り狂いながら生きていこう。
 
私はそう思うのであった。
 
 
 
 
***
 
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