メディアグランプリ

イチローの背中と、ティッシュ一枚分の変化と

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川直美(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「人よりも頑張ったとはとても言えないけど、自分なりにやってきたとはハッキリと言える。これを重ねることでしか、後悔を生まないということはできないんじゃないかと思う」
「少しずつの積み重ね……それでしか自分を超えていけない」
 
イチローがプロ野球選手を引退する、その会見で語られた言葉。
 
 
野球に特に詳しくない私でも、ニュースで取り上げられたら目を奪われてしまう存在が、イチローだった。
 
継続は力。
それを見せてくれた大切な存在。
 
ホームランの数ではなく、安打の数が話題を集めるようになったのは彼の存在が大きい。
ポテっと軽く当たった内野への打球も、全力疾走で安打にしてしまう。
一打席一打席に集中して、全力で、丁寧に向きあうことで、世界で誰も成しえなかったこと、もっと言えばあまり気にとめられていなかった実績を、記録として世界の人に記憶させたのだった。
 
 
一方の私は、コツコツと毎日続けることが、幼いころからもう本当に苦手だった。
割と何でも器用にできるタイプで、ウサギとカメで言えばウサギだったと思う。
だから、ウサギっぽく余裕をかましていた。
そして、うまくできないことは見ないふりをしてやり過ごしたりした。
下手な自分を受け入れたくない、誰かに見られたくない。
あっという間に“できる人”になっていたい。
 
ディズニー映画やヒーローのアニメのように、ある日パッと変身できたりしないだろうか。
ドラえもんのように、サクッと解決してくれる方法はないだろうか。
そんなSFチックな願望が割と本気に胸の中にあったことを、とても恥ずかしいけど今は認められる。
 
小さな虚栄心から、練習のたぐいを避けていた。
私にとって練習は苦痛だった。
 
 
そんな私の心に、イチローの言葉が、満ち足りた表情がひっかかる。
 
「少しずつの積み重ね……それでしか自分を超えていけない」
 
 
一番遠くまで飛んだホームランの記録は、一瞬で塗り替えられる可能性がある。
でも、イチローが28年の野球人生で積み上げた記録を、1日で作れる人は誰もいない。
 
積み重ねた先にあるものを私も見てみたい。
 
 
40歳を過ぎてはじめた、アシュタンガヨガ。
これは積み重ねの極みのような代物で、はじめてその存在を知ったときは絶対にやりたくないと思った。
 
・ポーズの順番が決まっていて、一連の動きを全部行うと1時間半くらいの練習になる。
・それをできる限り毎日行う。
・5年続けて、ようやく初心者ではなくなる。
 
……。
はじめるのにも、足がすくむ。
 
 
それでもはじめようと決めたのは、生まれた時からの付き合いになるアトピー性皮膚炎を、薬を使わず、生活習慣の改善で根治させることを心に決めていたからだ。
 
生活習慣の改善は、5年前から徐々に取り組んでいた。
 
抗生物質の塗り薬を捨て、漢方薬の飲み薬をはじめた。
症状が強く出た時の食生活を振り返り、小麦系や乳製品の摂取量は以前の9割まで減った。
シャンプーや化粧品も総入れ替え。
鍼治療で体内の巡りを整える。
 
そして、適度に汗がかける継続的な運動が必要だったところに、
アシュタンガヨガを加えた。
 
 
体質改善の道は果てしない。
それまでの悪習慣の堆積によって出た不調は複雑に絡まりあっていて、魔法のようにパッと消え去ったりは、しない。
 
 
昨日と今日の自分が何も変化していないようで、空虚さが襲う。
 
それは、うすいティッシュ1枚を重ねていくような感覚。
あまりにささいで、心もとない。
 
この方法があっているかもわからない。
 
 
こんなことをして本当に何になるんだろう、とか
理想までが遠すぎる、果てしなさすぎる、とか
投げ出したい、諦めたい気持ちが内側で渦巻く。
 
 
10日、何も変わらない。
1か月、一進一退。
3か月、期待を裏切られる。
 
それでも続ける。
 
 
1年、2年経つころには、ティッシュ1枚の積み重ねにも厚みが出てくる。
5年経つ。地層のように、幾重にも柔らかく重なった上に表れた変化は、しなやかで強固なものだった。
 
 
アシュタンガヨガは体質改善を加速させた。
身体にひっぱられ、心と思考がそれぞれのタイミングで変化していく。
 
やったらやっただけ、やらなかったらやらなかった分だけ。
シンプルで当たり前のこと。
 
 
何を組み合わせても、40を過ぎた身体に表れる変化は、本当にささやかなものだ。
今はそれが面白い。
 
1日1枚分しか重ねられない。
体内に起こる、些細な変化にどれだけ耳を澄ませられるか。
 
積み重ねてきた時間と日々が自分を支えている感覚が出てくる。
これを自信というのかもしれない。
 
 
一つひとつの小さな積み重ねは、いつしか人を誰も到達できなかった地平へ連れていく。
イチローの偉業には遠く及ばないけど、比べる必要もない。
 
継続にはそんな力がある。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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