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メディアグランプリ

盆踊り、やぐらの上から見えたもの

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:野村紀美子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私が小学校2年生のとき、ある夏休みの夕方、友だちに盆踊りに誘われた。よその町から転校してきた私は、それまで盆踊りというものを、見たことも聞いたこともなかった。日がくれたあと、町の神社に行ってみると、大音量で盆踊りの曲が流れ、昼間のように明るく提灯が灯り、屋台が連なり、大勢の人でごったがえしていた。中央には大きな3段構えのやぐらが組まれている。紅白幕で巻かれた1段目には、10数人ほどの人が踊っており、2段目には大太鼓とお囃子の人たちがいる。やぐらの周りを2重3重と囲み見ながら、人々が踊っている。いつも、かくれんぼや缶蹴りをして遊んでいた神社の境内は、別世界になっていた。
屋台で、綿菓子や、水飴を買ってほおばる。ヨーヨー掬いや、金魚掬いを眺めながら屋台を一巡したあと、踊りの列に入ろうと友だちが誘ってきた。友だちは幼い頃から来ていたらしく、すぐに列に入って楽しそうにおどっている。私は恥ずかしいのと、踊れないのとで、最初のうちは列の横を踊りの流れに合わせながら歩いていた。友だちに手を引かれ、とりあえず列に入る。まねをしながら手足を動かしてみる。
踊りの列に入ると太鼓の音が大きく聞こえてきる。ドドンガドンッ、カラカッカ、ドドンガドンッ。ねじり鉢巻にハッピ姿の男性が豪快に大きな太鼓を叩いているのが見える。
子どもの身長だと、列の中で、目線の高さは大人の腰ぐらい。前を進む人の浴衣の帯を眺めるような感じだ。手の振りは見えないから、足元を見て進んだり下がったりする。間違えると、足を踏まれたり、ぶつかったりしてしまうから必死だった。手の振りのお手本は、やぐらの上で踊る人たち。町内会か、同好会か、上手な人たちはお揃いの浴衣を着ている。曲は炭坑節か東京音頭のヘビロテだ。
「月が〜出た出た〜、月が〜出た〜……」お馴染みの炭坑節はふりが単純なので覚えやすい。
何曲か踊っているうちに、人にぶつからなってくる。一歩一歩進んで下がる。なんとも言えない一体感のようなものが、そこにはあった。少しだけ踊れるようになってきたところで、夜も更けてきたので帰宅する。
家に帰ると、なんと母が、炭坑節の振り付けを知っているというではないか。
「掘って〜掘って〜、また掘って〜、かついでかついで………」と覚え方があり、炭鉱を掘る人たちの動きが躍りになっている。踊りの振りにはたいてい、意味が伴っているというのもそのときに知った。
祭りが数日続いたのか、翌年のことだったか、昔のことで記憶がおぼろげだが、次に行ったとき。友だちから、今度はやぐらの上で踊ろうと誘われる。同好会の人に混ざって子どもでも誰でも、やぐらで踊ることができるようだ。人気なので下に列を作って順番を待たなければならない。上で踊れるのは1曲か2曲。私はまだ、炭坑節しかまともに踊れないので、違う曲がかかったら、やぐらの上で右往左往だ。ドキドキしながら順番を待つ。待っている間は踊れないのでやぐらを見上げて、大人の人たちの踊りを見て覚える。
順番が回ってきた。やぐらに上がると、提灯の光はまるでスポットライトのように明るい。太鼓や笛の音もひときわ大きくお腹に響いてくる。お囃子の人や、踊っている人の息遣いも間近に感じて、緊張感が高まる。2重3重にやぐらを囲んで踊る人たちが見渡せる。最初は苦手な東京音頭だった。だが、町内会のお揃いの浴衣を着た女のひとが、微笑みながら優しく教えてくれた。そんな人たちと同じ場所で踊り、教えてもらえる特別感に浸る。
2曲目、炭坑節だ。
「ヨヨイノヨイ〜」と掛け声とともに曲が始まる。
これなら母から教えてもらったので、間違えずに踊ることができる。木板の上に下駄の足音が響く。ときおり丸木がギイッときしむ音が、合いの手のように混ざる。
やぐらの上の人たちも、やぐらの下の人たちも同じように進んで下がって、手を叩く、を繰り返す。さっきは苦手な曲で余裕がなかったが、今度は踊りながら下を見る。ゆっくりと円を描きながら人が動いていく様子が上から見える。その緩慢な動きの一部に取り込まれるように自分も動いていく。不思議な感覚だった。
その後何年か、その町にいる間は、毎年盆踊りに行っては、やぐらの上で踊った。次に転居した町には盆踊りをやっているところが近くになく、私の記憶からは次第に薄れていった。
最近では盆踊りをやっている光景はすっかり少なくなったようだ。やぐらがあっても上でも踊れる2段構えのものはほとんど見かけない。
50年近く踊っていないが、今度、町で盆踊りを見かけたら1曲踊ってみようか。やはり恥ずかしくて踊れないか、昔を思い出して、知らぬ間にやぐらに立っているのか。夏になって、どこからか太鼓やお囃子の音が聞こえてくると、いつもその光景がよみがえってくる。
 
 
 
 
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2022-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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