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暴れる父を許せるようになったこと


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記事:冨井聖子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
うちの父はアクティブな人間である。
 
母とはもう別れて10年以上経つけれども、なかなかに元気が有り余ってるタイプの人間だった。お酒を飲めばお酒に飲まれる。壁に穴が開く。コタツの足は蹴りで折れる。土鍋の蓋を割る。酔っ払った勢いで階段からずり落ちてくる。なかなかな家庭であった。
ここまで聞いて、穏やかで優しそうな父ではないということがよくわかると思う。そんな父に向けて、先日【感謝の色紙】を書いた。
 
自分の命は、先祖代々から伝わってるものだから、まず親を大切にしましょう。
どこかの経営塾で、そう習った。
 
母とは2日に一度は必ず電話をしているような仲良し。なので、これは父のことをしなければと思い、感謝の手紙を書こうと思ったんだ。
でも待てど暮らせど、伝えたい思いは何も出てこない。
手紙は長いから、色紙にしよう!!
そこから子どもたちにも「おじいちゃんに感謝の色紙を書こうと思うんだ」と宣言をした。でも、色紙が手元に来ない。それはそうだ。買ってないのだから。
 
店に行くと「色紙買わなくていいの?」って子どもに聞かれる。けれども「今日じゃないのよねー」と言って買わない。
結局買うまで2週間かかった。
 
なぜかって?
買ったら、とうとう書かなくちゃいけなくなるから。
 
家の中では、アクティブな父だが、外では非常にモテる人だった。家庭人としては、向かないのだろう。でも、人としてはそれなりにいい男らしい。自分をないがしろにしてでも、女の人を守ろうとする。絶妙に不器用な優しさを兼ね備えてる。そのアンバランスさが、きっとモテるんだと思う。
だからこそ3回結婚して、3回別れているんだと思う。ちなみに私と弟しか子供はいなかったので、異母兄弟みたいな子はいないけれど。
知った時は、なかなかに衝撃的だった。
 
そんな状態なので、とにもかくにも、書きたくない。
筆が進まない。
行動が遅い。
何がこんなに私を遅くさせているんだって言う位である。
娘にせかされ、やっと色紙を買おうとレジに並ぶも、財布のチャックが重い。こんなに財布って、重かったかしら?100円玉を取る手が震える。
 
何とか色紙を買い終わり、家に帰ってからも書店の袋から出すことができない。
書こうと思うから、机の上には置いてあるが、いざ書こうとすると何も思い浮かばない。
椅子に座る。
机に向き合う。
色紙を袋から出して……
色紙を袋にしまう。
この動作を1日に5、6回。
書こうと思って座って、書けずに終わる。
4日それを続けて、やっと向き合うことに決めた。
 
あんな父親に何を感謝したらいいんだろう。
恐怖の対象でしかなかった父親に、なんて言葉をかけたらいいんだろう。
頭の中で、ぐるぐるするけれど、とりあえず色紙のど真ん中に、父親のフルネームを書き、大きな字で「感謝してること」と書きなぐった。
 
結局、それ以降、何も筆が進まず一文字も書けない。
 
明くる朝、いつもと変わらない日常が始まるけれども、机の上に置き去りの色紙が目に入る。乱暴な私の文字が否応なく責めてくる。
本当に書かないの?
いつまでに書くの?
いつ渡すの?
誰も何も言ってないのに、そう聞こえてくる。
 
仕方なく、その日の夜も色紙に向かった。
伊達に、経営塾で何時間も学んではいない。
今日こそは絶対に書こうと心に決めて、その時に習ったメモ書きのページを開いた。
 
そこに一言。
 
【存在に感謝をしましょう】
 
そうか、父親がいないと自分が生まれないから、これは、感謝ができる。
そう思って1番初めに
「生まれてきてくれてありがとう」
そう書き記した。
そこからは、感謝が怒涛のように溢れてきた。堤防決壊、目元も洪水状態。
 
母と出会ってくれてありがとう。
私に出会ってくれてありがとう。
私は弟は欲しくなかったけど、弟が生まれたことも、感謝してる。
きっと弟がいたからできた経験って、いっぱいあるから。
 
正直、感謝なんて1つもできないと思ってた。
 
決して穏やかな家庭ではなかった。
顔色を見ながら過ごした日々は、たくさんあったし、喧嘩の怒鳴り声が嫌な日もあった。家出がしたくて、夜中に友達に迎えに来てもらったこともある。悲しみの涙を、怒りのパワーに変えて過ごした日々は数知れない。
責める気は無いけれど「父親はこういう人」って心の奥底で諦めてた。
 
でも、この色紙を書いたことでわかったことがある。
こんなにも自分は、愛されて育っていた。
感謝の思いは、実はたくさんあった。
見る場所を変えただけで、こんなにも変わるんだって、初めて気がついた。
 
そのあと、久しぶりに、友人と焼き鳥屋さんに行った。
そのとき、私は、焼き鳥の食べ方がわからなかったんだ。手に近いところの肉が食べれなくて悪戦苦闘していたら、友人と店主に心配された。
はっと、気がついた。
外で焼き鳥を食べるとき、父親が毎回、串から外して皿に乗せてくれてたこと。
 
言葉にならない想いがこみ上げて、その日の焼き鳥はなんだかしょっぱかった。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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