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メディアグランプリ

料理をつくるという愛情表現


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:冨井聖子(ライティングゼミ4月コース)
 
 
「ママの好きな味にしたの!」
 
自信満々に作ったドレッシングの味は、その子のママがいつも作ってくれるドレッシングの味だった。ご本人に確認したら、ほとんど同じ味で驚いたという。
 
料理は、愛情表現である。
母の味、おふくろの味は、実は愛の味なのだ。
 
それは、大人だけの特権ではなく、4歳でも小学生でも変わらない。
私の運営するお料理教室に通っている子たちは、料理が簡単にできないことを知っている。
 
卵焼きを1つ作ってみよう。
 
器を用意して卵を割る。
力加減を間違えると、殻がたくさん入る。優しくしすぎると割れない。
味付けはどうしようか?砂糖と塩を入れたいけれど、この生の卵で味見ができるわけじゃない。すべて勘である。目標の味はあるのに、そこにたどり着く地図がない。砂糖が多い方が良いのか、少ない方が良いのか?お塩はどのくらいの量なのか?すべて経験して初めて身に付く。卵を割って味をつけて、やっと次の工程だ。
 
フライパンを準備して油を敷く。忘れちゃいけないのは菜箸とフライ返し。そして出来上がったものを置く皿もいる。それを全て準備して、こわごわ火をつける。
 
青々と燃え続ける火。
少しずつ熱くなるフライパン。
初めは楽しかった気持ちも、フライパンの熱に充てられ変わっていく。
そこに少しだけ卵を落とす。
 
熱すぎると、怒ったように卵が飛び跳ねる。
 
「もうフライパンになんか入れないでおくれ!」
「こんな熱いところに落とさないでおくれ!」
 
そんなセリフまで聞こえてきそうなくらい、卵は暴れ回る。
そこで慄いては卵焼きは完成しない。
「まぁ……そんなこと言わずに……」となだめるように言いながら、卵の半分を入れて、おとなしくなるまで待つしかない。
おとなしくなってからも、強く箸を入れすぎるとちぎれる。だからといって、優しすぎてはピクリとも動かない。
 
フライパンはどうしようか?ななめにしたいけれど、熱くないだろうか?
持つ場所によっては、ひどく熱いが、持ちにくいところを支えても仕方ない。フライパンを支えることができずに、手からこぼれ落ちそうになることもある。
そんな絶妙な力加減で、卵を巻いて、また新たに卵を落とす。その繰り返しでやっと卵焼きができる。
けれども火加減を間違えると真っ黒。とても艶やかな炭色になる。焦げないようにしようと思うと、柔らかすぎて巻くことができない。そんな火加減も必要である。
 
やっとできたと思っても、皿に移すまでがひと仕事。
子どもの手にとって、フライパンはひどく重たい。大人にとってはすごく軽いものかもしれないが、実は子どもの手にとっては、ひどく無機質なものである。決して、友人ではないのだ。
 
熱かったらどうしよう。
落としたらどうしよう。
せっかく作ったのに、食べれなかったらどうしよう。
食べた後においしいって言われなかったらどうしよう。
 
実は、出来上がった達成感のほかに、ものすごい不安感も持っていたりする。
 
たかが卵焼き。
されど卵焼き。
 
作り方を見て作るだけでも、子どもにとってはこんなに工程があるのだ。
だからこそ「おいしい」って言ってもらえたときの感動はひとしおで、「ありがとう」って言ってもらえたときの気分といったら……。花が咲くような笑顔と喜びが体に満ちる。そして、「やった!」という表情。それが何事にも代え難い自信になる。
 
ただ「作る」といっても、これだけではない。
実は卵を買ってくる手間や時間も加味すると、たった1つ卵焼きを作るだけで、ものすごい時間がかかっている。
 
時間は命である。
いろんなビジネス本でも言われていることだし、経営者で有名な稲盛和夫さんも時間効率を重視していた。
 
お金は、取り返すことができるけれども、時間はどんなに頑張っても取り返せない。
今日より若い日はない。
時は金なり。
どんな人でも、1日は24時間しかない。24時間よりも伸びることもなければ、短くなることもない。寿命がどのくらいあるのかは、ここに生まれ落ちてくるときに決めてきていると思うけど、それだって見えるわけじゃない。あと40年の人もいる。あと3年の人もいる。だからこそ、時間をかけてもらえるって1番の愛情表現だと思う。
 
例えば、職場でお土産を買ってきてもらえたら?私は嬉しい。
それは、自分のことを忘れられていなかったって言う安心感と、そこに時間をかけて選んでくれたっていう事実が嬉しいのである。お土産が好みだったら、舞い上がるほどの熱い思いが込み上げるかもしれないけれど、好みじゃなくても「それだけ考えてくれたんだ」っていう事実に、顔が綻ぶ。
 
あなたが、かけてくれた時間。
あなたが、思ってくれた時間。
 
それは、私のために「命」を使ってくれた結果である。
 
だから私は、毎日、子どもたちのために料理を作る。
家族のために、キッチンに立つ。
 
レッスンをしていて思うのは「4歳だからできない」とか「小学6年生で大きい子だからできる」というのは固定観念であり、そんな事実は1つもないってこと。それぞれに出来ることが違うのは、年齢関係ない。
それぞれの形で思いやりを持っている。
家庭の味を持っている。
これは、どんな年齢の子にも言えることである。
だから、作って食べてもらったときに「おいしい」って言ってもらえることに、ものすごく達成感を感じる。「おいしい」って言う、たった4文字に、ものすごい充実感を感じる。そして「料理だったら自分は負けない」という自信になるのだ。
 
料理に勝ち負けは無い。
 
食べてほしい人のために、時間を使って、その人が「おいしい」「ありがとう」と言ってくれること。それは、本当に宝物だと思うから。
だから私は【愛する人のためにつくる料理は、最大限の愛情表現である】と信じてやまない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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