メディアグランプリ

40代独身女、子なしコネなし貯金ゼロ、それでも家を建てました!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
家にはいろんな形態がある。戸建かマンションか、持ち家か賃貸か。また、家に対する人の思いや考え方も様々だ。身軽に住まいを変えていく人がいるかと思えば、マイホーム購入を人生の最終目標のように重くとらえている人もいる。私はまぎれもなく後者だ。
 
30代前半で離婚したとき、実家には戻らずアパートで暮らした。別に体裁が悪かったからではない。臨時職員として働いていた私は、離婚と同時に正規雇用の道を探さねばならなかった。田舎に戻ると就職の選択肢が少なくなる。結婚生活で使っていたものは全部置いてきたので何もない極貧生活だ。そばにいるのは猫だけ。私と猫の、終の住処を見つけねばならない。
 
目標が定まると私は行動をはじめた。狙いは戸建の中古物件だ。情報誌やネットを活用し、希望エリアの物件は新築も含めて見てまわった。しつこく売り込まれないように、いつも「ちょっと通りかかっただけ」というフリをしていた。が、そんな小芝居は必要ないことはすぐにわかってきた。セールスマンは私を相手にしていない。私が、女で、独り、だからだ。お客は皆家族連れ。若夫婦と小さな子供。絵に描いたような幸せ家族。子供が小学校に上がる前に家を決めたいという思惑がだだ漏れている。セールスマンにしてみれば最優先の上客だ。誰も私を顧みない。「家を買いたい」という熱意は負けていないのに。胸がチクチクする。破綻した結婚生活を続けていたころ、幸せそうな家族を恨めしく思っていたことを思い出す。こんな気持ちは久しぶりだ。
 
ある日、思わぬ好物件と出会った。物件と言っても新築を建てるために売り出された更地。私には魅力的だった。しかし、当然だが価格はちっとも魅力的じゃない。はっきり言って私にはムリだ。そのうちどこかの幸せ家族がここで暮らしはじめるだろう。私はその家を朝晩眺め、その度に胸がチクチクするのだろう。くやしい……。くやしい、くやしい、くやしい。
そんなとき、田舎の母が背中を押してくれた。といっても資金援助ではない。DVの父と離婚してギリギリの生活なのはわかっている。ただ一言、勇気が出る言葉をくれた。「やるだけやってみたら?」と。私は人生最大のチャレンジに臨むことにした。
 
昨今、家を買うのに頭金は必要ない。手持ちの資金がゼロでもローンに通りさえすればいいのだ。私の、ローンに通るための戦いがはじまった。まず、どれだけ収入があるのかを示さなければならない。一番の不安要素だ。私は営業職のいわゆる個人事業主。確定申告をしていて、経費を差し引いた後の額が収入額となる。公的に証明できるのは確定申告後のものだ。もともと少ない収入なのに更に低額になる。ローンの審査にはあまりにも不利だ。仕事や家族についても根掘り葉掘り聞かれる。じりじりと追いつめられていく。やはりローンは通らない。別の銀行を訪ねてみる。門前払い。また別の銀行へチャレンジ。そのうえ不動産会社の担当者からは思いもよらない言葉を浴びた。
旦那さんがいれば(結婚してれば夫の収入がある)いいんだけど。
独身でも子供がいれば(子なしより子供がいた方が信用がある)いいんだけど。
貴女は話し方がしっかりしてるから教師かと(公務員なら上客なのに)思ってました……。
これは、ひょっとしてハラスメントでは? 女性への差別ではないのか? でもなにも言い返せない。とどめの槍が降ってきた。
「結婚の予定ないんですか? 相手いないんですか? ホントに?」
どうやって話を切り上げたか思い出せない。
 
苦戦は続いた。母の弟である叔父が力になってくれたが、叔父も自営業のため社会的信用が云々かんぬん……。今度は母の年金受給見込額を出すように言われた。スズメの涙の母の年金でさえ担保にされようとしている。情けなかった。みじめだった。離婚して以来、初めて泣いた。負け戦だ。私はその物件から手を引いた。
 
今度いい物件に出会ったら絶対にローンに通りたい。そのために自分なりに工夫をすることにした。まず、クレジット機能がついたカードをすべて解約した。審査で借金状況は必ずチェックされる。たとえ利用していなくてもクレカをもっているだけで借金リスクがあると判断されてしまう。やりくりに欠かせないものだったが仕方ない。ダブルワークも頑張った。ファミレスの深夜勤務だ。それでも生活は苦しかった。交通費さえなくて歩いて帰宅したり、明日のご飯はどうしようと思う日もあった。確定申告では収入額を少しでも多く証明するために経費の計上をやめた。すべてはローンに通るためだ。
そんな生活を3年ほど続け、いま住んでいる物件に出会った。またしても新築用の土地。前回の手痛い敗戦で私はすっかり臆病になっていたが勇気をふりしぼった。結果、私の努力が実ったかどうかはわからないが、一発で難関を突破できてしまった。とんとん拍子に事が進んでいくのが信じられない。家が完成し鍵を受け取って初めて実感した。あぁ、やっと。やっと手に入れたんだ。
 
なぜ今回はうまくいったのか。ひとつ大きな要素がある。給与振込口座の銀行に申し込んだのだ。まさに灯台下暗し。給与が振り込まれているという一点で、私は信頼に値する人間ということになるらしい。前回は派手な住宅ローン広告に釣られて、取引のない銀行にばかりアタックしていた。不動産会社の担当者からも給与取引のある銀行を勧められたことは一度もなかった。ハラスメントばかりしやがって、アイツめ。でも、もういい。私はいまの、自分の家をとても気に入っている。もう築11年になるが、いまだに壁にピンを刺すこともできない。それほど大切なのだ。そろそろ老母を呼び寄せたいが頑として田舎を離れようとしない。猫はマイホーム生活を堪能しているようだ。その姿を見るのがいまは一番幸せだ。苦労した甲斐があった。泣くほど辛かったこともこうして人に話せるようになった。マイホーム、この場所こそが、私の至上の居場所なのである。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事