ボーリングと未知との遭遇
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記事:山本三景(ライティング・ゼミNEO)
「終わったら連絡するね」
友人にそうメールして、会社のボーリング大会に参加するため、私はボーリング場へ向かった。
コロナで世界が変わる前まで、私が所属している会社では、ちょうど今ぐらいの時期にボーリング大会が行われていた。
2ゲーム投げて、個人戦と部署対抗の団体戦で競い合うという、大きなイベントだ。
しかも土曜日の午後に行われる。
午前中はしっかり業務だ。
休日が削られるという気持ちが強く、私にとっては憂鬱でしかなかった。
せめて終わったあとの楽しみを作ろうと、ボーリング大会終了後に友人と会う約束をし、憂鬱なボーリング大会を乗り切ろうとしていた。
2ゲームが終わり、ボーリング場で借りたシューズから自分のスニーカーに履き替えようとしているときにそれは起こった。
ゴンッ!
ボーリングの球を足に落としたわけではない。
手がすべって、静止している球に勢いよく手の親指をぶつけたのだ。
それは鈍く響く。
い、痛い……。
私の親指の関節は、みるみる変色していった。
尋常じゃない腫れ方をしている自分の親指にパニックになっていた。
「どうしたの?」
先輩が寄ってきた。
私の指をみて先輩は驚いた。
「ボール落とした!?」
誰しもそう思うだろう。
恥ずかしながら違うのだ。
「親指の関節を曲げた状態で勢いよく、そこにある球にぶつけたんです」
とりあえず冷やすことにし、ボーリング場で急遽氷を集めてアイシングをした。
すぐに帰りたかったが、そこは真面目である。
表彰式が終わるまでちゃんと残っていた。
アイシングをしながら長々とした表彰式が終わるのを待った。
先輩と一緒に土曜の午後からでも診察してくれる外科をさがして予約を入れた。
「これで、ボーリング大会を終わります」
よし!
私は誰よりも早く会場を出て電車に飛び乗った。
痛くてたまらない。
もう泣きたい。
私の指は大丈夫か?
指だけど、怪我人なんです。
触られたくないのです。
ここに座るのを許してください。
痛さと心配のあまりに、私は優先席に座った。
右ひじを左手で支える姿は、まるでボーリングの球を投げる前のポーズのようになっている。
「怪我してます」アピールをまき散らしながら、30分ほど電車に揺られた。
初めて行く病院だったが、駅から2分の好立地にあった。
到着してすぐにレントゲンを撮った。
そして先生を待つ。
骨折していないだろうか……。
親指の骨がズキズキと痛む。
そして先生が登場した。
私は安堵でちょっとウルっときた。
そして先生はやさしく私の手のひらを触った。
丁寧に、親指の腹にそっと触れる。
あれ?
なんで手の内側?
手の甲のほうではなく?
「ここは痛くないですか?」
先生は私にやさしく聞いた。
痛いのは爪のあるほうだ。
先生は痛くないほうを触っていた。
「あの、ぶつけたのは反対側なんですけど……」
「これがレントゲンになります」
私は顔をあげてレントゲン写真に注目した。
先生は、レントゲン写真に写っている指の骨を、指揮棒のようなもので指して説明してくれた。
「ここに丸い骨があるのがわかりますか?」
私は目を細めて写真をみた。
よくみると、すべての指の端っこに、小さな丸っぽい骨があった。
先生は続ける。
「普通の人はここに骨はないんですよ。珍しいですね。痛くはないですか?」
もう一度レントゲン写真を凝視した。
ある! 確かに丸い小さいのが存在している!
結構綺麗な丸だ。
敵の身体に秘密があり、心臓が逆になっているため普通に攻撃しても全然効かない……なんていう昔の少年漫画を思い出していた。
あんな感じか?
いや、全然違う。
あるはずもない骨が存在していたら、それは大発見で先生も興奮するだろう。
そこまでではない。
どうやら普通の人は珍しいというだけで、スポーツをする人にはたまにいるらしい。
難しそうな名前を教えてくれたが、ショックで忘れてしまった。
私、スポーツなんてしませんが……。
「あの、ボーリングの球にぶつかった指のほうは?」
「それは大丈夫ですよ。打撲ですね。お薬だしておきますね」
拍子抜けだった。
私は何のために病院へ来たのだろう。
私は何のために優先席に座って「怪我してます」アピールをしたのだろう。
すべてが、この骨を発見するために繋がっていたのか……。
レントゲンなんてなかなか撮らないので、普通か普通でないかはわからない。
そもそも、レントゲンを撮る分母が少ないだけで、撮ったら意外な発見をする人も多いのではないだろうか。
そんなことを考えていたら、いつの間にか、あの大げさな親指の痛みはだんだんと小さくなっていった。
携帯をみると友人から連絡があった。
「ボーリングの球落としたの!? 大丈夫?」
ああ、忘れていた。
病院へ行く前に大げさなメールを送っていたことを。
私は大丈夫だったことと、余分な骨を発見したことを友人に伝えた。
爆笑だった。
そしてまた電車に揺られて家に帰る。
もう優先席には座らず、暗くなっていく景色をただぼんやりと見つめていた。
***
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