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メディアグランプリ

唐辛子は大陸の風に吹かれて


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石綿大夢(ライティング・ゼミNEO)
 
 
家族で初めての海外旅行に行った時のことだった。僕は中学生で、受験もひと段落し進学先を決めていた。高校生になったら、なかなか家族旅行をする機会も少なくなってくるだろう。両親がそう思って、思い切って海外旅行を企画した。
と言っても、ツアーでの参加なのでガイドさん付きの観光バスで、中国の四川省方面を回っていた。
 
両親は、かの有名な万里の長城のスケールに終始興奮しっぱなしだったが、その様子を横目に僕は一人冷めていた。僕の旅の目的は、別のところにあったからである。
 
“本場の中華料理が食べたい”
 
幼い頃から食べるのが好きで、自然と料理を作るのも好きになっていた。頑張って作った野菜炒めやチャーハンを、弟が「うまいうまい」とモリモリ食べる姿を見て、将来は料理を作る仕事がしたいな、と思っていたくらいである。
(因みに、弟は大方の料理をうまいうまいとモリモリ食べる)
 
そんな幼い頃からの僕のバイブルは料理漫画の『中華一番!』(作:小川悦司 講談社)だった。主人公の少年・劉昴星(リュウ・マオシン)は、その類まれなる料理センスと情熱で、成長し中国全土を旅していく。彼が作中で最初に作る料理が、麻婆豆腐だった。
漫画の中には、麻婆豆腐に欠かせない“五つの味”について語られている。
 
麻(痺れ)、辣(辛さ)、香(かおり)、熱(アツさ)、色(コントラスト)
 
この五つの要素が結実した“五味一体”を楽しむ料理こそが、麻婆豆腐なのだそうだ。
それまで出来合いの、あまり辛くないし痺れない、少し甘めのレトルトのものしか食べたことのなかった僕は、今回こそ混じり気のない“本場の味”が食べれると意気込んでいたのである。
季節は冬真っ只中。万里の長城は、北の騎馬民族の侵攻を食い止めるために建設された城壁だ。当然、日本よりも北に位置しているので、かなり寒い地域だ。
でも真昼の太陽が照っていて、雪も降っていないので、凍えるほどではない。
何より、夕飯に予定されている四川料理が楽しみで、全貌が見えないほどの万里の長城も、つまらない単なる石の連なりに見えていた。
本場の麻婆豆腐は、一体どれほど美味しいのだろう。
 
 
街中にバスで戻ると、すっかり日は暮れていた。
太陽がいなくなると、だんだんと風が強くなり出した。中国の冬の風は日本より冷たいが、とにかく乾燥している。唇は一瞬でカサつき始め、外に出ている肌はなんだかピリピリしている。目が開けずらいほどだ。
日本よりも断然広く設えられた歩道を進む。観光バスからはそんなに距離はなかったはずなのに、レストランに着く頃にはすっかり芯から冷えてしまっていた。
 
レストランの方から、簡単な挨拶があり、色とりどりの料理が見たこともない大皿に乗せられて僕らの前に運ばれてきた。
漫画やテレビで見たことのある料理もあるが、ほとんどが初めて見る料理ばかりだった。
かろうじて使われている食材がわかるものもあるが、初めて見る奇妙な形のキノコっぽいものもある。さてどれから食べようかと料理を見渡すと、その中にお目当てのアレを見つけた。
ラー油と唐辛子の、綺麗な赤がとりわけ鮮烈な、本場の麻婆豆腐である。
レストランの方曰く、わざと観光客向けではなく、現地の人が食べているそのままの味付けで提供してくれているらしい。
僕は思い切って、レンゲいっぱいの麻婆豆腐を口に頬張った。
 
 
「!!!!!!!!」
 
口から料理が飛び出さないように必死に堪えた。か、か、辛っっっっっい!!!
なんとか飲み込むと、喉を焦がしながら食道を通って、辛さが胃へ降りていくのはっきりとわかる。すかさず水を飲むが、いっこうに治る気配はない。
しかし、元来の食いしん坊。自然とレンゲが二口目に伸びる。かっらあっらあああああい!!
あまりの辛さに、目もチカチカしている。なんとか他の料理で中和しようと、テーブルを見回すが、改めて見てみるとほとんどの料理が辛そうだ。
中国は国土が広く、土地の環境も様々だ。海沿いの地域では新鮮な海産物が手に入るが、山深い地域では海産物が手に入りにくい代わりに、肉料理を中心に山の幸が食べられてきた歴史がある。
とりわけ、四川は山深く、湿度が高くジメジメしているらしい。
暑い夏に、辛い料理を食べて汗をかき、英気を養う。体を内臓から温めて養生するための料理と言ってもいいくらいだ。
辛さで涙目になりながら、昔読んだ『中華一番!』のページが頭に浮かぶ。僕は内心飛び上がるほど嬉しかった。
これなんだ。これが本場の中国の味なんだ、と。
 
サウナに入った後のように、全身に汗をかきながら、食事を終えてレストランの外に出た。
さっきはあれほど僕の体温を奪っていった冬の乾燥した風も、僕の熱は奪えないようだった。
そうか、この地域の人があれほど辛い料理を食べるのは、この北風の中で生きていくためなのか。
口だけじゃなく、気持ちまで熱くなっていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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