メディアグランプリ

2週に1度、2000円ガチャ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香月祐美(ライティング・ゼミ書塾)
 
 
よし、準備は万端だ。
冷蔵庫の扉を開いた私は、中身を見ながら確信していた。冷蔵スペースが3段に分かれている、一人暮らし用の冷蔵庫。
 
「明日の午前中になる予定です」
昨日の夕方、スマホにメッセージが届いていた。つまり、今日だ。
時計はもう午前11時を過ぎている。
ソワソワしながら、今か今かと玄関のチャイムが鳴るのを待っている。
 
 
普段、冷蔵庫に入れる食料の買い出しは、週末に一度の私。
仕事場からの帰り道に、私が勝手に「アミューズメントパーク」と思い込んでいるスーパがあるのだけど、仕事がある平日は開演時間に間に合わないのだ。
 
冬の時期は、入り口の外にまで様々な種類の柑橘類で溢れている。
突然、棚一面が全て違う種類のカレーで埋められている日もあった。
季節ごと、いや、行くたびに、売り場担当者の執念を感じさせる品揃えが待っている。
そんな狂気に魅せられて、買う予定がないものまで選んで買ってしまうたび、
「あちゃ、余計なものまで買ってしまった」ではなく、
「楽しい」と思ってしまっていた。
入り口には一分の無駄なく自転車を並べる整備員さんと、行列をなして待つ人たち。
ああ、ここはアミューズメントパークだなと、心の中で思うようになっていた。
 
しかし。
予定外の事件が起きた。
コロナに感染してしまったのだ。
 
食料と水が入った段ボール3箱が自宅に届き、飢える心配はなかったのだけど、届いた段ボールを開いて、食料を整理していたときのこと。
中に入っていたゴマドレッシングを手にした私は、気がついた。
このドレッシングを使う機会が、隔離期間が終わるまで無いことに。
アミューズメントパークには、あと10日ほど入場できない。
生命線であり、週に一度、行くのを楽しみにしている憩いの場でもあるのに。
 
うなだれていた私の目に入ったのは、野菜の発送サービスの広告だった。
金額を指定すると、農家さんから直接野菜が送られてくるらしい。
これからあと10日も野菜が食べられないのが辛かった私は、すぐに登録し、その日のうちに野菜セットを注文した。
冷蔵庫はほぼ空っぽだし、外に出れるまではずっと家でご飯食べなきゃだから、2000円分くらいかなと思いながら。
 
数日後。
届いた野菜セットの段ボールを開けた私は、中からオレンジの物体が見えて、焦った。
オレンジといえば、あれしかない。
子供のころからどうにも克服できないニンジンだった。
 
「お任せ」でお願いしていたので、あり得る話なんだけど。
自分は普段「当然」買わない選択だったから、うっかりしていた。
ニンジンを自分で料理したことなんて、あっただろうか……?
立派な2本のオレンジ色を手に、しばし呆然としていたが、とりあえず冷蔵庫に入れた。
 
次に、おや? と思ったのは、手のひらサイズの大根だ。
大根ってこんなに小さいっけ?
新種?
と思った次の一瞬、子供のころ、家の庭に小さな畑を作って野菜を育てた記憶が蘇り、あ、間引きしたやつかと気がついた。
普段、この大きさはスーパーに出回ることはないだろう。
農家さんとの直接のやりとりだから、無駄にならずに済むのかと、小さな大根5本に教えてもらった。
 
ジャガイモ、ほうれん草、2種類の玉ねぎ……どんな野菜が入っているのだろうと野菜を取り出しながら、いつの間にか宝探しをしている気分になっていた。
気軽に2000円で注文したけど、瞬く間にギュウギュウになっていく冷蔵庫。
段ボール自体、両腕で抱える大きさだったのだから、当然だった。
 
いち、に、さん……15種類ほどの野菜を数えながら、気がついた。
普段、自分が買う野菜の種類っていつも同じだったなと。
そういえば、ニンジンだけじゃなくて、トウモロコシも買ったことなかったや。
 
これ以上入りませんよ……。
そんな声が聞こえてきそうな3段の冷蔵庫を見ながら、気がついた。
毎週、アミューズメントパークで好きなものを選んで買い物をするのも楽しいけど、あえて自分で選ばない楽しさもあるんだなと。
 
外に出られなかったので、いつもは買わない野菜の調理方法を探すのも楽しかった。
大きな塊で茹でた食感が苦手だったニンジンは無事、ナムルになり、トウモロコシも数分で茹でることができると知った。
 
野菜セットに味を占めた私は、2週間後に再度注文してビックリした。
だって、思っていたのと違ったのだ。
前はブロッコリーなんてなかったし、インゲンも入ってなかった。
他にどんな野菜が入ってるんだろうと、気がつけばワクワクしながら宝箱を漁っていた。
 
宝箱の一番底に、茶色くて長いものを見つけ、これはまさかと恐る恐る取り出す。
皮付きの竹の子を手に、またもや新たな出会いを果たした私は、一緒に入っていた説明書きに目を通しながら思った。
これは、野菜ガチャだなと。
 
もう、ギブアップです……。
という声が聞こえてきそうな冷蔵庫を眺めながら、届いた野菜を、これからどうやって料理をしようかとワクワクしていた私は、完全に野菜ガチャの魅力に取り憑かれてしまった。
 
 
2週に1度、今日のために冷蔵庫を空っぽにした私は、今か今かとドキドキしながら待っている。
11時を過ぎているから、そろそろだな。
そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
宝箱を受け取るために、バタバタと玄関まで走っていった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事