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母のおなかは柔らかい


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記事:油井貴代子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
私は子供の頃からずっとポッコリおなかとともに成長してきた。もう50年以上の付き合いである。これからも、そう易々と簡単にはおなかが引っ込むことはないだろう。ひょっとしたら世間の女性たちは全員おなかがポッコリしているのではないか?と思ったこともある。母も近所のおばさんも親戚の叔母達も、私の知っている大人の女性はほぼポッコリおなかであった。「ぺったんこの女の人なんて、いるのかな?」いつもそう思っていたので、今でも習慣的に女性のおなかを見てしまう。若い華奢な女性の姿を見て、ペッタンコの人も存在するのだなぁと改めて感じたものだ。
 
私自身、ダイエットしなければとずっと言葉に出していたが、結果的には一度も成功したことがなかった。運動は嫌いだし、食べること、特に甘いものが大好きだから食事制限も無理。とくれば痩せる要素はゼロである。ストレスを感じると暴食に走るタイプでもある。おまけに更年期でどんどん太っていったようだ。他人事のように聞こえるかもしれないが、毎日自分自身を鏡で見ているので、多少太ったとは思っていたが、そこまで太ったと思っていなかったのだ。だが先日久しぶりにお会いした方に、「えらいふっくらしたな」とびっくりされてしまった。確かに体重計は噓をつかず、日々少しずつ数字が上がっている。
 
私のおなかは母譲りであることは間違いない。
母はどちらかと言えば華奢なタイプであったと思うが、おなかだけはかなりポッコリと出ていた。いつも気にして、ボディースーツを着たりガードルを履いたり、少しでもおなかがへこんで見えるように努力していた。私にも「下腹に力を入れてへこませながら歩きなさい」とよく言っていた。
でも私は母のおなかがとても好きだった。そう気が付いたのは最近のことである。
子供の頃、母の膝枕で耳掃除をしてもらうのが大好きだった。一歳違いの弟がいたため、私自身は母親にあまり甘えることなく育った。でも耳掃除のときは別。暖かい膝に頭を載せ、耳を掃除してもらう気持ちよさ。ポコンと丸く出っ張った母のおなかは膝に乗せた私の顔や頭に当たり、それがなんとも気持ちよかった。私にとってこの耳掃除の時間は至福の時であったことは間違いない。そして何より母のおなかの温かさと柔らかさ、そこから香る母のにおいがまぜこぜになって、今でも私の中に残っている。
 
私自身も世間の風潮に乗り、ウォーキングをしてみたり、少し食事を控えてみたり、スィーツを控えてみたりしたこともあるが、結局痩せる必要はないかも?という結論に至ったのはここ10年ほどである。今までふっくらしていたのに痩せてしまうと病的に見えると感じたからだ。それは主人が少しやせた時に、顔がげっそりして皺が増えたように見えたことで、一気に老けた感じがしたこともある。もともと痩せていた人なら良いのだろうが、私のようにどっしり型の体型は、この体系を保つことで周囲に安心感と幸福感を漂わせることができるのではないだろうか? たとえが古くて申し訳ないが、昔の典型的な母親の代表と言われた京塚昌子さんのような、着物が似合うふっくらした方が今の私の理想である。
 
最近、娘が私のおなかをポンポンと軽くたたいたり撫でまわしたりしてくる。私のおなかを触ると安心するそうだ。母と同じくポッコリ丸いおなかであるが、ふわふわもちもちのつきたてのお餅のような感じで、娘の表現を借りると二次発酵後のパン生地のような気持ちよさがあるらしい。きっと娘も私が母に感じていたものを、私のおなかに感じているのであろう。
 
決してこれ以上太るのは良いと思っているわけではない。健康的に老後を迎えるためには、今の体重をこれ以上増やすわけにはいかない。ただ、娘が感じている安心感を壊すことのないように、日々の暮らしを重ねていこうと思う。ダイエットに失敗してきた言い訳や負け惜しみにしか聞こえないかもしれない。でももう50年以上も一緒に暮らしてきたこのおなかだ。私自身もこのおなかに母を重ねながら、ダイエットではなく健康的な生活を送るための努力だけはしていこうと思う。いつまでも母のぬくもりを感じていたいから。
 
 
 
 
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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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