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盲目の恋〜切なくて苦しい恋愛の結末〜


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記事:紗矢香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
誰にでも胸にしまっておきたい恋の一つや二つはあるだろう。
思い出すと胸がキュッと締め付けられるような切ない恋。
私は大学時代にそんな恋をした。
恋の結末がどうなるかなんてその時は考えもしていなかった。
 
18歳の春、親元を離れての大学生活が始まった。三畳一間の寮生活にもだいぶ慣れ、
私はお金を貯めようとアルバイトを探していた。
同じ寮の友達は、彼氏が欲しい!  とよく合同コンパに行っていた。
そんな時、
「一人急にキャンセルが出て、どうしても人数が足りんのんよ。来てくれん?」
寮の友達にコンパの人数合わせの御願いをされた。私はバイトもない日だったので、行くことにした。
 
コンパ会場のお店に入ると、
「いらっしゃいませ」
一人の男性店員が出迎えてくれた。一見さわやかそうだが、影のある雰囲気。男闘呼組の成田昭二というアイドルによく似ていた。
私の方をみた。笑っているのに瞳の奥がなんだか寂しそう。妙に気になった。
 
席に着き、オレンジジュースを頼んだ。男性が2人、女性3人。あれ? 一人足りない。そこへさっきの店員の彼が現れ、私の隣に座った。
「バイト中だから、ちょっとしか座っていることができないけれど」
彼も人数合わせの一人だったのだ。
同じテーブルのもう二人の男性は、私たちと同い年で、彼は寮の先輩。
大学生で私より、2つ上だった。
私は、緊張してあまり話が出来なかった。
時間が過ぎ、お開きになり、寮に帰った。
寮に帰ってからも、私は彼のことを考え眠れなかった。
 
数日後、私の住んでいる寮に、彼から電話がかかってきた。
携帯がない時代、寮には黒電話がひとつ。
私宛だった。
「この間はありがとう。楽しかった。実は、俺の後輩があなたのことが好きらしいんよ」
私は絶句した。だが次の瞬間、
「私はあなたのことが好きなんだけど」
とストレートに思いを告げた。
 
彼はびっくりしたようだったが、
「本当のことを言うと、俺も君のことが気になっていた」
彼は後輩に仲を取り持ってくれるよう御願いをされ、自分は身を引こうとしていたようだ。
私はお互い同じ気持ちだったのが、純粋に嬉しかった。
彼は、後輩に謝り、後輩も私の気持ちをわかってくれ、なんとか円満に解決した。
 
そこから付き合いが始まった。
お互いお金もなかったので、ほとんど彼の寮で過ごした。
ご飯も炊いたことも料理もしたこともない私だったが、なんとか頑張ろうと努力していた。
だがなかなかうまくいかなかった。前の彼女は料理が上手だったと言われた。
そんなことを言われても、何も言えなかった。実際出来なかったし。
私はいつも帰りの車で落ち込んで黙っていた。彼の車の中では、甲斐バンドの歌が繰り返しかかっていた。
 
彼は、外では短気でよくケンカをし、揉めていた。
何かあったら危ないから会わないと言われて、長期間なんの音沙汰もない日もあった。
住む世界が全く違う二人だった。
付き合っているのに付き合っていない、そんな恋だった。
 
彼は大学を留年することになり、結局大学を辞めてしまった。
私は短大を卒業後、就職が決まり、彼の住むアパートの近くで一人暮らしを始めた。
 
お互い就職し、半同棲生活を送っていた。
この時が一番良かったのかもしれない。
普通の恋人同士のように、買い物に行き、ご飯を作った。
 
ただそんな生活も長くは続かなかった。
彼は、土方の仕事をしていたが、同僚とケンカになり辞めることに。
結局、また夜の仕事の世界に戻っていった。
だんだん私の家にも来なくなっていた。
 
ある時、生理が遅れていた。
彼から電話がかかってきたのでそのことを告げた。
 
「ほんとに俺の子か?」
 
その言葉は私の頭に突き刺さって、心臓まで達してしまった。
今まで問い詰めはしなかったが、彼に不特定多数の女の人がいるのは知っていた。
だが私は違っていた。彼だけだった。彼しか見えなかった。
ずっと我慢してきたが、その言葉で私の心は粉々にくずれてしまった。
結局その数週間後、生理はきた。ほっとした半面、悲しくて涙が止まらなかった。
 
2か月ほどたったある日、彼から電話がかかってきた。
「俺、結婚したから。だからごめんけど別れよう」
勤めているキャバクラの、子供がいる女の人と結婚したとの報告を受けた。
 
もうその時には、諦めはついていた。
「そっか。お幸せにね」
 
2年半の儚い恋が終わりを告げた。
どんなに友達からやめた方がいいと言われても、想いは変わらなかった。
周りがなにも見えなくなっている状態だった。
他人からみたら馬鹿な女だと笑われるだろう。
ただただ好きだった。自分の気持ちに正直に生きていた。盲目の恋だった。
嫌われたくなくて、言いたいことの半分も言えなかった。
どうしていいかわからなかった。
初めて本気で好きになった人だった。
 
数年後、ようやく新しい彼が出来た。
前の彼とは正反対の優しくて温和な人だった。
彼に、ふと聞いてみた。
「もし私の生理が遅れたらどうする?」
「そりゃあ、俺がパパになる時だな」
「そうだよね」
嬉しくて涙が止まらなかった。
 
 
 
 
***

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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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