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初の海外駐在員生活、キトで驚いたこと


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記事:木田 和廣(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
「キト」と聞いてすぐに、それが何だか分かる人は少ないかもしれない。南米エクアドルの首都だ。「あぁ、そう」普通の人はただの地理上の情報だろう。ただ、私には特別な響きを持つ。商社の駐在員として、私はそのキトに1996年4月から2年あまり住んだからだ。30歳にして初めての海外赴任。勤務する事務所には他の日本人社員はいない、いわゆる一人駐在。事務所に2人のエクアドル人スタッフはいたものの、日本人の先輩社員や上司はいない。日本人にしては珍しい体験をさせてもらったと思っている。
 
当時どんな気持ちだったのか、どんな生活だったのか、何を楽しみに、何を苦しみに思っていたのか、もう25年以上も前の話だから、忘れてしまっていること、あやふやになってしまったことも多い。でもその分、今覚えていることは25年の時を経てもまだ私の脳みそに刻まれている強烈な記憶ということになる。今日はそのうち、駐在のごく初期に驚いたことを少し書いてみたい。
 
どの会社でもそうだと思うが、人事異動の前には内示がある。私が、キトへの赴任の内示を受けたのは1996年1月ころだと思う。上司に別室に呼ばれ、数カ月先にエクアドルの首都、キトへの駐在の内示を受けた。この内示は嬉しいものだった。海外で働いてみたい。という希望で商社に入社したからだ。社内には商社マンは海外駐在を経験して一人前。という風潮もあった。「これで俺も一人前に」と思うと武者震いがでた。入社7年目のことだ。
 
エクアドルは南米大陸の左肩あたり、赤道直下にある。エクアドルという国名自体がスペイン語で赤道の意味だ。南米の赤道直下と聞くと、灼熱の国と思うだろうがキトはそうではない。標高2800mと富士山の7合目程度にある。首都としてはボリビアのラパスの次、世界で二番目に標高が高い。なので、朝晩や雨季はむしろ寒い。日本は一年に四季があるが、キトは一日に四季があるとも言われる。公用語はスペイン語。実際、一部のインテリ層以外は英語は話さない。
 
駐在員生活の初期にまず驚いたのは家だ。赴任する前に住んでいたのは会社の社宅。確か2DKだったと思う。妻と二人で暮らすには問題ないが、お世辞にも広いとは言えない、普通の団地の一室だ。ところがキトの家は、マンションの最上階のワンフロア。もともとは駐エクアドルパナマ大使が借りていたこともあるとか。広さは忘れてしまったが、ベッドルームが3つ。トイレが4つの豪邸。その階には私が住んだその家しかないので、エレベータに鍵を差してから階数ボタンを押す。つまり、他の人は上がって来ることはできない。エレベータの扉が開けばそこが我が家。床は総大理石張り。眺めは最高。晴れた日にはアンデスの雪を頂いた山々が見渡せる。チンボラソ山(標高6310m)、コトパクシ山(同5897m)、カヤンベ山(同5790m)など、世界中の登山家が目指すそうそうたる山々である。暖炉もある。ちゃんと薪をくべて燃やす本格的なものだ。朝晩の寒さはこの暖炉で凌ぐ。
 
30歳の若造、かつ、妻との2人暮らしにはもったいないくらいの家なんじゃないか? そのとおりだ。しかし、駐在員には日本からの出張者を自宅でもてなすという役割もある。お客様筋の出張者もいるため、あまりみすぼらしい自宅ではいけない。また、街全体として治安が良いとは言えないため、セキュリティについては妥協ができない。そんな訳でその家に住んだ。前任の駐在員が住んでいた家でもある。お陰で、初めての駐在で、知らない街でマンションを探すという難行は避けることができた。家賃も会社持ちである。ひと月に1回くらい停電でエレベータが動かなくなることはあり、それが不便ではあったが、それまでに住んだことのない豪邸に住めた。駐在員はこんな家に住めるのか、と驚いた。
 
次に驚いたのが、メイドがいたことだ。今考えれば雇わなくても良かったのだろうが、前任の駐在員の先輩から「他の商社の駐在員とのバランスや、日本人会の他のメンバーに対する体裁上、雇ったほうが良い」と言われ、雇った。しかし、私は、もともと日本の平民の出身である。それまでの人生でメイドさんが家にいたことはない。なので、自宅に他人がいて、掃除や家事をやってくれる環境は(夢のようだという人もいると思うが)、実際には、ひどく気疲れする。嘘か本当かわからないが、メイドさんが化粧品を(ボトルごとだと分かってしまうので)中身だけくすねることがある。という話もまことしやかに囁かれていた。ということもある。気が張る。
 
相性の問題もある。最初のメイドさんは少し暗い感じの30歳くらいの女性で妻と相性が悪く、3ヶ月くらいで辞めてもらった。辞めてもらうのだって気を使う。誰かの首を切った経験なんてないからだ。それに、辞めたあと生活は大丈夫かな? なんて心配してしまう。(でも辞めてもらったけれど)二人目のメイドさんはナンシーといって40歳くらいの気立てのよいおばさんだった。妻との相性も良かった。ロクロというじゃがいもとチーズのスープを作るのが得意で、美味しいロクロを何度も作ってもらった。ナンシーにはとてもお世話になった。駐在員になるとメイドさんを雇うのか、と驚いた。
 
こうして、驚きとともに始まった駐在生活は、その後も頻度こそ減っていったが、驚きの連続だった。ただ、驚きはしたが嫌な気持ちになることは全くなく、任期が終わりベネズエラに転勤になった時には去り難い気持ちになった。もう一度住め、同じことをしろ、と言われたら多分断るけれど、30代の楽しい記憶として、私の中にある。
 
 
 
 
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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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