メディアグランプリ

過去と未来の自分と出会う旅


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記事:兼田佑子 (ライティング・ゼミ)
 
 
夏休みの初日、私は始発の電車に飛び乗りひとりで山形に向かった。東京駅には朝早くから沢山の家族連れがスーツケースを引いて旅路を急いでいた。この2年間、旅行や外出が自粛となり、新幹線も空いていたが、今回は早朝の新幹線がやっと1席だけ取れた。
家のことを全て夫に任せて、3人の子供たちが起きる前に家を出た。私は、人生で2度目のひとり旅に出たのだ。
 
旅のきっかけは、去年から必死で取り組んできた大きな仕事を成功させ、やりきった後に心にぽっかりと穴が開き、自分の人生の目的を見失ってしまったのだ。そんな時たまたま山形で開催される本当の自分と出会うリトリート合宿を見つけ、ゆっくり温泉にでも浸かりながら、自分将来の事を考えてみたいと直感で申し込んだのだった。山形は私の母の故郷でもあり、自分のルーツを辿る旅でもある。
まさか、ひとり旅がこんなに簡単に訪れるとは思ってもみなかった。直感のままに、山形に移住したかつての職場の友人に数年ぶりに連絡をしてみた。彼女は快くかみのやま温泉駅まで出迎えに来てくれた。20才年上の彼女は、私がちょうど20年前に入社した時に知り合ったのだが、当時の彼女と今の私が同じ年だということに気がつき、すっかり盛り上がった。その当時、彼女も新しい人生を求めて転職した先で、新入社員の私と出会ったことをはじめて知った。『懐かしいね、20年なんてあっという間だよ、自分の好きなことをして生きないとあっという間にお婆さんだよ』と彼女は笑いながら、合宿会場まで車で送ってくれた。まるで未来の自分がこの合宿に運んでくれたような不思議な感覚だった。
木々に囲まれた癒しの温泉宿でリトリート合宿が始まった。この合宿に来た目的は何ですか? という最初の質問に私は答えられなかった。今の延長線上の未来の他に、もっと違う未来があるような気がして、山形に行けば何かヒントが得られるような気がしたのだ。明確な目的ではなかったが、自分の祖先が暮らしたこの土地が人生の分岐点になるような気がしたのだ。
そして、合宿初日に面白いワークに取り組んだ。合宿の参加者のうち、くじ引きで決めた1人のパートナーを合宿中ずっと喜ばせ続けるというものだ。しかも、そのパートナーには、私であることがばれてはいけない。出会ったばかりで顔と名前も一致していない状態から、パートナーを見つけ出し、周りの人の協力を得て情報を集めて、相手の喜びそうなサプライズを仕掛けるのだ。しかも相手に気づかれないように。私は早速パートナーに自然に近づき、勇気を出して話しかけてみた。『どちらからご参加ですか』50代半ばの優しそうなスポーツマン風の男性は、独特のなまりがあった。『山形市内からです』なるほど、私の母のなまりに似ていて、初めて会ったとは思えないくらい親しみがわいた。祖父の家に子供の頃よく遊びに来ていた話をすると、『お爺さんの家は山形のどこですか』と聞かれた。しかし、そのときは全く思い出せなかった。
その夜、温泉に浸かりながら、子供の頃、初めての1人旅で飛行機に乗り祖父の家を訪れたときのことを思い出していた。空港で祖父が1時間も前から心配して出迎えてくれたこと。私が夏休みに来るのを楽しみに春から種を植えて、採れたての野菜を食べさせようと準備していたこと。丸かじりした野菜の甘味や土の匂い、祖父の笑顔がありありと蘇ってきた。祖父は誰よりも人を喜ばせることが大好きで、いつもサプライズを用意している人だった。次々と祖父の事を思い出し涙が溢れた。そして、祖父へのお礼の手紙を書いている小さな私の姿が頭に浮かんだ。幼い頃の私は難しい漢字を頑張って思い出しながら手紙に住所を書いていた……。その瞬間、忘れていた祖父の家の住所を思い出したのだ。
翌日、私はパートナーに、祖父の住所を思い出したと伝えた。なんと、そこはパートナーの住んでいる家のすぐ近くだったのだ。すると、この合宿が終わってから、祖父のお墓とかつての祖父の家を廻って、山形駅まで送ってくれると言うのだ。ここでの出逢いは偶然じゃなく、必然な気がする。人助けは小さい頃から私の使命だから、こんなに嬉しい頼まれ事はない。パートナーは私が、祖父を思い出し、この土地で何か人生のヒントを得たいという思いを助けることが出来て光栄だと喜んでくれた。私は昨日出会ったばかりのパートナーの好意をありがたく受け取ることにした。
合宿が終わり、私はパートナーとかつての祖父の家の前に立ち目を閉じた。これからは家族や周りの皆を喜ばせ、笑顔にすることを使命として生きよう。何をやるかはこれからでも良い。そして、与える喜びと受け取る喜びを同じように味わって生きよう。私は祖父からのバトンを受け取った。この旅は全て祖父が私を喜ばせようと用意したサプライズのように感じた。人生2度目のひとり旅で、私は初めての1人旅のことを思い出し、祖父の元へとたどり着いた。心に空いた穴に火が灯り、第2の人生が始まったと感じた。
 
 
 
 
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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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