メディアグランプリ

いつだって、あなたを思い出さずにはいられない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本三景(ライティング・ゼミNEO)
 
 
買ったばかりの漫画を読み終えると、巻末に、次巻の発売予定が書いてあった。
 
2023年2月頃発売予定!
 
来年の2月か……。
そんな先のこと、考えたくもない。
しかし、あっという間に時は追いつくのだろう。
その発売予定を見ながら、私はある漫画のアニメ化の話を思い出していた。
 
もう4年ぐらい前になる。
『バナナフィッシュ』という漫画がアニメ化されるというニュースがネットで流れた。
吉田秋生原作の漫画で、ニューヨークのストリートギャングのボスとして圧倒的なカリスマ性を持つアッシュという少年と、カメラマンの助手としてニューヨークへやってきた英二という少年が出会い、マフィアの抗争や不良グループの対立に巻き込まれていくというハードな物語だ。
ドラッグや、ベトナム戦争後のアメリカの闇が描かれた骨太の漫画で、1980年代の漫画だが今も人気がある。
 
私は『バナナフィッシュ』を好きだった先輩に、アニメ化の話を熱く伝えることがどうしてもできなかった。
 
会社の先輩で素敵な先輩がいた。
ユーモアがあって物知りで、美味しいものとお酒が好きな、誰からも一目置かれるような華やかな人だった。
しかも、美人だ。
色が白く、とても指が綺麗な人だった。
やさしいだけでなく、きっちりと突っ込む。
「敵わないなぁ」と言われているのをきいたことがある。
 
先輩はかなりの『スター・ウォーズ』マニアで、DVDとBlu-rayの両方を持っている。
映画にも詳しいので、試写会にもよく一緒に行った。
本もよく読む人で、小説や漫画をお互い貸し借りしあったことを今でもおぼえている。
お笑いにも詳しく、名古屋にいながら関西の番組もチェックし、M1などの賞レースの翌日は、必ず「みた?」と語り合ったものだ。
 
「登場人物のアッシュを実写化するならリヴァー・フェニックスかな」
 
『バナナフィッシュ』は先輩も好きな漫画の一つで、23歳という若さで亡くなった海外の俳優を、「実写化するなら誰だ?」という妄想トークに当てはめながら一緒に飲んだこともあった。
 
話していると楽しくて、自分の知らなかった知識も先輩と一緒にいると自然と入ってくる。
私は先輩が大好きだった。
いつか、こんな人になりたいな……。
そんなふうに思っていた。
 
そして、先輩は突然体調を崩し始めた。
その頃、私は違う部署に異動したばかりで、会社内で会うことが少なくなっていた。
久しぶりに会社で見かけた先輩は、びっくりするほど痩せていて、歩くのもきつそうだった。
 
2018年の春、先輩は実家のある徳島の病院へ入院することになった。
いつもより帰るのに時間がかかったとLINEをもらった。
体力のない状態で、新幹線と電車を乗り継いで徳島へ帰るのは、どれほど大変だったことだろう。
私は、なるべく毎日LINEをした。
桜の写真を送ったり、会社での悩みを話したり、面白かったお笑い番組の話をしたりした。
日常の何気ないことを、迷惑だったかもしれないが、LINEした。
私の自己満足だったかもしれないが、少しでも気がまぎれることを願い、1日に1回、LINEしていた。
 
そして、その夏にアニメ化される『バナナフィッシュ』は、主題歌等の詳細も決まってきて、これは先輩に話さねばと思った。
 
しかし、言えなかった。
なんだか先輩が消えてしまいそうな気がしたのだ。
 
元気になって観ましょう!
楽しみですね!
 
そんなことは言えなかった。
まだ春だというのに、私は何を不吉なことを思っているのだろう。
でも、言っちゃいけないような気がした。
そんな先のことを……私は言うことができなかった。
 
そして、夏を待たずに先輩は旅立った。
私のLINEは最後の一通だけ既読にならなかった。
 
社内メールで、実家の徳島で行われるお葬式の時間にあわせて、会社で黙祷が行われることを知った。
ただし、関係部署だけだ。
そのお知らせは、こっそり私に転送された。
私はどうしても黙祷を捧げたくて、黙って先輩のいた部署に潜り込んだ。
一番後ろの端っこで、ジッとしているだけだからバレないだろう。
 
一人、号泣していた。
 
これでは潜り込んだ意味がないではないか!
バレてしまうではないか!
 
私はハンカチで、これ以上感情がこぼれ落ちないように必死に顔を覆った。
ハンカチでは抑えきれず、嗚咽をもらしながら泣きじゃくった。
こんなにも顔の筋肉を使うとは思っていなかった。
久しく泣いていなかったから、泣き方がわからなかった。
ぐちゃぐちゃだった。
いつの間にか、私の肩をそっと支えている後輩がいた。
 
そして、何事もなかったかのように自分の部署へと戻る。
私がどこへ行っていたかなんて、誰も気づいていなかった。
 
そんなことを、漫画の発売予定日をみて、思い出していた。
 
ふとしたことで、今でも先輩を思い出す。
思い出すきっかけはいくらでもある。
「生き続ける」ということはこういうことなのかもしれないと、先輩を思い出すたびに私は思う。
 
いつもの道を通るだけで、あの頃を思い出す。
角のお店が変わっただけで、
「一緒に行ったなぁ」と、あなたのことを思い出す。
 
いつだって、私はあなたを思い出さずにはいられない。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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