メディアグランプリ

心温まる話(ミニ四駆編)


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾麻里子(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
鮮明には覚えてはいないが、子供のときに兄と遊んだ記憶はどれも楽しかったように思う。私の兄は、今も昔も車が好きで、おもちゃと言えば、車関連のものばかりだった。中でも、よく思い出すのは、ミニ四駆である。
 
学校から帰ってくると、より速く、より安定して走れるミニ四駆にするため、重りをつけたり、先端に回転軸のようなものをつけてみたり、兄の部屋はさながら、小さな鈴鹿サーキットのようだった。
私は、いつもその様子を兄の後ろから眺めては、色々と話しかけていたように思う。とても懐かしく、良い思い出だ。
 
それから何年か経って、私は5歳と3歳の男の子の母になった。
不思議なもので、こちらが意識的にしむけていなくても、男の子は、車や電車、ブロック遊び、昆虫採集に興味を持つ子が多いように感じる。我が子も、そのThe男子的遊びに夢中になって、つい先日、ミニ四駆デビューを果たした。もちろん、先生は私の兄だ。さすがにまだ一からミニ四駆を組み立てることはできないので、兄のコレクションから、何台か譲り受けた。
 
早速、そのマシンを持って、近所にあるミニ四駆コースに向かった。
そこは2時間500円でコースとマシンの製作や改造のためのフリースペースが借りられるようになっていて、既に、親子連れと、高校生くらいの3人組の男の子たちが、誰よりも速いマシン作りに黙々と取り組んでいた。
 
人が、何かに夢中になる様は、いつ見ても素敵だな、と思う。
彼らは、マシンが走り去るのをスマホで撮影し、その動画を見返しては、ここがもっとこうだ、いや、こうしたらいいんじゃないかと相談しながら、改良に改良を重ねていた。その目はキラキラと輝いていた。
 
さて、と、我が息子たちに視線を向けると、
コースを縦横無尽に走り尽くすミニ四駆に心奪われていた。
わー、きゃー、と歓声を上げながら、こちらも目をキラキラとさせながら、ずっと見飽きない様子だった。
 
そこを、おばあちゃんとそのお孫さんと思われる二人連れが通りかかった。
案の定、男の子は、一瞬にして心を奪われたようだ。
 
しばらく、そこにじっと立ったまま、ずっとミニ四駆を見つめていたその子は、私たちのところにきて、
「それ、貸してください。」と何の迷いもなく言った。
 
私は構わないと思ったものの、まだ自分のおもちゃを人に貸せるほど精神的には成長を遂げていない息子たちは、断固として拒否をした。
それもそうだよな、と、申し訳ないが、丁重にお断りをした。
 
すると、その子のおばあちゃんが、
 
「ごめんなさいね。この子、一度言い出したら聞けない(・・・・)子でして・・・。」
 
と困惑と申し訳なさが入り混じった表情でそう言うと、軽く会釈をして、他の人に交渉中の男の子のもとへと去っていった。
おそらく、そこでも断られたのであろう。こちらから、おばあちゃんの少し開いた口と、会釈する様子が見えた。
 
何だか、気の毒にも思えたので、
気になってその二人を目で追っていたのだが、
結局、ミニ四駆を買ってあげることにしたのであろう。
高校生3人組が、身振り手振りで、お店の場所や、必要なものを説明しているように見えた。説明だけでは伝わらなかったようで、最終的には、高校生のうちの一人が、二人を引率して、お店まで連れていってあげていた。
 
私たちが昼食のため、1時間くらい席を外して戻ってくると、
あの高校生の一人が、男の子にミニ四駆の作り方を教えているではないか。
時折、こちらにも聞こえてくる。
 
「ミニ四駆ってね・・・何だよ。」
「この動力が・・・でね。」
 
切れ切れにしか聞こえてこないが、ものすごく丁寧に説明をしてあげているのはわかった。男の子はというと、どんどんと形作られていく自分のマシンに一点集中で、ほぼ、誰からの言葉も耳に入っていない様だった。
おばあちゃんは、その様子を微笑ましく見守っていた。
 
しばらくすると、ミニ四駆が完成した。
 
「本当に、ありがとうございました。この子はとても喜んでいると思います。でも、あなたの時間を奪ってしまってごめんなさいね。」
とおばあちゃんが言うと、
 
「いや、僕はとても楽しかったです。」と爽やかに言い切った。
 
おばあちゃんは、深々とお辞儀をして、お孫さんとその場を去っていった。
 
私は、ものすごく感動した。
決して、当たり前の行動ではないと思う。
だって、その子たちだって、ミニ四駆の改良・研究を楽しみにそこにやってくるのだから。時間だって限られている。その中で、人のために自分の時間を惜しみなく避けるなんて、なんと素晴らしいことであろう。自分も楽しかった、というその一言に凝縮された彼の人柄に、本当に心から感動。
 
他者を大切にすることが、その様子を見ているものにとって、どんなに胸を熱くするものなのか。ミニ四駆を通して学んだ気がするし、コロナ禍になって、人とのつながりが薄くなって、自分のことや、親しい人たちだけをとにかく守ることに必死になっていた自分にも、はっとした。
 
人の心の温かさって、本当に大きなパワーを持っている。そう思った出来事だった。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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