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メディアグランプリ

新宿で20分、時間ができたら……


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井上ハルカ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
皆さんにとって「至福の時間」とはどんな時だろうか。
私にとって、はっきりとそう言える時間がある。
綿密に計画した旅行、大好きな人と一緒に観る映画、ずっと行きたかったアーティストのライブ。
もちろん、それこそ極上の幸せというものだろうが、対価も大きい。ハイカロリーな悦びというものである。
 
そう、誰かとの待ち合わせまでちょっと時間があるとき。そこが新宿だったら、「あれ行っとこ」と思い付きで行く程度の、ローカロリーな悦び。予期せぬそれが、私の至福の時間だ。
 
「ビア&カフェ BERG」(以下「ベルク」)は新宿駅東口の改札近く、少し奥まったところにある。いかにも老舗の喫茶店という感じだが、ドアは開け放していて出入りはしやすい。でも人によっては尻込んでしまうかもしれない「ごちゃごちゃ感」がある。やたらと貼られた読み物類から、ちょっとした店のイデオロギーも感じる。
 
でも、そういうのは一旦脇に置いてほしい。
一歩入ってみても「いらっしゃいませ!」と声をかけられることはない。非常にヌルっと入店できてしまう。眩しい笑顔を向けられることもない。客の出入りは自由で、店員は厨房で忙しく労働している。私はこの感じが好きだ。
入店時の歓迎ムードに気後れしてしまって、いそいそと注文してしまうということもない。こちらも真剣にメニューボードを見て悩む時間もあるというものだ。提供する側・される側、対等な関係が心地いいのだ。
 
この日はちょっと遅い昼に訪れた。
14時から約束がある。移動時間を考えると20分前には出たい。13時15分だったが迷わず入店した。
久々の来店だったのでちょっとメニューが変わっている感じがしたが、ベルクは一日中ビアセットがある。ビールはマストとして、私が大好きなのが「レバーパテ」と「ポークアスピック」。これらが入っているセットがいい。
スライスしたバゲット、ライ麦パン、ハム、ピクルス(またはザワークラウト)、絶品のラインナップにビールがついて、1,000円でお釣りがくる。
 
フードチームがワンプレートにおつまみを仕上げていく。ビアマイスターと呼ばれる人たちが、黄金色の液体をトクトクとグラスにきっちり擦り切れ一杯注ぎ込む。その鮮やかな様子を眺めながら、すでに始まった至福の瞬間に静かに興奮する。
 
小さな店ながら席数は多いので、空いているところに滑り込む。椅子が空いていたらラッキー。立ち飲みだっていい。
純度100%に限りなく近い、自分の時間がスタート。
大きく喉を開けて最初の一口目を流し込む。
はぁーーーー! このために生きてるっ!!
「ポークアスピック」というのはベルクの名物だが、なんだか分からない。(この記事のために調べたらドイツ料理らしいことは分かったが、分からないままにしておきたい)“コンビーフ状の豚肉のマヨネーズ味のゼリー寄せ”みたいな感じがするが、なんだか分からないということは、つまり自分では再現不可能。これをバゲットに塗って食べる。
次に味の濃い目なレバーパテ。独特の臭みはスパイスによって旨みに昇華され、力強くもなめらかで食べやすい。こちらは酸味のあるライ麦パンに塗る。
交互に、パンとパテが丁度よく一緒になくなるまで。たまに逆の組み合わせにするが「違うな」と思いながら。
パンは良い塩梅でトーストされ、外はカリッと、中はフワッと。ハムは豚と鶏と2種入りが嬉しい。箸休めにザワークラウト。
 
こんなにおいしいが、なんというか、「私に気を遣わず、好きなことでもしながら、用事でも済ませながら、つまんでくださいな」と言われているような気楽なごちそうだ。
 
ベルクにいるときの私は、食事のマナーを口やかましく子供たちに注意する、家の自分とは別人だ。
端的に言って行儀が悪い。
ながら食いをはばからない。スマホでSNSを見たり、時間があるときは映画を一本観たこともある。本を読んでもいいし、ぼーっとしても良い。多分泣いても良い。
この日は紀伊國屋書店で買った雑誌や文房具を広げて悦に入っていた。
 
さて、13時15分に入店し、食べ終わったのは13時35分。余裕だ。
20分しかたっていないが、この満足感は何だろう。
 
ベルクで過ごすとき、私は新宿の風景の一つになる。
誰も私のことを気にしていない。店員も客も。
日常を破るような大きな声など出さなければ、静かに風景に溶け込んで、他人の人生にとっては書き割りの一つになって、自分の時間だけに没頭できる。
ひとえに。
ベルクという店の懐の深さのなせる業ではなかろうか。
汗を流して働く人がいて、いつでも誰にでも等しく、美味しいものを提供する。
たとえ20分でもいいから、それを味わいたくて店に入る。
嬉しいとき、哀しいとき、イライラしてるとき、モヤモヤしてるとき……
いろんな感情をぶら下げてこの店に入ったが、一回も肯定も否定もされたことがない。ただ溶け込んだ。そぐわなかったことはない。
それは、ただただ、この店が受け入れてくれたということに、他ならない。
 
朝昼晩、いつでも構わない。7時から23時まで年中無休。騙されたと思って入ってみて。ビールもワインも日本酒もあるし、もちろんこだわりのコーヒーも。ご飯は全部美味しい。
私にとっては新宿のとまり木だ。なくなったら泣いてしまうかもしれないけど、泣く場所もなくなる。そうなっては困るから、新宿で時間ができたら「とりあえずベルク」。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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