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ミッシェルとの初デート やっと大人になりました


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:モトタケ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「そういう事だったのか? 気付くのに30年もかかったな」
 
ふと、思い出した遠い、遠~い消えかけた自分の記憶の中で、新たな発見があるとは思いもしなかった。
 
19才の夏、アメリカに短期ホームステイをした時のことだ。
 
現地でいつも一緒にいたグループの中に、ミッシェルという女の子がいた。
彼女は私と友達になろうとしてくれていたのだと、今頃になって気付いたのだ。
 
ミッシェルはアフリカ系アメリカ人。小柄でちょっと内気。こちらから話しかけても、いつも「ツンッ」とした態度で「デレ」は無かった。日本人が嫌いなのかな? と勝手に思い込み、私は苦手意識を抱いていた。彼女は、私のホームステイ先のホストファミリー(学生を受入れる家族)の友人であった。
 
ホストファミリーのアーロンとベッキーは20歳と19歳のカップルで、驚いたことに、ベッキーはすでに妊娠しており、彼らは私の滞在中に結婚した。
 
アーロンとベッキーの結婚式の翌日だった。家中が昨日からの幸せモードで冷めやらぬままパーティー気分が続いていた。そしてアーロンが、「ちょっといいか?」と何やら思惑ありげに「食事に行こう」と私を誘う。断る理由もなく、一緒にトラックに乗り出かけると、途中で寄り道してミッシェルを乗せた。
 
「なーんでミッシェルが来るの?」座席から下半身がずるずるずる~っと滑り落ちそうになる。
「アーロン、大丈夫か? きのう結婚したばかりでしょ?」
 
結婚2日目に奥さんを家に残して女友達と食事か? 何てオープンなんだ、この組み合わせはとても不自然だ。そう感じたのは自分はいつもゲストの身であると、自分の立ち位置は円の中心ではないと思い込んでいたせいであろう。
 
当時は全く気付かなかったが、恐らくこれは仕組まれたデートであった。ふいに思い出したことで、長らく引きずっていた違和感が解けた。
今考えれば当時はティーンエージャーと呼ばれる年頃だ、私には付き合っていた彼女が日本にいたのだが、そんなに気構えなく食事と会話を楽しんで交流を深めればよかったのではないだろうか。
 
ミッシェルが乗り込んだトラックの後部には座席がなかったので、私は助手席を彼女に譲った。けれども「ツンッ」と小さく首を横に振られてしまった。「面倒くさいやつ!」と思いながら、結果的に女の子をボロボロのトラックの荷台に座らせている自分が悪者に思えてならなかった。
 
移動中の車内はシーンと静まりかえり、運転席のアーロンもずっと先を見つめていて様子が変だった。私の足りない英語で話しかけてみても会話が弾まず、「来るんじゃなかった」「早く帰りたい」と終始思い続けていた。
 
レストランでの記憶は、何を食べ、どんな会話をしたか、どんな様子だったのか、まるで思い出せない。よほど窮屈な時間であったのだろう。
「ギャラクシアン」という1980年代に流行した日本のビデオゲームが置いてあり、それをアーロンと1ゲームずつプレイすると、お互いに何となく「帰ろうか」という雰囲気になった。そもそも状況からして、食事もしていなかったのかもしれない。
 
結局何も起こりませんでした。という、ただそれだけの話である。
 
早い時間に部屋に戻り翌日の課題ノートを開くと、今夜のことはページをめくるかのように過去に忘れ去られて行った。カラッと晴れたカリフォルニアの刺激的な毎日の中で、唯一のモノクロームな出来事であった。
 
それが何故、今頃になってフラッシュバックして来たのだろうか? 無意識の領域でずっと違和感と後悔の念を持ち続けていたのだろうか? よく分からない。
 
今の自分から見れば、一人の人間と知り合う機会を棒に振ったという事実が、残念に思えてならない。それは取るに足らない小さな出来事ではあるが、自分の人生において大きな損失であったと思う。
グループ内では我々二人だけが有色人種であったし、カルチャーやいろんな視点で話せることがたくさんあったように思える。相手の印象だけで決めつけず、学びや、刺激があった筈だ。そこに至らなかったのは、若さと言う以上に、幼かったのだと思う。
 
もはや、この失敗も必要だったのかもしれない、と思うしかない。そう思えるのは成長した証だと開き直ろう。あ~、なんだかスッキリしてしまった。30年経ってようやく幼かった自分から完全に抜け出せた。大人になったという事にしておこう。
 
ミッシェルとの初デート? に感謝である(と同時に、盛り上げられなくてゴメンね)
 
アーロンとベッキーの結婚パーティーでノリノリでダンスしていたミッシェルを覚えている。緑の芝とバラで彩られたガーデンで、卑猥な位に腰をくねらせ、仲間たちと楽しそうに踊っていた彼女を覚えている。
 
彼らは早熟で自立していて、そして皆必死に生きていた。その暮らしぶりは裕福ではなさそうだったが、底抜けに明るく、毎日を楽しんでいる姿は美しく見えた。その場だけではなく将来の事も見据えている、同年代の私よりもずっと「大人」だった。何に対しても皆一様に自分の意見を持っていて、芯が通っていた。
 
前述したサプライズデートの件もそうだ。「チャンスは自分でつかみなさい」そんな前向きな生き方を教えてくれていたのかもしれない。(気付かなかったけど)
 
その後のエアーメール(手紙)でのやり取りは、お互いの度重なる引っ越しや、時間の経過で途絶えてしまったが、今も皆元気で歳を重ねていることを、良い人生を過ごしていることを願いたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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