私の孤独死問題を、夫が秒で解決した話
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記事:小西 裕美(ライティング・ゼミNEO)
Googleカレンダーに、ミーティングの予定が飛んできた。確認してみると、いつもなら長くても1時間なのに、そのミーティングはなんと3時間もあった。予定の題名を見ても、何の話かまったくわからない。あぁ、なんてタイミングがわるいんだ。
その日は、ちょうど結婚5周年で旅行の予定を入れていた。いつもなら、「その日はお休み頂いてまして」とだけ伝えるけれど、なにか大事なミーティングかもしれないので、主催者と同僚には、「その日は結婚5周年で、すみません……」と理由も伝えておいた。
すると、すぐに「おめでとう! 楽しんできてね」と言ってくれた。それを聞いていた他の人からは、「そうなんや、もう結婚5周年なんや!」と驚かれた。私は、このあとにある少しの沈黙がいつもこわい。結婚して、もう5年も経つのに、まだこどもがいないの? と言われている気がしてしまう。
こんな被害妄想をしてしまうのは、私が血友病の保因者だからかもしれない。血友病というのは、血が止まりにくい病気のことで、保因者というのは、その遺伝子を持っている人のことだ。人より少し血が止まりにくいものの、日常生活に支障はない。
問題なのは、こどもへの遺伝だ。血友病は、X染色体に変異がある病気なので、仮にその染色体をX’とすると、私はX’Xという性染色体を持っていることになる。夫はXYなので、私たち夫婦から生まれるこどもは、4つの組み合わせが考えられる。
男の子の場合はXYとX’Y、女の子の場合はXXとX’Xだ。X’Xの女の子が生まれた場合は、私と同じく血友病の保因者となる。X’Yの性染色体を持つ男の子が生まれたときだけ、血友病を発症してしまう。血を止める成分が1%以下のこどもが生まれる可能性が高い。
とはいえ、昔に比べるとかなり医療は発展していて、産もうと思えば、産める環境は整っている。血友病のこどもが産まれても、週に2〜3回、血液凝固剤の注射を打てば、問題なく生活できる。
ただ、夫は私の身体のことが心配のようだ。血液検査で調べてみたところ、私は普通のひとの20%未満しか血液を止める成分を持っていない。専門医がいる病院は少ないことに加えて、どこも家から遠く、すぐに行ける距離ではないことも不安要素だ。
だから、夫と結婚するときに、こどもはいなくてもいいよね、と話していた。これまでもふたりで楽しく暮らしてきた。ただ、やはり年齢を重ねて、女性としてのタイムリミットを感じるにつれて、気にしてしまう。友人がママになっていく姿をみると、自分がポンコツのように感じてしまうこともあった。
そして、老後の不安がつきまとう。こどもがいなかったら、自分たちが年寄りになったときに、誰に頼ればいいのだろうか。そんな不安要素を払拭したくて、ネットで「こどもがいない夫婦」と検索すると、出てくるのは老後に備えて早めから貯蓄しておこう、という記事ばかり。
お金のことも不安だけど、それよりも不安なことは、孤独だ。血友病の保因者とはいえ、なんだか私はとても長生きしそうだ。すごく、しぶとそう。女性の方が平均寿命が長いから、同級生の夫よりも、たぶん私の方が長生きするだろう。
もし、身寄りがなくなって、ひとりになってしまったとき、私はどうやって生きていくのだろうか。想像するだけで、さみしすぎて、耐えられない。そういえば、夫はどう考えているんだろう? と思って聞いてみた。
「こどもがいなかったら、孤独死しそうでこわくない?」
「……え? もしかして、こどもに頼ろうと思ってたん? おじいちゃんとおばあちゃんの面倒みてもらおうなんて、こどもからしたら、めっちゃ鬱陶しくない?」
「……でも、いざというときに頼れる人がいなかったら不安じゃない?」
「自分らで老人ホームに入ったらいいやん。こどもに助けてもらおうなんて、そもそも思ってなかったわ。こどもに気遣うわ」
「……うん、そうやな」
私のシリアスな悩みを、一瞬で吹き飛ばしてしまった。夫の言葉を聞いて、老後もなんだかやっていけそうな気がしてくる。むしろ、今まで甘ったれていた自分がすごく恥ずかしい。
しかも、よく考えてみると、老後の不安なんて、こどもがいる・いないに関わらず、やってくることだ。もしかしたら、子育てをしながら貯蓄していくことの方が難しいかもしれない。今まで、こどもがいないということが少しコンプレックスに感じていたけれど、こどもがいるからこその悩みもあるのかもしれないな。
自分がすごく狭い視野で生活していることに気づかされた。私の孤独死問題を解決しちゃうなんて、本当に、夫と結婚して良かったなーと、改めて思った。
***
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