オトコの料理修行は丁稚気分
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:高室シゲユキ(ライティング・ライブ名古屋会場)
あなた(主に男性のみなさん)は料理は好きですか。嫌いですか?
10年前のイクメンブーム。「子育てしないのならパパとは呼ばせない」という強烈フレーズがなつかしい。脳震とうを起こすくらいに響いた。
で、いまは……2年前からのコロナのおかげで「料理男子」は自然発生的に増えた。私だってそうだ。3年前まで、ほぼ夜は外食だった。ほとんどがもちろん飲み会。料理を作るなんてこと自体に無縁だった。
しかしいまはすっかりと料理男子。わりとホームワークでこなせる仕事なので、妻さんはお出かけして私は一日中オンラインでせっせとお仕事。朝食・昼食・夕食、ほとんど自前で作っている。慣れないうちは大変だったが今では嫌々でなく、少しは楽しめる自分になってきた。
しかしここに至るまでにはドラマがあったわけで。「食べるだけ王子」の私が越えなければいけなかった「いくつもの壁」のお話だ。
まずはマニュアルがないとなーんもできない自分がいることに愕然としちまった。つまり段取りが決まっていないと手が動かない。レシピを見れば文字で書いてあるけどまったくイメージがわかない。「塩少々」ってなんだ!「適当な時間、煮立てて……」の適当とは何分何秒なんだ!オトコはこの「なんとなく表記」がガマンできない。それに3品~4品作るとなると段取りが交錯して、もうわからん!のだ。
それと私の悪いクセも判明した。それは、素直に学ばずに「疑ってしまう癖(へき)」だ。レシピにさえ突っ込んでしまうからタチが悪い。本当にこれしか方法はないのか。これが真実なのか、おい!……ど素人向きに、こんな基本的なこと書きやがって、なめんなよ、と内心マウントをとりにいく自分がいたり。
やがて面倒くさくなって、自分の納得感(これがもっともあやしい)でやり始めることに。するとあやしいオトコ飯ができあがるのだ。
そして最大の壁がこれなのだ。
「これ、まずっ……」
妻さんの言葉がグサッと私の心をざっくりと削る。いまなんってった?まずいだと……ワナワナと震えるハート。「うーん、薄いんだな」と妻さんは私のただならぬ気配をカンムシして、薄口しょうゆのミニボトルを手に持ち、ピューとゴーヤチャンプルーにかけはじめる。
「ちょうどいいはずの味な、なんだけど……」とオイラ。
「おいしいかどうかは、私が決めるの!まだまだね……」
ため息まじりの妻さんに、私のハートはしなしなと萎えていく。
実は私には「薄口コンプレックス」がある。京都出身の私は「素材の味で勝負」するのが基本。味つけは「出汁程度」が習いなのだ。おかげで、わずかの味つけでも濃いと感じてしまうほどの過敏な舌になった。
それを「薄い」と指摘されると人生を否定されたような気持ちになる。
なにせマウントをとるのが習性のオトコ。それを60年以上続けているから、率直とはいえ妻さんの評価にカチンとくるオイラがいる。ジェンダーに理解はある風を装ってきたものの、実は、それは表向きなのか。内面の悔しさの炎が燃えることに。ああ、なんと情けない。
ではオトコたるもの手料理修行はどうすればいいだろう。
それは簡単。自分より腕のいい師匠を決めて弟子のように教えを請うことをおススメする。つまりマウンティング習性を逆利用するわけだ。できるなら年下の料理の先生を探し出し「弟子」になる。クッキングスクール(私も3カ月通った)があれば最善。なければYouTubeか料理アプリでもいい(おススメはDelish Kitchen)。腕前を上げるには「丁稚奉公」のようにひたすらいわれるままに手を動かすこと。理屈はなし。質問もなし。ひたすら言われるままに同じことをする。これだ。
これは基本の「型」を身につける古武道の修練法なのだ、と自分に勝手な意味づけで自分を納得させられれば、完璧だ。
とかくオトコは面倒くさい。しかし強いものに従順という習性がある。ならば腕が上がるまでは丁稚奉公気分を楽しむくらいでやってみてはどうだろう。言われるままに動くのって、意外と楽しかったりする。うまくいけばほめてもらえるしね……多分(泣)。
「師匠、今日はなにがいい?」とオイラ。
「なんでもいい。お腹減ったぁ……」と妻さん。
なんでもいいとはなんだよ!チッと思いながらキッチンに立つ。口ごたえはNG……私は妻につかえる「丁稚」なのだから。
***
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