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「ありがとう」を多く言う人


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記事:野村紀美子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「ありがとうございます」と言うのはどんなときですか。「誰かに、感謝するときに決まってるでしょう」という声が聞こえてきそうです。
 
私が「ありがとう」という言葉を、ちゃんと意識して使い始めたのは、20歳の時だったと自覚している。就職したときに、先輩から『「すいません」禁止令』が出されたのだ。
謝るならば「『申し訳ありません』だ」と。接客の仕事をしていたので、お客様に声をかけるための言葉は、「恐れ入りますが」または「申し訳ございません」。上司や先輩には「「申し訳ありません」だ。先輩から指導やアドバイスをもらったら、「『すいません』ではなく、『ありがとうございます』」だと。もちろん社会の常識なのだが、ちょっと前まで学生だった自分には、堅苦し過ぎると感じて、親しい人こそ「すいません」と「ごめん」を多用していた。
 
「すいません」という言葉はとても便利で、「ありがとう」という感謝の意味の時も、謝るための「ごめんなさい」の時も流用できると思っていた。とりあえず「すいません」と言っておけば万事事足りると思っていた。
ミスをして謝るときはもちろん、後輩に用事を頼むとき「すいませんけど、これやってください」。やってもらったら「すいません」。
さかのぼって高校時代は、「ごめん」の乱用だ。友人に体操着を借りに行って「ごめん貸してくれる?」。返すときにも「ごめんねー」。ファストフード店へ行って、席を取ってもらったら「あーごめん」。何かを頼むときや、やってもらったときに、罪悪感を感じていたのだろうか。お礼を述べる場面は、悪いことをしていないのだから、謝る必要などないのに「ごめん」を連発していたような気がする。もしかしたら、私はおっちょこちょいで、謝る場面が多かったのかもしれないが。
 
その就職した当時の先輩は、本当に頻繁に「ありがとう」と言っていた。絶対に「すみません」とは言わない。後輩であり部下でもあった私に対して、仕事の業務を遂行しただけで、いつも「ありがとう」というのだ。何気なく手伝ったとき、何かを報告したとき、さまざまな場面で「ありがとう」と言ってくれる。最初は、お礼を言われるほどでもないことに、抵抗を感じていた。だが、その一言はとても嬉しく感じたし、仕事のモチベーションも素晴らしく上げてくれるのだ。
私もそれにならって頻繁に、友人や、後輩、家族にも、「ありがとう」を多く言うようになっていった。
意外な場面で「ありがとう」と言ってくれる人もいる。
洋服の販売をしていたときのこと。こちらは販売する側なので、お買い上げ、または、お店にご来店していただいたことに感謝を込めて「ありがとうございます」を言うのは当然のことだ。だが、お客様の中に、私たち販売員に対して「ありがとう」と言う人がいる。
そう言う人は、購入時に「これいただいていくわ」、帰り際に「ありがとう」と言って去っていく。まるで「買わせてもらった」かのような謙虚な言動だ。
もちろん、接客や、コーディネートのアドバイスなどに対する感謝の意でもあるとは思う。私たちのサービスにとても満足していただいた証、何より販売員冥利に尽きる瞬間でもある。これからも色々なお客様に今まで以上のサービスができ人になろう、と励みになり元気をもらえる瞬間だ。
 
さて、先日とある役所で、2階の窓口へ直接いくか、先に1階で番号札の発券機を利用して受付を済ませるかを、確かめようとしたときのこと。受付には2人の係員に、2人の客。すぐに順番が回ってくるだろうと思い、並んで待つことにした。だが、案外手間取ったり話が長引いたりと時間がかっている。私の後に、数人ほど列ができていた。私は、短い要件なので、割り込んで「どっちでしたっけ? 」と尋ねようかと迷う。ちょっとだけ待つことに、イライラしてきたとき、ようやく順番が回ってきた。
女性係員が、私に呼びかけるように言う。
「お並びいただきまして、ありがとうございます」
「お並び?ありがとう?」
と心の中で一瞬、私は要件を忘れてしまうほどポカンとしてしまった。客商売なら「お待たせいたしました」と言うことが多い場面だろう。病院や銀行など、待つのが恒常的なところでは、長く待っていても「お待たせしました」と言ってくれるところが少ないような気がする。それなのに、「ありがとうございました」を言われるとは。
2階の窓口に直接いくことを確かめ、教えてくれたことに、礼を言ってその場を去ろうとした瞬間、もう一度彼女は言った。
「あの、本当にお並びいただきまして、ありがとうございました」と。
並ぶのって当たり前なのじゃないのかしら、そんなに慇懃にならなくても、と思いながら2階へ向かう。たまたま今日は、私の後ろの人たちもお行儀よく列を作って並んでいたが、割り込む人や、並ばない人同士で、順番争いなんてことでも起こっているのだろうか。
「お待たせして申し訳ありません」とお詫びをすることと、「お並び(お待ち)いただいてありがとうございます」と感謝すること。果たしてどちらが、良い効果をもたらすのだろう。長いこと仕事では、お客様に、お詫び優先の言葉を多く使ってきたような気がした。もちろん場面で、使い分けが必要だ。彼女の言葉は、私の心を少し温かくしてくれた。これからも「ありがとう」を多く言う人でありたいと思いながら、窓口を後にした。

 
 
 
 
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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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